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小さな戦士

「いや、盾も何も君が勝手にそいつを蹴っただけだぞ?」


 飛蝗族の子の蹴りが強烈だったみたいだなと思っている達也だが、どう考えても達也の一撃が致命打になっている。壁に垂直に叩きつけられれば、戦士で身体を鍛えていて強化された肉体があろうとダメージは相当なものになっている。現にまともに立ち上がることが出来ずに荒い息を吐いて達也を睨みつけている。


「そんなことはいい!お前姉さんを泣かせただろ!」


 重要なのはそこじゃないとばかりに、達也を指差した手はそのままで許せんとばかりに、声をあげる飛蝗族の子。さて、この子は何を言っているのだろうかと、姉さんに該当する人物と泣かせたという情報から考えている達也をよそに志乃が一言。


「ん、人に指差すのは駄目」

「む・・・確かに」


 志乃に指摘されて自分が悪いと感じたのか素直に頭を下げる飛蝗族の子。それを見て達也は飛蝗族の子を改めて見る。飛蝗族の特徴は見た目には現われない。達也達もこの名付け会で知ったのだが、虫人の特徴である触角は全種族共通で持っていて、区別が難しい。さすがに特徴的な触角を持つ虫人はわかりやすいが、大抵は触角以外にも特徴的な器官があるので一目でわかるのだ。カブト族の角や甲殻、テンドウ族の甲羅、蜂族なら肘や手から針を出せる、蠍族なら針尻尾といった特徴がある。


 ただ稀に特に見た目で判断できない虫人もいる。とはいっても身体的に特化しており、見た目で区別出来なくても動きですぐに解る。一番顕著な解りやすいのは目の前の子みたいな飛蝗族だ。とにかくこの種族、足が速かったり強力な脚力を持っている。肉体変化で反応強化していた達也でさえ、入ってきたときの飛蝗族の子を肉眼で捉えるのはギリギリだったのだ。


もちろん訓練次第で、戦いにむいていないダンゴ族の虫人だって高速の動きは出来るとは思うが、現時点でこの動きをするのは飛蝗族だろうと当たりをつけたのだ。可能性としては何らかの能力者でしたということもあるが、この時点ではそこまで考えていなかったようだ。


