向こう岸に渡る?
俺と志乃が野営地に戻るとすぐさまチビ助と犬っころが擦り寄ってきた。
「ヂヂヂヂヂ!」
まだ終わってませんよ!と言ってるようだが、2人はもうわかったよ!とでもいうように俺の影に隠れる。
どちらかというと俺もシリウス寄りでもうちょい説教する必要があると思うんだが、2人の様子を見てシリウスに肩を竦めて見せる。
「ヂヂヂ・・・」
全くとでも言うように嘆息した後、朝食の準備いくようだ。
「チチチ」「ガルル」
影からシリウスを見ていた2人は離れたのを見て影から出てきた。
適当に座り準備が終わるのを待ってると2人とも寄って来たので、まだ乾ききってない体を拭いてやる。
「まぁ、絞られたようだから俺からは言わないけど、勝手に動くなよ?俺も心配したんだからな?」
「チチ」「ガル」
ごめんなさいとでも言うように頭を垂れるので、苦笑しつつ撫でてやる。
騒ぎを聞きつけたのか、フリッツさんとウォルさんが俺の所にきた。
「キサラギ何があった?」
2人を撫でつつ経緯を説明する。
「魚に手足か、また奇妙な生物がいるものだな」
「そうなると川を渡るのは危険じゃないか?フリッツ」
「そうだな、キサラギとシリウスが瞬殺出来るとしても水の上では対応が難しいな」
異空間のカードを切るつもりはないので、話の推移を見守る。
そこへカームさんとケイも加わった。
「魚人!?そんなやつまでいるのかよ!」
「そこは問題じゃないケイ、問題は川を渡るのが困難になったということだ」
「あぁ町としても向こう側に行く必要が出た時に困るからな」
「橋を作ろうにも過程で襲撃の警戒やその後の警備にも人が必要になるな」
尚更異空間を見せても仕方ないな、繋げっぱなしは出来ないし。橋渡しのために志乃を置いておく訳にもいかない。
結局川の向こうに行くのは一旦諦めて川を下って町に一度戻ることになった。
「良かったの達也?異空間使えば行けたと思うけど」
「川向こうの調査を俺達だけに依頼されたらやったかもしれないけど、志乃の負担になるから公開はしないぞ」
「ん、私はかまわない」
「下手すりゃ志乃はこの町でお別れになるかもよ?」
「ん、かまう、教えない」
「考えすぎじゃない?達也がいてそれはないと思うけど」
「欲の為なら何でもするのが人間だからな、用心に越したことは無い」
「まぁリーダーの意見に従うわよ」
「たつくんは過保護だね~」
志乃が町の為に私は生きる!とか言うなら止めはしないぞ。涙を飲んでお別れする。
「ん、やだ」
そんなことを移動中話していると、前方のフリッツさん達が足を止めた。どうやらここで昼休憩を取るみたいだ。周りを見れば、昨日昼休憩を取った場所と同じところか。
フリッツさんに今後の予定を聞いてみる。
「帰りの日程多めに取りましたけど、このまま寄り道せずに一旦戻る感じですか?」
「あぁ川があるせいでそうせざるを得ないな西側は改めて調査に出るから、今向う必要も無い。余裕はあるが無くす必要も無いだろ」
確かに、もう少しいけるかな?で全滅してアチャーッで済ませられないからな。その考え方には賛成できる。川が北から西に続いているから特に寄り道できる場所は無い。強いて言えば川に沿って西側に寄り道できるが2回目3回目でどうせ立ち寄ることになるしな。
「となると、明日くらいには町につく予定ですかね」
「あぁ町の西側につくのはそのくらいだろうな」
北から出て西に帰る。収穫はなしっと。まぁ期待するのは自由といったところか。
「それに川も少し調査したいからな」
「というと?」
「雨による氾濫の危険性とかだな、それはウォルが調べる」
聞けばウォルさんは町の大工の次期棟梁とのことだ。今の棟梁は元気ではあるが結構な老人なので、ウォルさんが調査をすることになっていたらしい。
