塩と竜
「こちら側は・・・乾いているというか岩が多いな」
「岩石地帯みたいですね」
フリッツさんのぼやきに答える。南側を出て林を抜けた先は岩石地帯だった。植物も少なく、坂が多くて森とは違う意味で歩くのが大変だ。たまに歩くどころか上ったり降りる必要がある場所もあるくらいだ。志乃は早々にバテたので俺が背負っている。まだ息荒いし。
「志乃、ゆっくり呼吸したほうが楽になるぞ?」
「・・・んっ・・・はっ・・・はっ・・・」
というか、何だその呼吸は蠱惑的な息遣いだなおい!変な気分になるから、早く回復してくれ!
「たつくん、この辺植物ないから暇~一応鉱石も調べてるけど石ばっかだよ~」
「石は石で資材として使えるんだぞサカグチ」
「そうなの?ウォルさん?」
「あぁ大工としてはこれだけの石はありがたい、町からもそれなりに近いしな」
そりゃ大工さんには嬉しいことだろうけど、調査団側からすると全く嬉しくない。俺と優奈、それにウォルさんと冬華以外は息切れしはじめてる。蒼でさえバテている状態だ。それでも雪を乗せてやってるけど。
「ふぅ・・・カーム大丈夫か?今日の野営場所見つけられそうか?」
「な、何ともいえません・・・はぁはぁ、湧き水とかが一切見当たらないので、もうそこらで野営してもいいかもしれません」
カームさんも森とはかってが違うのか、元気がない。いや、冬華はともかく優奈はどんだけ体力あるんだよ。
結局岩場を抜けられなかったので、ある程度の広さを確保できる場所で野営することになった。
「たつくんどうしよう拾おうにも植物生えてないよ?」
「第二役立たず組結成だな」
「チチチ」「ガルル」
仕方ないので、テント組に混ぜてもらって仕事をする。ってうん?何か・・・”嗅覚強化”塩の匂いというか潮くさい?あれ海近いのか?
「ガル?」
蒼も何か違和感に気付いたらしい、俺と同じ方向を見ている。
「たつくんどうしたの?」
「何か・・・潮くさいんだが、優奈は感じ取れるか?」
「そういわれても、雨のせいかジメジメしてるなぁくらいとしか」
「ちょっと見てくるか、優奈はテント組のところにいてくれ」
「いってらっしゃい~アオちゃんもいくの?」
「グル!」
蒼をつれて匂いの方へ。
匂いの元を辿るとどんどん匂いが強くなっていくのがわかる。海が近いのか?いや、それにしたって波音とか特有の粘っこい風がないんだけど。
しばらく進むと突然岩石地帯が終わり、唐突に洞窟・・・崖とかに出来たタイプじゃなく下に潜っていく洞窟が目の前に現れた。どうやらその中から塩の匂いがするようだ。
「どうするか・・・俺達だけで入ってみるか・・・いや、一旦戻るか。蒼戻るよ」
「グルル」
「乗れって?お前疲れてるだろ・・・わかったわかった」
蒼に乗って野営地に戻る。
「あ、たつくんお帰り~海あったの?」
優奈が話しかけてきたが、海に反応したフリッツさんとウォルさんがこっちに突撃してきた。
「キサラギ!海を見つけたのか!?」
「いやいやいや落ち着いて」
「どうなんだ!キサラギ!」
顔近い!怖い!むさくるしい!
