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基本的に碌な事をしない

「それじゃ順次・・・虫の巣に向けて【出撃しなさい!】」


 絵美の指令を横で聞きつつ、自分の前を通っていく魚人軍を眺めてる文哉は、そろそろいいんじゃないかと誠司に聞いてみることにした。


「まだ数を減らすのか?そろそろ俺が何とか出来ると思うが・・・ん?誠司?・・・ってあれ?誠司どこいった?」


 自分が愛している男が見えないことに不安を覚える文哉。能力的には危害が加えられないとはいえ、ここは洞窟で落石や転倒等の危険が絶えない。出来れば自分が常に傍にいたいが、絵美の護衛を頼まれているので四六時中見るわけにはいかなかったのだ。


 言いつけは守るつもりはあるのか、自分から離れず視線だけで誠司を探す絵美が嘆息しながら答えた。


「誠司なら親玉の所いってくるっていってたわよ・・・あの気持ち悪いやつ」

「な、なんだと!?だ、大丈夫なのか?能力の効きも微妙なのに」

「優子が抑えてるし、誠司の能力で友達・・・いえ、敵対してない村人A?くらいには慣れたのだから大丈夫でしょ」

「そうは言うが相手は魔王だぞ!?」

「あ~もぅごちゃごちゃうるさいな!そんなに心配なら行けばいいじゃない!」

「それは駄目だ!誠司に絵美の守護は絶対だと言われている」

「あ、そ・・・まぁ心配なのはわかるし、ちょっと急がせるか・・・【駆け足!】」


 追加で指令を出したものの水中ならともかく陸の上をいくら急ごうとも、魚人は結局の所は魚なのだ。限度がある。これ以上指令を出すと最初の指令が解除されることを感じたのか、親指の爪を噛みながらイライラしたように絵美は魚人の群れを睨む。


「さすがに陸の上では魚だな・・・それにしてもここ数日でかなり数が減ったと思ったが、まだこんなにいるのか」


 確かに誠司も心配だが、こちらの状況も自分達・・・誠司の目的には必須なので、手を抜くことが出来ない。文哉としては誠司も大事だが、絵美も仲間としての絆は芽生えてきているので、絵美の様子を見て宥めるように声をかける。


「・・・そうね、繁殖力も相当あるみたいだけど・・・母体があの状態だから、8割くらいは排除出来たと思うわ」


 文哉の不器用な話しの転換にあえて乗る事にする絵美。爪を噛んでいた手も文哉に止められて今は二人で魚人の行軍を眺めるだけだ。


 だがそれもすぐに手持ちぶたさになって、これからについて2人は話し始める。


「文哉ならもう倒せるんじゃないの?」

「どうだろうな、矛に10・・・いや、15くらいやれば、殺し切れるとは思うが、失敗したリスクが怖いな」

「誠司の見立てだと、再生力とか持久力が高いって話しだっけ?それでも腕の一本で文哉以外は一撃で殺されそうだものね」

「あぁそれに15も割り振ると魔王戦以外は何も出来なくなる」

「だからこそ取りまきを削っているんだけどね・・・ここまで来たら、後少しよ」

「そうだな、魔王だけなら俺が殺し切る。頑張ってくれ絵美」

「頑張るといっても、ひたすら虫の巣に魚を送るだけなんだけどね。親衛隊らしき取り巻きはそろそろ出撃させることが出来そうかしら?」

「あっちは魔王よりも格が落ちるみたいだな、誠司も取引相手くらいにはなれたと言っていたから」

「そう・・・9割くらいいったら取り巻きさんも出撃してもらおうかしらね」

「ん?魚人で支配容量手一杯じゃなかったのか?」

「それがどうもここ2日程は反撃されてるのか、送る先からリンクが切れてるのよね。多分巣の連中も対処が間に合うようになったんじゃないかしら?それに、道中でも消されてたみたいだし」

