不意打ちの成功確立って案外低いよな
しばらく細く長く、すみませぬ。
文哉は見た。
矛が深海の魔王の左半分を消し飛ばし、深海の魔王が半身だけでこちらに視線を、敵意を向けるのを感じた。
「つっ!」
<矛盾 右矛3 左盾7>
倒しきれてないと感じた文哉はすぐさま比重を盾の方に多くまわし、飛び退くことはせずにその場で様子を窺う。
文哉としては退こうにも誠司達がすぐ近くにいるので、適当に逃げ回ることは出来ない。自分が離れて誠司達に敵意が向くほうが問題だった。
「・・・倒したのか?」
「文哉、砂埃が凄くて見えないけど、どうなっているんだい?」
インカムから聞こえる誠司に確認するとだけ答えた文哉は、さらども姿勢を変えることなく、魔王を睨み付ける。
――胸騒ぎがする、俺は勘とか信じる方じゃないが・・・っ!
文哉がこれ以上踏み込んでこないことを悟ったのか、深海の魔王は自分から攻めることにしたようだ。
半分程千切れてしまったボロマントの奥から夥しい深緑色の腕が飛び出し、半分は自身の肉体を再構築に当て、もう半分が伸び続け文哉を襲う。
文哉に向かってきた腕は都合8本、枯れ枝のような腕はしかしぬらぬらとヌメっており、所々海藻のようなもの苔のような植物が生えていた。
文哉としては盾だろうと矛だろうと触りたくなかったが、自分に機動力が足りていない、動けないという状況なので歯を食いしばって盾で受け止める。
盾は通常よりも大きくそれでいて防御に対してのみ反応速度が上がっているので、上下左右からくる腕をまとめて盾で受け止める文哉。
細い枯れ枝のような腕からは到底考えられないほどの衝撃があったが、受け止めきり、ロングソードのような形になった矛で薙ぎ払う。
数本それで斬れはしたものの、受け止められた腕はスルスルと巻き戻るかのように魔王の元に戻っていく。
消し飛ばした筈の半身は元通りとなり、ボロボロのマントも少し短くなった気はするものの、対峙前のものと代わりない状態になっていた。
「文哉!大丈夫かい?」
「あぁ・・・さすが魔王って言ったところかな?半分消し飛ばしたのにもぅ治ったみたいだぞ」
誠司の心配する声に応じながらも、隙を窺う文哉。
といっても、一度目の腕を飛ばした後は、また揺ら揺らと浮遊するようにこちらを見ているだけの深海の魔王。
<矛盾 右矛6 左盾4>
「無限に再生するってんならお手上げだけど、とにかく削れるだけ削るしかないか」
どうも反応が薄い魔王に対し、ここでイライラするのは危険だと改めて冷静に状況を見ようとする文哉。
「そうだね、堅実にいこう。援護はいるかい?」
「いや、今誠司の方に行かれる方が困る」
「そう・・・だね、頑張れ」
攻防自在なこの能力には決定的に機動力が足りていない。それを認識しているからこそ誠司達は文哉の援護にいけないし、文哉も走り回ることは出来なかった。
――とはいえ、走り回って出方を見る相手でもないな。削れるだけ削らせてもらうぞ!
「はぁああああああ!」
突撃ランスを再度魔王に突き刺す文哉。
さすがにこれには反応した魔王はマントの中から夥しい量の腕を出して応戦する。
「おぉぉぉぉぉ!」
「ねぇ、文哉大丈夫なの?やっぱり援護したほうが」
「駄目だ絵美、僕達に自衛手段がない。こっちに来られると詰みだよ」
「といっても・・・あれって効いてるの?」
文哉が矛を振るう度に腕が飛ぶ・・・逆に魔王の攻撃は全て盾で受け止められていた。
非戦闘組の誠司と絵美、それに優子は見ていることしか出来ない。
見える範囲でいえば、確実に魔王のライフを削っているとは思うが、ゲームとは違ってバーも数値もわからないので、本当に効いてるのか判断が難しい。
「どうかな・・・確かに文哉が優勢に見える・・・それにあの魔王は軍を指揮して真価を発揮するタイプだから、もしかしたら」
誠司が聞いた限りでは魔王も一人だけではなく、それこそ世界に点在している。それに力の優劣、得意な戦法、といった個性も存在していると聞いている。
「でも最初の一撃で決める予定だったのよね?」
絵美も優子も心配そうな顔で戦闘を見る。見ることしか出来ない。
「頑張れ文哉」
誠司も同様に歯を食いしばり、今はまだ親友の戦いを見守ることしか出来なかった。