「む、俺をじっと見つめて何を考えている?」

「ん、いや・・・もしかして君」


 達也は飛蝗族の子・・・小さい子、小さい飛蝗の人?と思いつき、そこから泣かした姉さん、泣かした女、もしかして蟷螂の・・・ローザさんのことか?と考えに行きつく。


「君は小さい飛蝗の人で・・・姉さんとはローザさんのことか?蟷螂族の」

「そうだ!いや、そうじゃない!俺は小さい飛蝗の人なんて名前じゃないぞ!姉さんはローザなのか?」

「まぁ・・・昼頃にローザさんはつけたからな、ローザって名前だと思うぞ」

「ローザ・・・ローザ・・・うん!いい名前だな!」

「ありがとうよ・・・とりあえず君の名前を決めるか」

「む?何でだ?」

「小さい飛蝗の人じゃ嫌だろ?」

「嫌だ!」

「じゃぁ考えようぜ?」

「そうだな!頼む!」


 基本的に単純思考なのか、達也のペースに引き込まれる小さい飛蝗の人。


「ところで姉さん・・・ローザさんは君の姉さんなのか?」

「いや、実際の姉さんじゃないぞ!兄ちゃんはいるけど姉さんは姉さんだけだ!」


 つまり血が繋がった兄はいるが、ローザさんとは近所の姉さんとかそんな感じと。子供の相手は慣れているせいか、支離滅裂な言葉から必要な情報を抜き取る達也。


 そうだな・・・ローザさんが花のイメージでつけたから、この子も花の・・・確か美香からもらった花言葉一覧のカンペがまだあったよな。


 ごそごそとメモを探す達也をよそに志乃達はじっと飛蝗の子を見る。飛蝗の子も自分を見つめる3つの視線に、怯みそうになりながらも目を逸らすことなく受け入れる。


 達也がメモから必要な名前を見つけ出し顔を上げた時には4人が疲れたように机に突っ伏していた。


「・・・何があったのか知らんが・・・とにかく、アキレアでどうだ?」

「む・・・ぅ?アキレア?変な感じだけど意味とかあるのか?」

「あるぞ、まぁ必要があったら教えてやるよ。ただ、カッコイイ意味はあるぞ?」

「そうなのか?わかった!俺はアキレアだな!」


 自分の名前が決まった事が嬉しいのか自分はアキレアだと宣言しながら周囲にいる戦士達に報告して回るアキレア。戦士達も良かったなと頭や肩を叩き祝福する。


「くそどもが!俺をこんなめに合わせて何を調子に乗ってやがる!」


 蠍族の男としてはこの状況はとても面白くなかった。何やらわからないが後ろから押されたと思ったら達也に壁に叩きつけられていたのだ、それで怒らない方がどうかしている。


 蠍族の恫喝を聞いて思い出したようにアキレアが達也に向き直り、指差そうとして志乃と目があい、頭上に上げた腕をそのままで達也に叫んだ。


「そうだった!達也!ローザ姉さんを泣かせたな!?」

「そうじゃねえよ、くそ餓鬼!」

「泣かせてないぞ・・・いちおう仲直りはしているからな」

「む、そうなのか?ローザ姉さん悲しそうだったぞ?」

「喧嘩した時は悲しくなるだろ?アキレアだって兄ちゃんやローザさんと喧嘩・・・怒られたりしたら悲しいだろ?」

「確かに泣いてはいなかったな・・・仲直りはしたのか?」

「あぁ志乃が間に入ってくれてな」

「ん、私がんばった」

「おぉ・・・志乃は凄いんだな!」

「ん、すごい」


 どうやらアキレアの勘違いも解消されたようで、膝の上で胸を張る志乃と感心したようなアキレアを見て一安心する達也。それから、志乃を雪と蒼ごと持ち上げ椅子の上に乗せ、自身は椅子の横に立つ。


「だからてめえら俺を無視すんじゃねええええええ!」


 言葉だけでは我慢出来なくなったのか、制止する虫人を振り切ってアキレアに殴りかかると共に尻尾を叩きつけようとする蠍族の男。


 アキレアも反応は出来ていたようだが、それよりも早く動いた人物が2人いた。


「あれ?」

「む?」


 達也と最初に達也と相対していたクワガタ族の男だった。男はカブト族のアマドと似たような風貌をしており、体格もかなり良い。アマドと違うのは角の形くらいなものだろう。こちらは先端にいくに従って鋭く尖っている。


 一瞬視線を交差させた2人だったが、別にどちらも相手に見せ場を譲るという意識などはなかったので、共同で撃退する事に一瞬のアイコンタクトで決める。


 すなわち


「んじゃ、前は任せました」

「任されよう」


 殴りかかってきている蠍男の尻尾ごと上体を押さえ込んむクワガタ族の男に対して、達也はクワガタ族の男で自分を遮るように上体を低くしながら蠍男の後ろに回り込む。そばで見ていた虫人の戦士達は、達也の動きに息を呑む。なんらかの武術の足捌きだとは思われるが、発展途上なのは戦士達からすれば明らかなのにも関わらず、現時点でも自分達で対応は難しいとわかったからだ。


 達也の戦闘力は武術的な技術と身体的な筋力のバランスが釣り合っていない、戦闘ごとその場面ごとで筋力が変わるので、はたからみるとチグハグだ。それでも要所要所で肉体変化を使うことを覚えてきた為、隙らしき隙が見当たらなくなっている。

 

 相対して腕の力が勝っていると思っても、次に殴りあう時には肉体変化で2倍3倍になっているのだ、観察しながら戦う相手にとっては最悪の相手だろう。


 上体を押さえつけたクワガタ族の男は達也が蠍男の後ろに回り込んでいるのは気配だけで感じ取る。


 蠍男に気づかれることなく後ろに回り込んだ達也はちょうど蠍男が振り上げた右腕を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。


「んな!?っぶべ!?」 


 普通の人間なら色んな所が折れそうではあるが、そこらへんは鍛えている戦士であり身体的には人間よりも優れている為もあってか、怪我をすることはなく床に叩きつかれるだけになった。