「海は見つけてませんよ、ただ塩の匂いがするから蒼と場所を探してきたんです!近い!」
「む・・・なんだそうなのか・・・それでその場所は見つけたのか?」
何とかフリッツさんを引き剥がす・・・ただでさえジメジメしてるんだから、くっつかないでくれ。
「匂いの発生源は洞窟ってのは確認できました。そこが海に繋がっているか、それとも岩塩かはわかりませんけど」
「なるほど・・・今日はもう日が暮れる、そこの調査は明日にするか。場所は覚えているのか?」
「あっちに真っ直ぐ行けばいいですし、俺と蒼は匂いで探せますから大丈夫ですよ」
蒼にはさすがに勝てないけど・・・いや2重かけしたらもしかしたら?鼻が曲がりそうだからやらないけど。
「どちらにせよ塩は助かる・・・いや、明日になればわかることか」
「えーっとタダカツだったか?どうした?」
「黄色のバケツってことは要警戒じゃなかったか?」
今日の見張りは3番目で俺とレイクさんだ。レイクさんは意外と・・・失礼か、普通に真面目に仕事はするみたいだな、減らず口が多いだけで。で、まぁレイクさんと雑談しながら火を見ていたんだけど、ワニの槍持ちタダカツがやってきて黄色のバケツを叩いた。
「とりあえず・・・行ってみるか、レイクさん何かあったらすぐに皆起こしてくださいね。ベンケイはここで待機な」
”思考加速””反応強化””腕力強化””脚力強化””身体頑強””気配察知”
両盾持ちのベンケイが頷くのを確認してタダカツの先導で・・・うん?洞窟があるほうだな。
その洞窟手前でヨシテルとムサシが何やら地面を見つめている。
「どうしたお前ら?見たところ・・・襲撃とかではないみたいだけど」
ヨシテルが地面を指差すので・・・いや暗くて見えないんだけど・・・”視力強化”だめか・・・”夜目変化”お、これなら見える。えっと?「足跡か?」頷くタダカツ。ふむ・・・普通の足跡だな、てかこれって俺の足跡だったりしないよな?タダカツに聞いてみると首を振って別の場所を指差した。あぁそっちに俺のがあるのを確認はしているのか。なら・・・いや、待て・・・俺の足跡と勘違いしたってことは
、もう一度よくみる。これってスニーカーとかの足跡か・・・独特な模様だからな。
「俺達と同じ地球人か・・・もしくは、異世界人が地球の靴を手に入れたかどちらかか」
可能性としてはどっちもあるから何ともいえないけど・・・雨が降ったからなここ2日ほどで出来たと見て間違いないだろう、ちょうどぬかるんでいたから足跡がくっきり残っているわけだし。乾いてるところは痕跡は残りづらい。
「これって他にも見つけたか?」
首を振るタダカツ、ここだけか・・・。これだけだと何ともいえないな。”気配察知 強””範囲強化””範囲強化”・・・うん、野営地がギリギリ入るところまで感知できるけど、特に生命体はいないな。
「わかった、とりあえずもうすぐ朝だし、警戒を強くしておこう。3匹とも野営地に戻るよ。巡回はもういいから」
さすがに人形に人はつけないが匹でも話してると違和感感じるな・・・いや、俺から一方的に話てるわけだけど。とにかく野営地に戻り、レイクさんに足跡のことを伝えて朝になるまで警戒を強めた。
― 洞窟 ―
「あららら、相当怒ってないかあれ?」
「本当だね、何であんな怒ってるんだろう?」
「「不思議だね~」」
そう会話をしながら二人は逃げ続ける。活発そうな印象を受ける方の歳は15といったところか、ショートヘアで、150cmほどの背丈で背中にはリュックを背負っている。もう一人は活発そうな子と瓜二つな顔をしているにも関わらず、どこか冷めた印象を与える。こちらも150cmほどの背丈でリュックを背負っている。
暢気な会話をしてる割には二人とも高速で動き続けている。活発そうな子は宙に浮いている。加速はマチマチだし、上下に大きく動いているが宙を浮いて移動していることは確かだ。もう片方も普通の移動ではない。こちらは地面に足がついているものの走るといった動作をしていない。まるで地面の方が勝手に移動してるかのように勝手に高速移動している。しかも凸凹している洞窟内でも問題ないようだ。
そんな二人は赤黒い岩塩がいっぱいある洞窟に入ってから丸一日ほど・・・その丸一日で何があったのか、わき目もふらずに出口へと疾走・・・いや、移動しているのだ。
その二人が通った後をこれまた異形の怪物・・・美しくも硬そうな白い鱗と見るだけで力強さと強靭さがわかる太い四肢、身体中に白い柱が立ち、太い首の上には大きな口を供えた顔がありその頭には3本の角が、3股にわかれた角があり、中央の一本は1mはあるだろうか。見る人が見れば竜とわかる造形だ。さらに詳しいことを知っているものならば地竜と判断するだろう。しかし、地竜と判断するのなら色がおかしいと首を傾げるかもしれない、もしくは水晶竜と判断するかもしれない。その竜は塩が好物でここに住んでいた。言うならば塩竜とでも言えばいいのだろうか。
