拮抗、焦り、致命
文哉は焦っていた。
どれくらいの時間戦っているかはわからないが、自分が斬り飛ばした腕は百はくだらないだろう、もしかしたら千かもしれない。それくらいの時間は経っていると思うのに、一向に腕の勢いが落ちないのだ。
確かに自分の能力は体力的なモノも向上しているのか、ある程度の長時間戦い続けられるが、進んでいるのか止まっているのかわからないこの状況は体力よりも先に文哉の精神を削っていた。
――故に
それは焦りだったのだろう。
<矛盾 右矛7 左盾3>
文哉としてはほんの少し矛に比重を置いたつもりだった。
これが戦い慣れていたものなら、精神に余裕を持てていたなら、魔王の変化にも気づけたかもしれないが、先に耐え切れなくなったのは文哉の方だった。
――故に
一歩、攻撃の比率を上げるために踏み出した一歩は文哉にとっての死への一歩だった。
深海の魔王は自分の腕で押し潰されない文哉に内心恐怖していた。いつも通りなら、圧殺して終わりだ。いや、それより先に部下が処理するだろう。部下の状態を把握出来ないということは巡回にでも出したのだろう。いない部下よりも目の前の敵だ。
この虫のような生き物は自身に食い破り、今もなお破り続けている。いくら生命力が豊富な魔王とはいえ、致命傷になっていないとはいえ、これ以上は魔王としての矜持が我慢出来なかった。
――故に
眼前の生き物が戦い方を変え、攻撃の比率を上げたとき、多少の痛みを我慢して深海の魔王は攻撃することにした。
深海の魔王にとって攻撃とは腕で抑えつけることではない。
一度腕を纏めとり3本の太く巨大な腕にする。
魔王はその内2本を使って文哉の矛を受け止める。受け止められた文哉が驚きの表情で矛を引こうとするのを3本目で掴みとり阻止する。
――故に
文哉が自身のミスに気づいた時には深海の魔王の準備は出来ていた。
文哉は魔王の口・・・蛸のように窄まった穴から何かよくないものを感じ取る。
<矛盾 右矛1 左盾9>
文哉が危機感で咄嗟に矛を引っ込め巨大な盾で自身を覆い隠すと同時。
魔王の口から液体なようなものが勢いおく噴出された。
突然、矛が消失したことに狙いがそれたのか、文哉の足元近くに着弾したそれは爆発を伴い文哉を吹き飛ばす。




