死屍累々
―― 坂口優奈 ――
「・・・はぁ・・・はぁ」
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
みっちゃんと一緒になって息を整える、一緒に走ってた人は皆似たりよったりだ。
私達の班はそもそもの体力が足りなそうだから、体力作りからだそうだ。
この世界に来てからマラソンは初めてやったな・・・私は運動がそれほど苦手ではないけど、体力はそんなにないみたい。
走らせる理由はもう一つあって、何でも力が入りすぎると出来ないらしいから走り込みである程度体から力を出せないようにする必要があるらしい・・・ってリス族の隣でルッドおじさんが説明してくれた。
ルッドおじさんとカームさんは必要に応じて通訳で5つの班を回っているみたい・・・大変そう。
私は午後には薬師のお婆ちゃんの所に行くから今のうちに頑張ろう。
「次は二人一組で息を整えつつ柔軟をしろだそうだ」
今の通訳はカームさん、ルッドおじさんの弟子さんなんだって。
たつくんと同じくらいの歳かな?寡黙で真面目そうな人かな、時折みっちゃんを心配そうに見てるけどもしかして?
「ふぅ・・・優奈柔軟って体操のことかしら?」
「普通に屈伸とかすればいいんじゃないかな」
別に別れる必要もないのでみっちゃんと柔軟をする、まぁ周りは全員女の人だけど・・・そういう意味でもこの班なのは助かるかも。
最近のみっちゃんは焦ってるようにも見える、多分私と志乃ちゃんがレベル3の能力を持っているのにみっちゃんは持ってないからだろうな・・・けど、貢献って意味じゃみっちゃんが断トツだと思うな。
志乃ちゃんの異空間と異次元ボックスもこの上なく便利だけど、基本的にみっちゃんは何でも出来るし、頭良いし、美人だし、おっぱい・・・それなりにあるし、それにワニ君達は凄いし、おっぱいあるし!別にいいじゃん!私なんてピカーッしか出来ないよ!そりゃ・・・それでたつくん助けられたけどさぁ。
「か、体が固すぎて嫌になるわ・・・優奈押してくれる?優奈?」
「あ、うん・・・ぐい~ん」
「あいたたたたた・・・優奈は柔らかくて羨ましいわ」
体の柔らかさよりは大きさだよ!・・・私は何を考えてるの!たつくんは大きさ何て気にしないよ!多分!志乃ちゃんがオッケーなら大丈夫!
「さっきから優奈、上の空だけどどうかしたの?体調悪い?」
「え?ううん!別に何とも無いよ?それより柔軟の後何するのかな?」
「そうね・・・いきなり組み手とかは言わないと思うし・・・筋トレかしら?」
みっちゃんが言ったとおり午前は様子を見ながら体力作りを重視するみたい、午後は基本的な型を教えてくれるみたいだけど・・・後で個人練習をシリウスさんに頼もうかな・・・たつくんは怪我してるから無理だろうし。
初日だからか慎重に体力作りをする私達をリス族とたつくんが真剣な目で見てた。
時折みっちゃんが力尽きそうになるのを励ましながら昼間でひたすら筋トレをしていた。
「じゃ、俺は戻るけど・・・本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ!柳さんもいてくれるんでしょ?」
『はい、お任せください・・・ケーナをお願いします』
「ケーナも柳と一緒の方がいいと思うんだけど?」
「やー!治るまでたつにいのかんしなの!」
「ん、二人一組・・・まんつーまん?」
「何か違うような・・・まぁわかったよ柳と・・・チビ助頼んだぞ?」
「チチチ!」
『心配なさらずとも、何かきたら何かされる前に埋めますから』
「ふぉっふぉっふぉ、出来れば埋める前に婆に一言下され、それとタツヤ殿ユウナ殿はしっかり見ておりますば、どうぞ心配なさらず」
「そうですね・・・お願いします、じゃ優奈頑張れよ、夕飯前には迎えにくるから」
「うん、たつくん気をつけてね!治ってないんだから!」
たつくんに送ってもらって薬師のお婆ちゃんの家へ、護衛は柳さんがついてくれるみたい。
心配してくれるのは嬉しいけど・・・ううん、私達弱いもんねたつくんからしたら心配しすぎてもしょうがないのかな・・・心配してくれるのは嬉しいし!