塩竜はいきなり自分の住処に現れて、勝手に人の食料を奪い始めた二人に怒っているようだ。件の二人は何で怒っているのかは理解出来なかったが、怒って追いかけられてるのは理解しているから逃げている。戦ってもいいが、洞窟内では崩れる心配があるため一旦外に出ることに決めたようだ。
「うーん、全然引き離せないね・・・やっぱ退治しないと駄目なのかな?」
「竜とかカッコイイのに遭遇出来たのに、しかも白とかレアじゃないか?」
「「ペットにしたい」」
おちょくってることがわかったのか、塩竜の速度があがる。どちらにしろ出口はすぐそこなので、二人としては今更速度をあげる気はないらしい。出口直前で追いつきかけた塩竜に活発な方が突然慣性もなしに停止し、塩竜に向き直り背中から何かを噴出し加速すると両足でドロップキックをかました。
パンッと軽い音とは裏腹に塩竜は背中に受けた衝撃で地面にめり込んで、勢いを殺しながら地面を削り滑る。その間に二人は外に出て行った。
「どうしよっか?こと姉に頼まれた塩は見つけたけど・・・海じゃなかったけど大丈夫だよね?」
「塩なら何でもいいんじゃないか?あ、これ食べられない塩だったらどうしよう?」
「「とりあえず持って帰ればいいよね?」」
といっても二人の目的を果たすにはこの塩竜が邪魔になる。
「倒すしかないかな?ペットにすれば塩持って行くのも楽だと思うんだけど」
「うーん殴って言うこと聞くようになるとは思えないよ?」
「「お座りから教えないとね」」
ようやく出てきた塩竜が二人を見て激昂する。
「グギャアアアアアアアアアアア!」
獣ならその咆哮だけで逃げ出すような声と威圧を受けても二人は平然と・・・いや、うるさかったのか耳をおさえている。咆哮がやんだあと活発な方は上空に飛んでいき。冷めた方は地面を滑るように移動し二人とも同じタイミングで
「「うるさい!」」
塩竜を攻撃した。
「グギャアアア!?」
上からの攻撃で背中の柱が何本か折られ、下からは顔を打ち上げられる、塩竜は困惑した。自分より小さなものが理解不能な軌道で攻撃してきて、あまつさえ背中の柱を折られたのだ。困惑が徐々に怒りに変わり、段々と体色が赤く変わっていく。
「あれ?何か赤くなってない?」
「怒りモードとか?あっちの方が竜っぽいね」
「「カッコイイ」」
白い部分は頭の角、中央の一本だけで体色が全て赤くなった塩竜。背中にあった柱も溶け体に吸い込まれるかのように消えた。自身の変化が完了すると塩竜は姿を消した。
「っぐわ!?」
「彼方!?」
冷めた方の目の前に突然現れた塩竜は前足で吹き飛ばす。相方が吹き飛ばされたのに怒り、活発な方が攻撃をしかけるようだ。相方の安否は気にしてないようだ。
「よくも彼方を!彼方の仇!」
相変わらず宙に不安定なまま浮いていた活発な方は身体を丸め足は伸ばしつま先から何かを吹き出し、その勢いで回転しながら塩竜の頭へ前宙の勢いで踵を叩きつける。
しかし、塩竜はすでにそこにおらず、踵は地面に叩きつけられ・・・いや、地面をへこませたものの直接は踵がついてはいない。直前に踵から何かを噴出したようだ。
「また消えた!?」
「遥危ない!」
着地した活発な方、遥のすぐ隣に現れた塩竜は冷めた方、彼方が放った右掌底により左に弾かれた。彼方の方も手が直接触れたわけではなく、別のものが塩竜の身体を攻撃していた。
弾かれた塩竜は警戒したのか、一旦姿を消した。消したと言っているが、塩竜は地面の色と同化しているので、目を凝らせば見えるが・・・連日の雨により地面が凸凹しているせいもあって見極めづらくなっている。
「透明になってるわけじゃないみたいだね」
「このあたりが赤茶色をしてるから見えづらいだけか」
「「ずるい!」」
生まれたばかりといえ塩竜は竜だ、そこらの人よりは知恵はある今は知識がないだけだ。それでも二人の現象が常識的でないことに気付き、様子を見ることにした。様子を見るといっても岩を投げつけながらだが。
「とっ!岩を飛ばしてくるときは見えるけど!ほっ!」
「うーん、ふっ!これじゃぁ近づけないね!はっ!」
「「どうする?」」
遥は時に避け時に岩を壊し、彼方は飛んできた岩を全て横に上に弾いていく。岩の大きさは1mもあるにも関わらず、大した力を込めてる様子が二人にはない。
岩に対処しながら近づこうかと思ったが、一定の距離まで近づくと身を隠すことに専念され。また岩攻撃が始まる。竜の体力が見た目通りなら先にバテるのは自分達の方だと遥も彼方も気付いているが、状況をどうにかする手が思いつかない。