そういう情報を聞いてなかったのは俺のミスだな。ちなみにオルトとレイクも秘密の任務を負ってるのかと聞いたが、あいつらは何でついて来たのかわからんと言われた。生きろ。
「川の氾濫を調べるってことはあのカーブをしてる所で調査ですか?」
俺が聞くとウォルさんが答えてくれた。
「あぁ、雨が降って増水した場合。あそこが一番危険だと思うからな」
あの辺り特に湿地帯にはなってなかったけど、世界が出来たばかりだからな。雨が降ったらあの一帯が湿地帯になると言われても不思議じゃないか。
話を終えて、俺も薪拾いにいく。小まめに集めて置けば自分達が使うときにも便利だからな。異次元ボックスにいくらでも入るし。乾かすことが出来ないのが難点だけど。
「う~ん、たつくんが持ってくるのはダメダメだね!何か知らないけど、中身がスカスカだったり、実は化石みたいに固かったり。何かもうダメダメだね!」
「チチチ」「ガルル」
「ぐふぅ」
サバイバル生活に関して一番約に立たないのは俺なようだ。オルトとレイクでさえシリウスのお供で動き回っているというのに。
「チチチ」「グルル」
二人が慰める様に擦り寄ってくるが、大人気なく振り払った俺は木を切り倒すことにした。
「え、何で!?」
優奈が驚いているが、つまり木を倒す→切り分ける→乾かす→薪!俺はやった!な予定だ。
「でも町の近くならともかく乾かせないよ?ルッドさん家に置くの?どちらにせよ今は使えないよ?」
「ぐはぁ」
結局薪拾いの時は警戒と採集任務につくことになった。優奈の優しさが目に沁みる。
採集にも手順があるらしく、土ごと採取するものもあれば、葉だけ採集したりなどと指導を受けながら採集していく。
「ん、たつお魚焼いた食べる」
熱中しすぎてたせいか、志乃に声を掛けられるまで接近に気づけなかった。
お魚って昨日のか、そういや楽しみにしてたな。志乃が急かすので手を繋いで落ち着かせて薪を異次元ボックスに収納して休憩場所へ戻る。
休憩所に近づくにつれ魚の焼けるいい匂いがしてくる、この世界初の魚に俺も期待が隠せない。
木の棒で串刺しにされた肴が12本並んでいる。
「ん?12本?」
疑問の声を出した俺に美香が大皿を持ちながら言った。
「赤身の方はステーキにしてみたわ、これはシリウスさんでいいかしらね」
シリウスが頷いたので皆で試食する。
「うむ、香辛料と塩の加減が絶妙だな、さすがノザキ」
「これは酒が進みそうだな」
フリッツさんとウォルさんが褒め。
「これは、美味しい素材を殺さずに味付けだけでこれとは・・・さすがです」
「ミカの姉貴すげえな!町の誰よりも料理上手なんじゃね?」
カームさんとケイがべた褒めし。
「久しぶりの魚だね」
「ん、美味しい」
俺達地球組もそれぞれ感想をもらす。
「おぉこりゃうめえ!」
「ノザキは美人だし旦那には困らなそうだな!」
一番美香が反応したのがオルトとレイクの言葉だったのには俺は見ない振りをした。
シリウス専用の赤身ステーキも美味しそうだったが、妹の世話に忙しそうだった。
「チチチ」「ガフガフ」
あぁほら、もうちょい落ち着いて食べろよ皿から飛び出てるぞ。
昼休憩を終えてからの移動も特に問題なく、川がカーブしてる部分についた。といっても夕暮れになりかけているので、野営の準備をする。
「着いたはいいが、調査は明日だな。ウォルそれでいいか?」
「あぁ問題ない、調査といっても日数が必要だからな。ほとんど下見だ」
「それもそうか」
フリッツとウォルはテントを建てながら話し合う。そもそも機材を持ってきているとはいえ、アルランの水準では経験則によるものが大きい。地球みたいに機械はないのだ。
「兄貴達だったら簡単に調べてくれるんじゃね?」