一喜一憂する優奈を微笑ましそうに見ていた薬師の婆様は、落ち着いた頃に優奈に声をかけた。
「それでは始めましょうかユウナ殿」
「はい!あ、私は優奈でいいよお婆ちゃん!そういえばお婆ちゃんのお名前って何ていうの?」
「そういえば、ケーナのことで失念しておりましたな・・・それに町の住人には薬師の婆さんで通っておりましたからな」
「駄目だよ!名前は大事にしないと」
「そうじゃな・・・私はエネス、しがない薬師の婆様じゃ、改めてよろしくのうユウナ」
「うん、エネ婆ちゃんでいい?あ、エネスお師匠?」
「どちらでも構いませぬが」
ユウナはエネ婆ちゃんの時にエネスが嬉しそうな顔をしたのに気づき、エネ婆ちゃんと呼ぶことにする。
「わかった、エネ婆ちゃんよろしくお願いします!」
「そうですな、お兄さんの為にも頑張らないとのう?」
「たつくんはお兄ちゃんじゃないよ?」
「おや?そうだったのですか?あんなに三人のことを気にかけておったからてっきりそうかと・・・もしや恋人ですかな?」
エネスが聞いた途端、優菜の顔は面白いように赤くなりアタフタしはじめた、目もあっちこっちに視線が飛んでいる。
「そそそそ、そんな!こここここ、恋人じゃないよ!?違うよ!?あ、別に嫌ってわけじゃないよ!?本当だよ!?えっとそう家族みたいなもんだね!あ、じゃぁお兄ちゃんでもいいかもね!そうかも!」
「そうですか・・・いい関係を築けておるなら何よりじゃよ」
エネスには夫もいなければ弟子もいないので、優奈は初弟子になる。
町に定住するわけではないので、期間限定だが・・・それでもこの元気な少女に自分の持てる精一杯の知識を伝授しようと決意した、恋をするにしろ家族を続けるにしろ生きるには知識が必要だ、ましてや自分の知識がこの異変でどこまで通用するかはわからない・・・しかし、薬草の見つけ方や調合の仕方は教えられる・・・この少女とその仲間達には生き続けて欲しい、この一行を見てると不思議と心が暖まるのだ。今じゃ老いぼれだが、持てる全てを託したいと思えるのだ。
「えっと、エネ婆ちゃんは・・・その家族とか・・・」
「私にはそういう身内は一人もおらんのですよ」
「あ・・・えっと・・・」
「そうじゃの、謝られても困るので気にしないでおくれ」
「あう・・・その・・・じゃぁ私がエネ婆ちゃんの初弟子だね!」
「そうじゃな・・・確かにそうじゃ」
「じゃぁ初弟子は頑張るよ!もぅ粉骨精神だよ!」
「粉骨砕身じゃよ・・・では、厳しくいきますかな?」
「きび・・・あぅ・・・うん!ドンとこいだよ!」
結論からいえば、見た目の言動と子供っぽい振る舞いは彼女が場の雰囲気で合わせていたからそうしていたのではないか?とエネスが考えるほど優奈は集中力を発揮してエネスから貪欲に知識を吸収していった。
言葉遣いも相手を見ているというと悪く聞こえるが、聞いてる側が不快に感じないのであれば親近感を持ちやすく懐にも潜り込みやすいだろう、この少女は悪感情を一切持たずに人と話が出来るらしい。
薬を貰いに来たレグスの小僧なんぞ帰る時には顔真っ赤じゃったしの・・・あれは後で釘を刺しとかねば、タツヤ殿に殺される前に・・・いや、ヤナギ様がいるなら大丈夫かの。
それにしても、頭が良いのじゃな・・・勉強は嫌いだと言いながらも特定分野は凄い知識を発揮する者がおるが、ユウナはそのタイプと見える、こちらもついつい熱が入って・・・気づいた頃には調合の秘伝まで伝授しておったしの・・・初日に何をしてるんじゃ私は?まぁ1週間程あるし、伝えられるだけ伝えていこうと思う。