「これは・・・キリがないね、よっ!」
「ふんっ!っと、う~んあいつこっちに来ないね」
「「逃げよっか」」
一旦逃げることにした二人は逆に塩竜から距離をとり始める。が、塩竜も岩を投げながら近づいてくるので思うように距離が離せない。そして、二人は気付く。
「あれ?か、彼方やばいよ!」
「本当だ!?どうしよう?」
「「後ろ塞がれてる!?」」
いつの間に出来たのか、岩が赤黒い塩に固定され二人の逃げ道をふさぐように壁が出来ている。塩竜は岩を投げつつ自身の塩を操る能力で壁を作っていったのだ、赤黒い壁の中にはいくつもの投げられた岩が入っており、怖そうにも厚い。なら飛んでいけばいいと思うも、遥はともかく彼方では時間がかかってしまう。そして遥は彼方を見捨てるつもりはないし彼方もそうだ。
「グガアアアアア!」
二人を追い詰めたと確信したのか、体色を白に戻し塩竜は二人に突進する。
「よ、避けられるかな?」
「速さはともかく、場所が狭いね」
「「あれ?意外とピンチ?」」
本当にピンチと理解しているのか、二人には焦りの表情はなく突進する塩竜を見つめる。ちょうど自動車が突っ込んでくるような感じだ。
先に彼方が前に出た。どうやら能力で弾くつもりらしい、遥はそれを見て彼方の右後ろに立つ。
「彼方が左に弾いて」
「遥が僕を抱えて右に跳ぶ」
「「いくよ!」」
彼方が塩竜の突進にあわせて両手を突き出し角に手が触れる瞬間左に弾く、が勢いに負けたのか左腕を切り裂かれてしまう。しかも弾いたわいいが、少し逸らした程度では竜の巨体を全て回避しきれない、その彼方の腰を抱えて遥が足から何かを噴出し右に飛ぼうとするも、竜の左手が迫ってることに気付き飛びながら自分の背中で彼方を守る。
結果彼方は左腕を切り裂かれ、遥はリュックが切り裂かれ背中を大きく傷つけられてしまう。
塩竜は勢いのまま自信が作った壁に激突し、壁は耐え切れず崩壊していった。塩竜を巻き込んで。
「・・・彼方背中痛い・・・」
「僕も左腕痛い・・・」
「「竜はやったかな?」」
彼方の左腕はともかく、遥の背中は肉もいくらか抉られている、リュックが守ってくれたのか幸い神経や背骨を傷つけなかったのか、痛みだけで済んでいるが出血量が危険だ。彼方も遥も自分たちの傷が致命傷に近いものであると感覚でわかったのか、泣きそうだ。これだけの傷を負って泣いてないのがむしろ不思議なくらいだろう。
治療しようにも救急箱は遥のリュックに入っていたし、今は竜と一緒に岩に埋もれている。いや、救急箱程度で遥の治療も彼方の腕も治療が出来るとは思えない。
それに
「グガアアアアアアアア!!!」
塩竜は岩程度じゃ潰されてくれなかったらしい、むしろさらに怒らせる結果となったのか、身体から湯気だろうか、塩が溶けたのかさらに身体を変化させはじめている。
しばらく、二人を睨みつけ身体の変化を待っていたが、溶けた塩が両肩に角のようなものを生やし、体色が赤黒くなった。
「白かったり赤かったり黒かったり」
「忙しい竜だね、そもそも何で色が変わるのさ」
「「カメレオン?」」
塩竜は二人が動かないのを見て弄り殺そうとでもいうのか、動きを止め・・・いや、二人の後ろを見つめている。
出欠で朦朧としてきた二人の頭でも竜の様子に違和感を感じ、後ろを見ていることに気付いて自分達の後ろを見やる。
自分達の後ろには4匹のワニが立っていた・・・ワニって立つの?と思うが、鎧みたいなものを着てそれぞれ武器を持っているが、あの独特な顔はワニでしかないだろう。
「死神ってワニさんの姿してるのかな?」
「誰も鎌持ってないけどね?」
「「でもカワイイね」」
「その子達可愛いっていえるなら美香と友達になれるんじゃないか?お前ら」
声が前から聞こえる、慌てて前も見れば、さっきまでいなかったはずなのにTシャツとジーンズといったこの寒いのに寒そうな格好をしている男の・・・青年だろうか、子供と大人の中間みたいな感じの男性が自分達を見下ろしている。片手には黒い・・・凸凹した剣を持っている。
「・・・お兄さん寒くないの?」
「見てるこっちが寒くなるよ?」
「「というか、誰?」」
「あ~、まぁ説明は後で言うし、聞くからとりあえず優奈治療頑張れよ?冬華は治療が終わるまでは念の為ついてやってくれ、終わったら援護出来そうなら頼む。じゃぁタダカツ二人は任せるぞ?」
「わかったよ!って、凄い傷だよ!?」
「ん、とりあえず向こうに運ぶ・・・異空間使う」
「タダカツそっとよ?大分出血がひどいけど・・・大丈夫かしら」
「ヂヂヂ!」
騒がしいと思ったら竜ですよ竜・・・何か赤黒いけど、カッコイイな!だけどまぁ
「とりあえず、八つ当たりにはつきあってやるよ」
「グガアアアアアアアアアアア!」
やったー!戦闘だー!




