飛び蹴りしたら吹っ飛んだ
気づけば野原に仰向けに寝転がっていた。
とりあえず身を起こす、身体に不調はないようだが・・・ここはどこだ?
一面野原だ、遠くのほうに丘があり手前に人?っぽい何かが倒れている。
ん?人?様子を見に行ったほうがいいか・・・? 状況が把握できない現状では出来ることもないし・・・いや、考えてても仕方ないか接触してみよう。
そう結論した俺は、周りに目をやりつつ倒れている人?に駆け寄っていく。近づくにつれて倒れている人?やっぱりというかあれは人だな・・・っというか、うつ伏せだな苦しくないのか?そもそも生きているかも怪しくなってきたなぁ・・・このよくわからない状況で初めての転機が、死体ってのは勘弁願いたいが・・・。
人とわかると同時に足を速めた俺は、死体だったらSAN値減るかな?と益体のないことを考える・・・とっ?・・・こんなに足速かったか?自分の足の速さに疑問を覚えたが、倒れている人のそばについた為、頭を切り替える。
ん〜改めてよく見ても・・・まぁ人だな・・・髪は肩の辺りまであり黒髪で小柄だな、女?いやこれだけで決めつけるのもな・・・取り敢えず声を掛けてみるか。
「生きてるか?」
うん、第一声がそれってどうなのよ俺?と思いつつも様子を伺う。反応ないな・・・やっぱ死んで・・・とりあえず仰向けにするか、見てるこっちも苦しくなる。
そう決めた俺は、横に回り身体の下に手を差し込んで
「っせい!」
ちゃぶ台返しの要領でひっくり返した。外傷はないな、野原だったお陰か土とかもついていない、多少草まみれだが払えば済むだろうと、全身を見回し顔を眺める。綺麗な顔してるだろ?これ生きてるのかね?と疑問をもちつつ手を口の前にやる・・・どうやら生きてはいるようだ、改めて顔を観察してみる・・・多分女の子だろう、整った容貌の可愛らしいと言われそうな少女だ、胸とか身体のラインについては今後に期待ってところかね。
本人に聞かれたら怒られそうな事を考えつつ、さて・・・どうしたものかな、何も荷物を持ってないところから、この少女も俺と似たような状況なのだろう。
そんな状態で見知らぬ男が起こしたら、パニック起こしたりしないかね?
考えてても仕方ないんだが、放置するのも気がひけるし、もしかしたら何か有益な情報を持ってるかもしれない。
とにかく起こしてみるか
「お嬢さんおきろ」
と声をかける・・・が目を覚ます気配がない・・・そういえば、ちゃぶ台返しの衝撃でも反応なかったな。
・・・どうしよう?放置しようかなと、半ば本気で考えた時だった
「ゲズキ ジュレ ウォグス!!!」
っと丘の方から叫び声が聞こえる。聞き取れたの奇跡だなと、嫌な予感を感じつつ振り返る。
人間大の何かがこちらに敵意をむけつつ雄叫びをあげていた・・・手があって足があって二足歩行をしていて、顔もあるなら人でいいじゃないか?と思う人もいるかもしれないが。
まず目が5つはある、その時点でもう無理!と思いたいが、口は顔の横あたりまで裂けていて、髪のあるべきところは血管が浮き上がっている、服は着ておらず茶色ががった鱗と毛で全身を覆っている。
なんだ、そんなものかと、思う人もいるかもしれないが、その生物の右手には人の腕が握られていた・・・挙げ句の果てには、腕の付け根の方から咀嚼していく。
「グチュグチュ・・・」
見た目の怖さより行動の怖さのほうがヤバイと俺は初めて思い知った。
呆然と見ている間にも怪物は咀嚼を進めていき・・・手や口を血塗れにしつつも奴にとっての食事を終わらせる。
「ヴィル ヒュ ギュクス ドゥオ」
次の獲物はお前だ?とでも言ってるのかね?言葉っぽいものを喋っていることから、ある程度の知性はあるのだろう・・・厄介すぎるだろ・・・強さはわからんが出来れば全力で逃げ出したいが、相手の速さもわからないし、そばには少女も倒れてるしなぁ。
これがおっさんとかなら、囮にして逃げるんだけど、まぁ仕方ない足掻けるだけ足掻いてみよう。
様子を見る限り、今すぐに襲いかかってくる様子はないが、時間の問題だろう・・・武器は・・・素手だな・・・素手でどうしろと?運動神経はそれなりだが、格闘技の経験はないぞ?