「道中?」

「ええ、感覚的に川から上がった直後かしら?少しの間だけ大量の魚人が潰されたわよ、しばらくしたら普段通り通れるようになったみたいだけどね」

「防衛拠点でも・・・いや、通れるようになったのだったか・・・虫以外の何かと遭遇したといったあたりか?」

「どうかしらね?・・・お、そろそろ今日の分は出し切ったんじゃないかしら?」

「みたいだな、それじゃ誠司の所に行くぞ!」

「はいはい」


 いても立ってもいられない様子の文哉に苦笑しつつ、先陣を切る文哉の後を足元に注意しながら追う絵美。絵美は少し進んだ後、魚人が向かっている方向を顔だけ向け呟く。


「感覚でしかわからなかったけど・・・文哉が全力出したくらいの生物がいっぱいいたような気がするんだけど・・・さすがにそれは無いわね。魔王どんだけいるのよ」


 足を止めた絵美に気づいた文哉が戻ってくるまで絵美の足は動かなかった。








「ふむ・・・なじみの酒場のマスターといったあたりかな?」

「それは、進歩してるって言えるの?誠司君」


 どうだろうと苦笑しながら誠司は目の前の生物を見やる。


 洞窟の最奥には生物がいた。巨体を時折揺ら揺らと揺らしながら誠司と優子を見つめている。


 それに意志はあるのだろうか、大きな巨体はボロを纏っており、たまに風で捲り上がるそこには暗い空間が見えるだけで、どうなっているのか窺う事が出来ない。大きさでいえば、高さ5m程だろうか、見た目でわかるのは顔や時折見える手が深緑色なこと、髪はボサボサで一本一本が太く、間から見える顔には額の方まで目がある、口は蛸のように窄んだ穴があるだけだ。そして何よりも凶悪な暴力的気配を漂わせている。


 優子が抑え、誠司の能力がなければとっくに戦闘になっていただろう。抑えている今でも暴力的気配を漂わせている。左右には取り巻きだろうか、蟹と海老を足したような生物と、地面から顔を出している鯱がいる。この鯱、地面を文字通り泳いでいる。何らかの能力によるものだと誠司達は考えていた。


 巨体の魔王でさえ手に負えそうにないのに、左右にいる取り巻きも相当強い事が窺える為、誠司達はこの魔王を狩ると決めた時に取りまきの排除から取り掛かることにした。


 魔王の見た目に関しては、見てるだけで精神がイカレソウになりそうだが、最近では慣れたのか、それとも自分達が壊れてきているのか、優子でさえ直視しなければ顔を顰めるくらいで済んでいる。


「それにしても誠司君のそれ魔王にも効くんだね」

「僕も驚いてはいるけどね・・・とはいっても、友達になることさえ難しいみたいだけどね」

「う~ん、攻撃してこない魔王って時点で割りと凄いと思うけど」

「そうは言うけど、一度でも攻撃したら効果切れるし・・・攻撃の気配を見せただけでも駄目だと思うよ」

「蟹海老と鯱は何とか友達にはなれたんでしょ?」

「いや、馴染みの取引相手ってところじゃないかな・・・まぁそれでも絵美がかける下地としては十分だと思うけどね」


 誠司が魔王達に使っている能力は2種ある。


 1つ目は【匂香臭スーパースター】、相手が好む匂いを感覚的に発することが出来る。相手の好みを知っている必要もない。複数対象に別々に匂いを出すことも出来る。今この能力で出しているのは【貴方とは敵対していません】という匂いと【貴方の味方になりたい】の2種だ。さすがに力を持っている魔王相手故か、効果が薄いようだが、それでも攻撃されないだけ強力な能力といえる。


 2つ目は【認識自在(チョロいん量産)】、相手からの認識を自在に変える事が出来る。初対面でも長年の友人や親兄弟になりすますことが出来る。能力のレベルが上がったことにより、対象が自分自身から自分の仲間(少数)まで広げることが出来るようになっている。こちらも魔王相手にはさすがに効果が薄いようではある。


 それに優子の能力と絵美の【指揮指令】を合わせることで深海の魔王を軍団毎解体しているのが伊藤グループの現状である。


「お、誠司やっぱりここにいたか」


 誠司と優子が効き具合を改めて確認していると文哉に手を引かれた絵美が姿を現す。大量のリンクを確立する為か、心ここにあらずといった絵美を文哉が手を引いて連れてきたようだ。


「やぁ文哉・・・仲いいんだね?」


 それを見た誠司は心なしか冷たい声音で文哉達を迎え入れる。その声音に狼狽した文哉は絵美の手を離し慌てて誠司に駆け寄った。


「こ、これは違うんだ!」


 浮気を見られた夫のそれのようだ。


「何も違くないでしょ?仲いいのは良いことさ」


 こちらも理解ある妻みたいになっている。


「なんだよ!俺だって誠司が心配で急いでこっちに来たというのに!」


 逆ギレである。


「・・・悪かったよ、文哉を疑ってなんかいないさ・・・ちょっと妬いただけだよ」


 もう好きにすればいいと思う。


「誠司・・・」

「文哉・・・」


 見詰め合う2人をいつものことだと優子は放置し、絵美に近寄る。


「絵美ちゃん?・・・ありゃ、結構無理して指令出したの?」

「・・・優子?・・・一応予定量は出撃させたわよ・・・ちょっと無理したかしら」

「もぅ、まだ数日かける予定だって言ってるんだから、無理しちゃ駄目よ!」

「・・・そうね、取り巻きも残っているしね」


 応対は出来るが、それでもどこかぼーっとしている絵美をシートの上に横にさせる優子。一度チラッと男達の方を見たが未だに見つめあっていたので、放置して絵美を介抱することに専念する優子だった。


 平日は2日置きか3日置き更新になりそう。なるべく頑張る。

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