ケイは達也達なら何でも出来ると思っているらしい。いや、確かに優奈なら何か出来そうではある。まぁ優奈が測量だとか地形の安全基準に興味を持つかが問題だが。ギルドに発足に役立つといえば役立つし交渉という名の説得をすれば、何とかなりそうではある。
「それにミカさんのワニ君達なら水の中を調べられるかもしれませんよ、もともとワニというのは水陸両用生物らしいです。ミカさんの世界では」
カームは自分でも気づいてはいないが、美香が好きなのである。ことあるごとに手伝いを申し入れたり細かい気配りをかかさない。だが、美香の心が達也に傾いているのは自身も感じているからか、踏み込むつもりはないようだ。修羅場は回避されたのである。
「ところでオルトとレイクはどこいった?またシリウスの手伝いか?」
だいたい整ってきたあたりでふとフリッツが二人の存在を思い出し、周りを見回す。終わりまで思い出されないのが不憫である。
「あー、シリウスの姉御が引き連れていったから多分川じゃね?美味かったし」
「それは、楽しみだ」
フリッツとウォルとしては酒を飲みたくなる焼き魚だったが、安全がある程度確保されているならともかく、開拓中とあってはそれも難しい。そもそも今年の造酒所は稼動しているのだろうか?作物は安定して取れたから酒好きの町長とデニスのことだ、問題はないだろうとは思うがと、少し心配になるフリッツとウォル。
「お、おいシリウスだったか?まだ獲るのかよ!?」
「川の魚獲り尽くすつもりか!?」
「ヂヂヂヂヂ!」
川の中に入ったシリウスが腕を振るたび魚が飛んで来る、それを器用にキャッチする二人も二人である。ケイの言った通り、オルトとレイクはシリウスに連れ出され魚獲りの助手をさせられていた。
シリウスとしては可愛がっている妹と志乃が気に入ってることもあるし、最近仲間になった狼のことも考えてたくさん獲っておこうと考えたのだ。
「待ってくれ!もう持てねえよ!」
「これ以上は無駄になるぞ!?」
二人の叫びにようやく動きを止めるシリウス。二人の方を見れば、顔が見えないほどの魚を抱えている。あれでよく一匹も落とさなかったものだとシリウスは感心した。
50匹は獲っただろうか。二人が止めなくても付近に獲れる魚はいなくなってしまったので、陸にあがるしかない、潜っていいならもっと獲れそうだが、達也なしでは危険と判断しシリウスは今日はこれでお終いにすることにした。今日はお終いだ。
「ヂヂヂヂ」
「ちょ、待てって、重いんだからよ」
「う、鱗がいてえ!前に進んでるよなこれ!?」
文句は言うが、シリウスに持ってくれと頼まないあたり結構この二人組み紳士なのかもしれない。へたれだが。
「あのねぇ・・・持ってくるのはいいけど、さばくのは私よ?後カームさんよ?」
「ま、まぁミカさんせっかく獲ってくれたのですから、シノさんのボックスも空きがあるのですよね?」
「あるにはあるけど、何でもかんでも入れるわけにはいかないのよ?」
帰ってきた3人を見るなり目を輝かせるちびっ子組を尻目に調理担当からは不満の声が漏れる。まぁ50匹とか二人でさばけとか、どこの料理屋だという話だ。
達也としても凄いとは思うが、やり過ぎたなこれはという感想しかない。むしろ二人で持っているオルトとレイクに一番感心させられたくらいだ。
「ほぇ~、よく歩けるねあれで」
「人間の奇跡ってやつだな」
優奈も持っていることに感心していて魚の量には注意を払っていない。結局喜んだのは酒飲み二人とちびっ子三人だったようだ。それでもシリウスてきには満足だったらしい。魚をさばくのを手伝わされて泣きそうになってはいたが。
「ほら!手がとまってる!ちゃんとワタとらないと後で面倒なのよ!」
「ミカさん俺のは終わりました。シリウスさんのを手伝いますね」
「ヂヂヂヂ」
三人を見やりながら達也としては、魚臭さでテントが凄いことになりそうだと、不安を抱いていた。