家の外に集まってきてる馬鹿共はどうしようかのう・・・治療終わったのならとっとと帰ってほしいのじゃが・・・ユウナの優しさを勘違いして手を出す者はおらんが、時間の問題な気がするのじゃが。
『大丈夫ですエネス様、何も起きないように私がいます、それに何かあったら後が怖いので、全力で守護します』
それはありがたい、さすがにこの歳でタツヤ殿に睨まれたらポックリ逝きそうじゃからな。
―― 訓練場 ――
力尽きた美香を膝枕しつつ介抱しながら訓練を眺める。
午後も頑張ってはいたが、美香のいた女性班は限界まで見極められて倒れたものから介抱されていった。
美香は終盤まで粘ってはいたが、さすがに力尽きたところを回収して今に至る。
「ん、あおぐ」
「たつにい、汗は拭いたから大丈夫だよね?ミカおねえちゃん」
「ミカおね~ちゃん、まだ気づかないね」
エナは最後まで生き残っていたが、誰もいなくなったのでこっちに来た。
ルッドおじさんの教育なのか、やけに身体能力高いなこの子。
「エナは疲れてないのか?」
「あのくらいなら、平気だよおに~ちゃん」
エナは明日からもう少し上の訓練参加でも・・・いや、ルッドさんが止めるか、俺も反対だわ。
女性班は全員力尽きたので終了したが、男性班は力尽きようが水ぶっ掛けられて叩き起こされて継続させられてるからな・・・鬼かあいつら。
「ぐおおおお!もぅ腕あがんねえよ!まだやんのか!?」
「ひぃ・・・ひぃ・・・あ、あしが・・・しぬぅ・・・」
「この妙な動きは何の役に立つんだ・・・?」
「ぐふ・・・ぐふふふ・・・あれが俺の目指す道・・・ぐふふ」
「おい?・・・おーい!こいつは駄目だ一旦休憩させろ!少ししたら水ぶっかけろ!」
見学者が仮脱落者の元にいき・・・運び仮休憩所で休ませる・・・あの人も少ししたら強制的に起こされるんだろうな。
「何だここは地獄か?」
「ん、しりうすが言うにはしぬきでやらないならしねだって」
「おいおい」
「ヤナギいないから回復してあげられないし・・・大丈夫かな?たつにい」
「大丈夫だろ・・・リス族の中には良識あるのいるし」
怪我に発展しそうな人は密かに回収されて俺の後ろに並べられている。
何でも、いくら族長でも俺の後ろに置いておけば何もしないという話だ。
「おに~ちゃんは最終防衛ラインだっておとうさんが言ってたよ?」
「なるほど?いやいやおかしいだろ」
といってもそろそろ優奈を迎えに行くから、防衛ラインはなくなるけどな。
「あ、兄貴・・・水を・・・水をくれ・・・」
「キサラギ殿・・・その・・・ノザキさんは大丈夫なのか?」
ケイとカームさんがやってきて片方は水を要求し、もう片方は美香の心配をしてくる。
ケイにはエナが水を飲ませてやっているので、カームさんに答える。
「大分前から気がついてはいるみたいですけど、まだ動けないのかじっとしてますね」
「そうなのか?・・・そうか・・・やはり」
俺では駄目か、と呟きは聞こえたけど・・・アタックもしてない人に同情する気はない、美香がOKしたら止める気もないし・・・というか、恥ずかしいならとっとと起き上がればいいのに・・・耳まで真っ赤になってるぞ?
「(・・・い、いつから気がついてたの?)」
「(そりゃ、起きた瞬間から?男の膝枕って気持ち悪くないか?)」
「(べ、別にそんなことないわよ!?大丈夫よ!?そのままでもいいわよ!?)」
小声で話しているから聞こえてるのは志乃とケーナくらいなもんだろうな。
志乃にしてもカームさんはどうでもいいらしく、美香を扇ぎ続けている。
ケーナは・・・ケーナも真っ赤だけどどうした?