 とはいっても普通背中で衝撃を受け止めるところを身体の正面顔やら胸・・・そして男の急所的な物も叩きつけられる結果になった。


「うご・・・ぐお・・・うごごごごご」


 その場にいた虫人達は、その光景を見て、何故かわからないが自分達も股間のあたりに危機を感じたのか内股になる。


「ぬ・・・う?なぜかは知らんがやりすぎではないか達也殿?」

「うん、投げ方も含めて色々やっちまった感が凄いな」


 投げた達也でさえ、怒った結果に目を逸らす結果となってしまった。


「た、達也!そいつ大丈夫なのか?」


 自分に襲いかかってきたとはいえ、蠍男の無残な姿を見て心配そうに聞いて来るアキレア。基本的にはいい子なんだなと、ぽふぽふと頭を撫でてやりつつ、蠍男と同調していた虫人に腰を叩いてあげて下さいと指示を出す。






「ぐ・・・ぬ・・・ぅ・・・」

「お、意識戻ってきました?」

「ぬ・・・ここは?」

「息はしているが、心がここに居らん状態だったからな・・・覚えているか?」

「この痛みは何なのだ・・・うごご」


 蠍男が呻いている間に主だった戦士達にも名付けを終えて、最後になってしまった蠍男の復活を待っていた達也達。ようやく目に光が戻ってきたので引き起こした達也も一安心する。クワガタ族の男も名付けは済んでいたが、念のため残っていた。アキレアもいる。


「まぁ痛みは名前をつけて帰ってすぐ寝れば明日には回復しますよ」

「そうだな・・・それにしてもこの鈍痛はくるものがある・・・早くしてくれ」


 痛みのあまり達也に対する嫉みや怒りは一時的に忘れ去られてしまったようだ。とにかくこの痛みをどうにかしたいので頭が一杯のようで、達也が名前をつけることも早くつけてくれとしか考えられないようだ。


「そうですね、意識ない間に考えて「ん、ブルーノ」・・・志乃?」


 達也の台詞を遮るように志乃が被せる。膝の上から見上げてくる志乃としばらく見つめあうが、別にこだわりもなかったので志乃の意見を受け入れることにする達也。


「ブルーノでいかがですか?」

「わかった・・・俺はブルーノだ・・・ぬぐぐ・・・」


 内股になりつつ腰を叩きながら、それでも急ぎ足で去っていくブルーノ。後姿にはどこか哀愁があった。


「とりあえず今日はお終いかな」

「すまんな、長も戦士長であるアマドも帰ってくる様子がないから、達也殿達に全て任せる形になってしまったようだ」

「いや、まぁ大変でしたけどそれなりに楽しんでましたから」

「ん、いっぱいつけた」

「チチチ!」「クルウゥン」


 3人幼女も頑張ったとばかりに胸を張る。気疲れもしてない様子に苦笑しながらも交互に撫でてやる達也。同じく達也の膝の上にいたアキレアはそれを羨ましそうに見ながら達也に聞く。


「それで達也は今日どこに泊まるんだ?」

「どこって・・・長のクラウスさんの家かな?」

「特に決まってないなら俺の家来いよ!」

「アキレアの家に?」

「兄ちゃんも怪我のお礼を言いたいと思うんだ!」

「あぁそういや怪我の具合はいいのか?」

「もう起き上がれるんだけど、今日は大事?をとるとか!」

「なるほどな・・・そうだな、美香と優奈が帰ってきたら考えるか」

「来てくれるのか!?」

「多分行くから落ち着けって」


 首元を掴んで揺さぶってくる、アキレアを宥める達也にクワガタ族の男、アムドも声をかける。


「それなら俺はそろそろ退散しよう、一応長達も戻ってくるとは思うが・・・アマドの奴と今日の守衛についても話しがあるからな」


 クワガタ族の男の名付けは、達也達がアムドに名前をつけようとした際、アマドとは親戚ということを聞いた志乃がじゃぁアムドと言って決まったのだ。


 アムドが去ってから優奈と美香が帰ってくるまで、達也は膝の上の志乃達とアキレアと遊んでいたのだった。



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