苦悩
「志乃?少しは食べないと駄目だぞ?今日もいっぱい働いたろ?」
「ん・・・」
「ほい、あーん」
「・・・んん」
「ちょびっとでいいから、な?あーん」
「・・・んぐ・・・むぐ・・・っ!?」
「あーうん・・・無理かぁ」
志乃が出してしまったものは優奈に任せて美香に目をやる。
「(果実ジュースあたりを作ってくるわ、本当は異次元ボックスの中にあるジュースがいいんだろうけど、今の志乃に能力使用はだめよね?)」
「(そうだな・・・じゃぁ任せるわ)」
「(わかったわ)」
美香と小声が会話してる間も志乃は自分の手・・・右腕を見続けている。
ご飯は食べさせてみるも、嘔吐してしまうし・・・さきほどは、蒸してすり潰したジャガイモに味をつけただけのやつを与えてみたけどそれもだめだった。
一応水は飲んでくれるので今日は美香が作ってる果実ジュースでどうにかするしかないだろう。
それまでは志乃の注意を変えたいので、俺も椅子に座り膝の上に乗せてから右手をそっと抑えて左腕で抱きしめておく。
幸いにも自分の右手を見つめていないと暴れるといったことはないので、そのまま美香を待つ。
ルッドおじさん達も何かを察したのか、気を配ってくれてるので助かる。
志乃は多分自分でやったことの結果に頭が追いついていないのだろう、もしくは罪悪感やら忌避感やらでごちゃごちゃになっている気がする。
そういえば、俺にそういうのはないのは何でだろうな・・・初日に怪物殺し次の日には殺人だろ?確かに20歳といえば大人で分別もついて命の尊さは知っているが・・・もしかして人格破綻者だったとか?「それは、無意識にだったけど君が自分を変化させた結果だろうね」つまり頭の中を弄くったと?「その言い方は自分で嫌になるんじゃなかったのかい?・・・あぁ天才化とかしてたものね君」やめろ!人の黒歴史を読み取るな!ってか俺の行動を監視するな!「それは嫌だよ、最近の楽しみなんだから」くそう!
ま、まぁ俺は自分で肉体改造を脳に施してしまったのか・・・「・・・たつ?」あぁうん、志乃も早く元気になろうな?
その後美香が持ってきた果実ジュースを・・・少し飲んでみたけど粒々もないが、どんだけ頑張ったのこれ?と疑問の視線を美香にやれば、なぜか美香の後から出てきたシリウスが腕をムンっと見せてきた。
女の子が腕力自慢してどうすんの?「ヂヂヂ!?」いや、いいけどさ怪力系女子として頑張れ。
とりあえずまぁシリウスの頑張ったシリウス汁を飲ませてみる。
「志乃?怪力系女子が女の子の尊厳を犠牲にして「ヂヂヂ!?」作ってくれたんだけど飲めそうか?」
「ん・・・ジュース・・・んくんく」
じーっと皆で飲んでる姿を見つめる・・・飲み干した・・・吐き出す様子はなしっと・・・安堵の空気が流れる。
「後、一杯くらい飲めるか?」
「ん・・・飲む・・・たつ」
「うん?」
「飲むから少し飲んで?」
「え?あぁうん?毒見?「ヂヂヂ!」」
もう切れたとばかりにシリウスが立ち上がったが優奈とエナ・・・チビ助も一緒になってシリウスを抑える。
「どうどうどう!たつくんは照れてるんだよ!志乃ちゃんが落ち着いたら褒めてくれるよ!」
「そだよ!おに~ちゃんはシノちゃんが心配でおかしいんだよ!」
「チチチチ、チチチチチ」
失礼なやつらめ・・・美香がついでくれた二杯目に口をつけ少し飲み、やっぱり粒々がないなと感じながらも志乃に手渡す。
志乃はわざわざコップを回して何かを探っていたが、普通に飲んでくれた。
「やるわね・・・志乃・・・やっぱり侮れないわ」
「うん?・・・なにが?」
「達也は・・・鈍くはないんでしょうけど、志乃が心配すぎて頭回ってなさそうね?」
「そりゃ心配にもなるだろ・・・飯食えないんだぞ」
只でさえ細くてスタイルに希望がないのに、将来の希望まで失ったらってアイタ!?