「たつにいって・・・わるいおとこ?」
「・・・何のこっちゃ」
「ミカおねえちゃん、もてあそぶの?」
「・・・どこで覚えたのかは知らないけど、怒ったほうがいいのか、柳の仕事なのかどっちだ?」
「わわわ、だめだよ!ヤナギに言っちゃだめ!」
大体三人娘ならいくらでもからかうぞ?この世界じゃ家族何てこいつらくらいだからな。
「ん、みかそろそろおきる?ゆうなむかえ」
「あ、そうね・・・そろそろ夕食の手伝いしないと」
「ん~ぶっ倒れて動けない人の夕食は見学者がやってるみたいだから、今日は休めば?」
「私達の分はルッドさんのお家で作るわよ・・・私のじゃなくてもいいの?」
「いや、そりゃ美香の料理の方がいいが・・・疲れてんだろ」
「料理分は回復したわよ・・・ってどうしたのケーナ?エナ?」
美香が怪訝な顔で言ったので、ケーナとエナの方を向くと・・・カームさんが地面に手をつき落ち込んでおり、真っ赤になったケーナとエナがくねくねしている・・・何?
「ん、こんな外で見せつける必要はないと思う」
「え?志乃?それって・・・え!?べ、別に深い意味はないわよ!?」
「ん、どちらかというとたつが、おかしい」
「そ、そうよね!あんなことを簡単に言うんだもの!」
「・・・みかもたいして変わらない・・・たつ、ゆうなむかえにいく」
「おう、そうだな・・・シリウス達に声かけて帰るか」
シリウス姉妹に声をかけ・・・ついてくるそうだ、訓練は?ルッドさんにも声をかけたが終わるまで通訳で残るそうだ、エナを任されたので責任をもって預かる。
薬師の婆様の家に優奈を迎えに行く。
「なんだあれ?」
「ん、ぎょうれつ」
「何かしら・・・訓練の怪我人が出たのかしら?」
「わ~薬師のおばあちゃん家にいっぱい人が詰め掛けてる!」
「ヤナギ~?どうしたのこれ?」
『おや、ようやく迎えが来ましたか・・・ほら、迎えが来ましたのでユウナ様は帰ります、どきなさい』
文句を言いながらも人の群れが割れ・・・ない。
『・・・夜の帳は道を塞ぐ、帰れぬ者は彷徨い果てる”冥道迷人”』
柳が何か呟いた瞬間、人の群れに黒いモヤがかかり、バタバタと倒れていく・・・おい。
『大丈夫です、意識の迷路で彷徨ってるだけですのでその内起きます・・・さっユウナ様」
「あ、たつくんお迎え?ありがと~」
「おや、タツヤ殿・・・ユウナは中々筋がいいですよ」
「本当!?いやいやエネ婆ちゃんの教え方が上手なんだよ!」
「ふぉっふぉっふぉ・・・では、今日はここまでにしましょうかの」
「うん、ありがとうございました・・・エネ婆ちゃんご飯は一人なの?」
「そうじゃよ」
「う~ん・・・みっちゃん!」
「はいはい、大丈夫いいわよ、優奈がお世話になってるんだから」
「ありがと!エネ婆ちゃん行こう!」
「行こうと言われても・・・どこにじゃ?」
「ルッドおじさんの家でご飯一緒に食べよ?いいよねエナちゃん?」
「いいよ~おかあさんもいいって言うと思うし私もお婆ちゃんと食べたい!」
「ケーナもいい?たつにい?」
あぁどうせ一緒に泊まるとか言い出すだろうと思ったからボードルさんには前もって許可もらってるからいいけど。
「本当!?たつにいだいすき!」
「ん、それはだめ」
「え?シノおねえちゃんだめなの?」
「ん、だめ」
「なんで!?」
「だめはだめ」
『今日は賑やかになりそうですね?タツヤ様』
「ヂヂヂヂ!」
「チチチ」
いつも賑やかじゃないか?