「グギャアアアアアアア!!!」
考えている間に、先に向こうの覚悟の方が決まったようだ、雄叫びをあげつつ猛然とこっちに走ってくる。
予想よりもだいぶ遅い動きだが、膂力がそれに比例しているとは限らない、とにかく一撃をかわす事に集中する。
怪物は俺の五m手前まで来たと思ったら唐突に飛んだ、は?と思いつつも避けようとして気付く、後ろに少女がいるのだ・・・覚悟を決め迎え撃ってやる・・・左拳を握り締める―ミシッ―うん?拳からあり得ない音が聞こえるんだが・・・ええい相手は待ってくれないのだ、玉砕してやる!
相手の飛びかかりに合わせて左拳を振り上げ打ち抜く!
―ドカンッ!―
「グギャアアアアアアア!?」
怪物が九の字に吹っ飛んでいく。
同じ音でも、あれは悲鳴だなと思いつつ拳をさする、音と威力の割には拳に痛みはない赤くなってさえいない、怪物が軽いのかな?と思いつつも様子を伺う。
「グルルルル」
多少苦しそうだが、こちらを睨みつける様子には敵意しか感じられない。
打撃は効くんだ・・・よし!ラッシュだ!畳み掛けてやる!そう意気込み突撃する。
左右の拳で乱打乱打乱打!!!
「グギャ!?ッグフ!グゲエ!!」
おおう脆いなこいつ、顔は触りたくないから胴体中心だが、鱗が割れ地肌が見える、その肌もヒビだらけになってきた。
「せいっ!」
一旦引き離す為強めに殴り距離をとる。勝利条件は、殺すか撃退だろう。殺す方法は素手だから難しいけどな。それにどうやったら死ぬかわからん。首を折った程度で死んでくれるのかね。
とりあえず撃退の方向でいこう、幸いにも膂力は勝っているようだし、多少痛めつければ逃げてくれないかな?
淡い期待を抱きつつ距離をとった怪物に向かって飛ぶ!
あれ!?何か随分なスピードがでた!?
怪物は今までのダメージが効いてるのか膝を付き胸を押さえて俯いている。そこにおれは飛び蹴りをぶちかました。気配に気付いたのか顔をあげたところで俺の飛び蹴りが炸裂する。
―パンッ!―
そんな音を響かせ・・・赤い液体を撒き散らしながら、頭部を失った怪物は仰向けに倒れる。
・・・はぁ?
あまりのことに思考が追いつかない、つまりどういうことだ?俺は某ライダーに改造でもされたのか?ううん?
答えの出ない思考を続けていると
「う、んんう?」
と背後から声が聞こえる。
いやなタイミングだな・・・この状況もあの怪物の事も説明できないというのに・・・
放置して立ち去る事も選択肢に入れ、少女のそばにいく。
多少寝ぼけているようだが・・・まぁいいか
「目が覚めたか?早速で悪いんだが、この状況に心あたりあったりしないか?」
「え、えっとあなた誰ですか?・・・それにここは・・・」
うむ、嘘をついてる様子はないし状況の解明は無理そうだな。
「ここが、どこだかは俺にもわからない。気付いたら俺も近くで倒れていた」
「そうですか・・・」
思うところがあるのか考えはじめてしまった。さて、この後をどうするかな。
「これって、よくある異世界に飛ばされた・・・ってやつですかね?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出る。異世界?俺はそういった話は好きだし、妄想もしたりもするが・・・待てよ?力に違和感あるのはそれが理由か?いや、神様だとか転生だとかなかったしな・・・ん?そもそも俺はだれ・・・いやいやいや、さすがにわかる 如月達也 20歳 男日本人 どうてry ・・・うん?あれ?これ以上の情報がわからん、記憶喪失って感じでもないが・・・家族や友達についてもモヤがかかって・・・俺って友達がいないだけとかじゃないよな?