「たつ・・・おこるよ?」
「な、何のことかな・・・とりあえずそれ飲んだらもう寝るか?」
「ん・・・お風呂」
風呂に入る元気があるのは重畳。
しばらく美香に預けて、風呂の用意をする。
幸いというか不思議なことに井戸は使えるので、出しっぱなしのお手製檜風呂の用意を手早くやる。
「おに~ちゃん手伝うよ」
「ヂヂヂヂヂ」
おう、手伝ってくれるのはいいんだけど、ドラム缶に入れた水温めて移すだけなんだよな。
ちなみに燃料は護衛任務中も毎日せっせと集めていたので豊富にある。
この町の水準でいえば大分贅沢してる気もするが日本人の風呂好きを舐めてはいけない、ルッド夫妻にも好評であるし。
ただ
「エ、エナ?さすがにお風呂をタツヤ君と一緒はお父さん容認できないな!?」
「大丈夫だよ、おに~ちゃんは目隠しだから」
「あら・・・タツヤさんが目隠しなの?」
「へ?そりゃおに~ちゃんは見ちゃだめでしょ?」
「なるほど、タツヤさんが妥協してそうなったのね」
「おに~ちゃんは目隠しが好きなの?」
「め、目隠しプレイだと!?何て高度な!?しかも男の方がだと!?どんだけ極めているんだい君は!?」
やかましいわ!何でそこまで言われなければあかんのだ!
「おに~ちゃん?」「ヂヂヂ?」
「あ、いや何でもない・・・じゃぁ火に薪くべるのやるか?」
「うん!」「ヂヂ」
沸騰はさせないように注意して・・・してもいいけど水で冷やすときの湯気がやばい。
風呂の準備を終えて早速入ってもらう。
「ん・・・たつ頭あらって」
「どこだよ・・・あぁこれねはいはい」
別にいいんだけどさ・・・今日くらいは女の子組みだけで入ってくれない?
「駄目よ達也、今の志乃から離れちゃ、元気になるまでは付き合いなさい?助けてもらったでしょ?」
「仰る通りですね!」
「たつくん、次わたし~」
「自分でやれ!」
「おに~ちゃん私も!」
「エナも自分でやれ!」
「私は?」
「お前もか!美香!」
手探りで志乃の頭を洗いつつ「ん・・・つよい」あ、すまん・・・”気配察知”はつけとくか、位置関係がわからん、ラッキースケベなんぞいらん!あん?風呂場の外に気配がルッドさんか?やっぱりエナを連れ戻しにきたか?
「あらあら楽しそうね私も入っていいかしら?」
あんたは駄目だろう!?
「おか~さんも入るの?」
「ええ、お邪魔じゃないかしら」
「いいよ~でも次たつくんに洗ってもらうの私だからね~」
「あの・・・私達は構いませんけど「俺が構うよ!」ルッドおじさんはいいんですか?メリーさん」
「大丈夫よ美香さん、主人なら縛っておいたから」
「・・・そ、そうですか・・・(これも愛の形ってやつなのかしら・・・達也もそういうの好きなのかな?)」
何か美香のいる辺りから不穏な気配が漂ってるんだけど!?何を考えてるんだあいつは!?
一通り洗い終えてからも、天国なのか地獄なのか時間は止まらない。
「ん・・・たつ・・・手」
「はいはい、好きに触ってみていいから自分のは見るなよ?」
「ん・・・うん・・・痛い?」
「痛くないから好きにしていいぞ」
やはりというか、右腕を中心に触られる。
自分から話すまで待つか・・・それともショック療法で聞き出すか、悩むところである。
10歳なんていう自己形成真っ盛りの少女だからな・・・なるべく心に負担をかけたくないんだけど。
「(タツヤさんはシノさんの心を心配しているの?)」
「(ええ、そうですよ・・・って何で本当にメリーさん入ってるんですか!?あんた夫は!?)」
「(あら?夫に言えないようなことをしてくださるの?)」
「(しねえよ!バカいってんじゃねえよ!俺は寝取られモノは嫌いなんだよ!)」
「(何ならその目隠しとって娘ともども)」
「ふえ~いい湯だねぇ・・・ってかいつの間にかこのお風呂大きくなってるよね「優奈!」ふ、ふぇ?な、なにたつくん?」
「メリーさんをとっととあがらせろ!」
「え?え?な、なんで?」
「何でもいいわい!寝るときの左腕の優先権くれてやるからやれ!」
「らじゃー!「ちょ、ユ、ユウナさん?」たつくん命令なのです、世は非情なりなんです「待って!私の夢だったのよ?」時は金なりなんです!」
どんな夢だ!ルッドおじさんを大事にしてやれよ!