「あの?」
はっ!?ドツボにはまりかけてた、とりあえずまぁ
「俺は如月達也、見ての通り男で日本人だ、この状況については何もわからん」
「あ、はい 私は坂口優奈です。えっと日本人で・・・あれ?」
「もしかして、自分の詳しいことがわからない?」
「えっと、そうみたいです・・・如月さんもですか?」
「そうらしい、けど記憶喪失って感じとは、違うように思える」
二人して顔を傾げる・・・ふと何かに気づいたのか
「あれ?この”機械掌握”ってなんですかね?」
「機械?うん?なに?」
「いえ、その、異世界モノならステータス見れるかなと思って、念じてみたら視界にそれが」
試しにステータスと念じてみる
”肉体変化 Lv1”
と視界に映った、なんだこれ?てっきりHPやら攻撃力やらが見えるのかと思ったら、見えたのはこれだけだ。
「俺にも見えた肉体変化だそうだ」
「肉体変化ですか?変化とういうと・・・変身したりできるんです?」
変身、そういうのもあるのか、とりあえず試すか
「変身!!!」
「おおっ?」
あかん、空気が痛い、生まれてきてごめんなさい。
「あの、元気だしてください」
膝を付き両手を地面に置き、全力で後悔する男を慰める少女・・・この状況のほうが恥ずかしいわ!
「変身は出来ないようだ」
「あはは、残念です」
「とりあえず、移動しようと思うんだが、坂口さんはどうする?」
「う~ん、そうですねセオリーだと、盗賊だとかお姫様、商人に遭遇ですものね!」
人助けってことなら、もうフラグはたっているが、同じ地球人ならノーカンかね。
「丘の上にいってみようか、この辺あれくらいしか見当たらないし」
「はい、ところで後ろに倒れている方は・・・ひっ!?」
ギュッおお?役得?いや、そうじゃないだろ
「襲ってきたから、飛び蹴りしたら、頭パーンってなってな?」
「ええ~?人じゃなそうですけど・・・おっきな猿さんです?」
「ど、動じないね?顔がないと確かに大きな猿かもねぇ・・・」
ただし猿の目は二つだけどね。
「討伐部位とかありますかね?」
「順応性高いな、切り取るにしても道具も入れる物もないぞ」
顔があったとして目玉か?嫌すぎる。
「一匹だけとは限らないから、周りに注意してくれ」
気配のよみかたなんぞ知らんが、まあ適当に気をつけて歩き出す。特に何もなく丘を登りきる。
「異世界じゃなくて、どっかに連れ去られただけかもね」
眼下に町があった。ファンタジー定番の壁はなく、一定の範囲まで地面が舗装されている。では通常の世界なのか?とも思うが遠めに・・・目をこらして見ようとすると、望遠鏡ごしのような視界になった、成る程”肉体変化”の使い方がわかった気がする、とりあえずその事は後回しにして、観察する。
「さっきの怪物みたいな奴と・・・様子がおかしいが人が徘徊している」
そこまで呟いたところで、坂口さんの反応がないことに気付く、何かあったのかと慌てて確認すると
両手をつき蹲って「期待を返して・・・」と嘆いていた。
どんだけ異世界に期待してたんだよ、呆れつつも彼女を促し街に入ってみることにする。とは言っても、怪物を避けつつ侵入しないとなぁ。