「たつ・・・うるさい」
「俺じゃなくてメリーさんに言ってくれ・・・はぁそろそろのぼせちゃうから志乃もあがりな」
「ん、わかった」
さすがに着替えとかは俺は知らん・・・皆がいなくなった後一人湯船につかりながら温まる・・・
「ふぅ生き返る・・・」
「ヂヂヂ?」
「あぁそうかもな・・・ってなんでお前がいる?」
「チチチ!」
「洗って欲しいと?「チチチ!」いいけどさ・・・お前らなら目隠しいらんか「ヂヂヂヂ!」」
取ろうとするも阻止された・・・獣に欲情はしねえっつうに・・・いや、志乃とかエナ単体だったら目隠しなしでも俺はいいと思うんだけどな・・・いや、駄目か?
シリウスを洗うのがひたすら面倒だったが、今日の褒美もあるし頑張って終わらせて、風呂も上がりとっとと寝る。
チビ助?ふにゃふにゃになるまで洗い倒してやったわ、手触り維持職人は手を抜かないのだ。
「あ~ユウナおね~ちゃんずるい」
「ふふ~ん、たつくんお墨付きでこの左腕は私の~」
「右腕は元々私のよ?残念だったわねエナ」
「ん、お腹温めてねる・・・おやすみえな」
「くっこの三人、おに~ちゃんに対してだと隙がまったくない!私はどこで寝ればいいの!?」
「エ、エナおとうさ―― ゴンッ ――タツヤさんに振られてしまったし、今日はあなた頑張りましょう?」
とっとと寝ろ!「ヂヂヂ?」寝ろ!「ヂヂ・・・」
「・・・つ・・・・たつ・・・おきて・・・」
んむ?う?志乃か?どうした?
「ん・・・といれ・・・おねがい」
うん、ちょっと待ってくれな・・・左腕を離して・・・離せ優奈「むぅ・・・これ私のぉでへへ・・・むぎゅ?・・・うう?」シリウスが剥がしてくれた、右腕は「(いってらっしゃいお兄さん?がんばってね?)」年長組みは察しがよくて助かる。
ちなみにエナとチビ助は足にしがみついていたけど、こちらは簡単に抜けた。
志乃を抱えて外へ・・・まぁトイレじゃないんだろうな。
トイレのある辺りを通り過ぎて外に出る・・・井戸の傍で抱えたまま座る。
「ん・・・?たつ?トイレ?」
「あれ?本当にトイレだった?」
「ん・・・ちがう」
「うん、だろうね」
さて・・・怖くて起きたのか眠れなくてずっと起きてたのか。
「たつ・・・うできった」
「そだな、切れちゃったな」
「ん・・・こわかった」
「腕切ったことが?」
「ちがう・・・たつしんじゃうと思った」
「あー、あれは本当に助かったんだ・・・ありがと志乃」
「ん・・・かんしょくあった」
「異空間で切ったのに感触あったのか?」
「・・・うん」
それは・・・嫌な経験すぎるな。
「レベル3になってた」
「そっか・・・ボックスは?」
「そっちはまだ・・・たつ、うではえる?」
「うん?ん~生えるかもしれないし生えないかもしれない」
「ん・・・どちらにせよきったのは私」
「そう・・・だな・・・でもさ志乃」
「うん」
「俺を助けたかったんだろ?」
「うん」
「じゃぁ俺のせいなんじゃいか?」
「・・・たつのせい?」
「うむ、俺が弱かったから志乃がやるしかなかった、つまり俺のせいなのだよ」
「・・・ちがう」
「俺が強ければ志乃が嫌な思いしなくてすんだのにな・・・ごめんな」
「ちがう!」
「お、おう?」
「たつのせいじゃない、きったのは私、やったのは私、広げて閉じたそしたら切れるのはわかってた、それでもやった、たつがしんじゃう、しんじゃうのはやだ、だからやった、たつはつよい、けどまけることもある、でもしんじゃうのはやだ、だからやった、だからだからだから・・・たつのせいじゃない」
「あーうん、無責任だった、ごめんな?」
「なんであやまるの?」
「え?あー・・・ご、ごめん?」
「むぅ・・・なんであやまるの?」
「悪かったよ・・・ありがと?」
「いみわかんない・・・けど、たつはいきてる」
「そうだな、志乃のおかげだな」
「ん・・・やっぱりお腹温めると死なない」
「くっくっく・・・そうかもな」
「むぅ・・・しんじてない」
「いやいや、信じてるからこうして生き残れたよ?」
「・・・そう」
「そうだよ」
「たつ・・・手きれたらいたい?」
「痛いだろうなぁ・・・そりゃメチャクチャ痛いとは思うぞ」
「ん・・・じゃぁあやまる」
「あの怪物に?」
「うん・・・いたくしてごめんなさいって」
「うーん・・・まぁ志乃がそうしたいんだよな?」
「ん・・・だめ?」
「駄目ってことはないぞ・・・でもこれから志乃が、まぁ出来ればそんなことないように俺も頑張るけどさ、また誰かを怪物を傷つけたりするたびに謝るのか?」
「ん・・・ん・・・わかんない」
「うむ、いっぱい悩むといい・・・あぁでもご飯は食べないと駄目だからな」
「・・・たつは?」
「うん?」
「たつはいっぱいきったりなぐったり・・・ころしたりしてる」
「あー俺は気にならないのかって?」
「うん」
「俺はそうだな・・・能力のおかげもあるけど・・・まぁ志乃達の為に頑張ることにしたからな」
「私たち?」
「うん、まぁいきなりこの世界に飛ばされて、気づいたら優奈と美香とそして志乃と一緒に生活するようになって・・・目的もなくさ迷っているうちに怪物やら人に襲われて・・・志乃達には自分を守るだけの力ないのを見て・・・俺が頑張ろうって男の子は思っちゃうんだよ」
「でも、たつまけた」
「ぐふ」
「ゆうなもぴかーってしてた」
「ぐは」
「でも・・・たつはがんばってた」
「お、おう」
「がんばると、きにならない?」
「俺の場合はそうかな?生きるためには、誰かの命を奪う機会が多いのが現状だからな」
「・・・私たちのため・・・」
「あぁいや、志乃達のせいじゃないよ?俺一人だって生きるためには自分の為にやらなきゃいけないからな」
「・・・そう」
「うむ・・・熊肉美味しかったろ?」
「・・・うん」
「ミミ・・・細っこい魔物のハンバーグは俺のために頑張って作ってくれたろ?」
「・・・がんばった」
「つまりは・・・まぁそういうことだよ」
「・・・わかんない・・・わかんない、たつ」
「うん、俺だってわかってないからな・・・ごめんな志乃」
「ん、たつはわるくない・・・わるいのは・・・わるいのは・・・」
「悪いのはまぁいないんだろうなぁ・・・皆頑張ってるんだよ」
「うん・・・わかった」
「よしよし、じゃぁ寝るか?それともお腹すいた?さっきから鳴ってるぞ?」
「・・・たつはいじわる」
「お兄ちゃんは意地悪をするものです、異次元ボックスあけてお菓子食べるか」
「うん・・・あけた」
よし、能力発動できたな・・・大丈夫かな?
夜空の下二人でお菓子を食べる。
それからベットに行きようやく志乃は安堵したのか眠った。
「お疲れ様お兄さん?」
「ヂヂヂ」
疲れてはいないけど・・・頑張ろうな「そうね」「ヂヂ」
朝まではそうないかもしれんが、明日はまた元気にお腹温めてくれな?おやすみ志乃。
「ん・・・お腹あたためる・・・たつおやすみ」
「最後の部分だけ見るとさぁ」
二日続けて何ですか手寅さん。
「志乃ちゃんが主人公だよね」
・・・。




