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最初の名前

「やはり名前がないのは不便かもしれません長」

「思念での会話が難しくなったのが痛いのぅ」


 虫人達の集落、会議をする為に使っている家で長と戦闘隊長である甲虫は話をしていた。蟷螂の娘は達也にしたことを甲虫から聞いた長により、傍に座らせられている。厳しく叱咤されはしなかったが懇々と諭す長に罪悪感が芽生えたのか、俯いて微動だにしていない。


「えぇ、出来る者はいるのですが、蟻族のみですね。そして名前ですが・・・」

「わしらはそんなことをする必要がなかったからのぅ、いきなり必要だからつけろと言ってものぅ」

「一応・・・自分で名乗りを上げている者はいるのですが」

「あれは違うだろうのぅ・・・あれを名前と呼んでいいのだろうか?」


 長と甲虫が目を向ける先には、名前の名乗りあいが続いている。


「俺の名前は集落一の力持ち蟻族の戦士だ!」

「なら私は、蝶族一の美女ね!」

「おいらは近所で一番のかけっこさせたら負けなしだ!」


 あれは名前なのだろうか・・・長や甲虫なら、長老と戦闘隊長ということになるだろうか、名前かそれは?と首を傾げながらも止める理由もないので放置している二人である。


 しばらく、白熱している会議をしていた虫人達であったが、丁度話しの切れ目にノックの音が響き、一同ドアを注視する。


「失礼します、達也殿たちをはっけ・・・どういたしました?」


 入ってきた蜂族の若者は、自分に部屋の全ての視線が向けられていることに驚き思わず報告を止めてしまう。


「いや、すまぬのぅ。それで達也殿達はこちらに来てくれそうかのぅ?」


 長が手を上げ若者を労うような声色で声をかけると、ハッとしたように佇まいを正すと若者は答える。


「失礼しました!達也殿達は準備が出来次第こちらにいらっしゃるとのことです」

「そうか、ご苦労だったのぅ・・・ほれ蜜茶をおあがり」


 ありがとうございますと、言った若者を近くに座らせ蜜茶を振舞う長。この蜜茶も蜜酒と一緒で集落で一番人気の飲み物となっている。原材料は蜜酒と一緒で花の蜜だが、こちらは花弁も一緒に使っているようだ。器の中に花弁が浮いている。


 ちなみに一時中断となった名乗り合いも再開されていて喧しい事このうえない。


「ところで達也殿達は何を準備しておるのかのぅ?」

「身だしなみではないですか?」


 長と甲虫が話していると、さきほどの蜂の若者が答える。


「はい、それに近いと窺っております。何でも髪を乾かす時間が欲しいとのことです」

「髪?ふむ?」

「彼らは水でも浴びたのか?」


 長が上を向いて考えるのに変わって甲虫が質問するが、蜂の若者は首を振ってそこまでは聞いておりませんと答える。


「来てくださるとのことなのだから、いいじゃろうて・・・のぅ?今度は取り乱す出ないぞ?」

「・・・はい」


 長が蟷螂の娘に語りかけると、蚊の鳴くような声で蟷螂の娘は返答する。その様子を見て一応は大丈夫だろうと頷く長だが、ついで甲虫にも目配せを忘れない。


 甲虫の方もわかっております、何かあったら私がと頷く。







「あイタ!?た、達也?もう少しゆっくりやってくれる?」

「ご、ごめん・・・割と難しいんだなこれ」

「私の髪質が悪いのかしら・・・」

「いや、手触りは凄いいいから俺が下手なんじゃないか?」


 達也の答えに顔を真っ赤にする美香。けれども時々引っかかるのか、達也が下手なのか時折痛そうに顔を顰めている。見かねた冬華から指導が入る。


「ヂヂヂヂヂ!」

「ええっと・・・千那頼む」

「む?・・・こうです!としかいってないぞ?」

「痛い痛い!冬華痛いわよ!?」

「ヂヂヂヂ・・・」

「駄目じゃねえか」


 冬華からブラシを返してもらい再度挑戦。


「あ、うん、それで大丈夫よ。別に一気にやる必要ないのよね」


 掠めるように削るようにやればいいらしい。


「ん、つぎ!」

「順番は守らないとやらないぞ志乃?」

「やだ!」

「志乃ちゃん今は不服?の時だよ!」

「雌伏っていいたいの優奈?意味があってるようなあってないような、どちらかしらね」

「ん、ふふくだけど待つ」


 それはそれで違うぞ志乃?結局全員のブラシをかけさせられた。乾かすだけのつもりだったのに、えらく時間がかかってしまった。

 

 風呂場の傍まで来たのは蜂族の人と蝶族の人だった。どうも蝶族の人は策的能力が高いようだ。一直線にこっちに来たからな。先に外に出てた俺が対応して、会議しているので集落に来て欲しいとのことだったので了承し、少し経ったら戻るから先に集落に帰ってくれと帰らせた。


 それから随分な時間が経ってしまったが・・・まぁいいか、とにかく集落に戻ろう。






「俺様はこの地で最速の男だ!」

「私は羽の色が艶やかな蝶の女!」

「僕は跳躍が美しい飛蝗の子供!」


 何だこれ?長の家に案内されるのかと思いきや、いつぞやの会議室がある家に案内され、何やら騒がしい扉を開けると混沌としていた。


「おぉ達也殿来られましたか」


 呆然としている俺達に気づいたのか奥に座っていた長と甲虫の人に手招きされる。蟷螂の人もいるな。

 

 蟷螂の人は立ち上がって俯いている。警戒する冬華をよそに俺はさほど心配してなかった。反省しているように見えたからな。甘いかね?


「・・・あの、すみませんでした」


 蚊の鳴くような声量だったけど、俺の耳には聞こえた。まぁそれはそれとして。


「身体は大丈夫ですか?」

「・・・え?」

「俺も手加減なしで殴ったので、大丈夫でした?」

「え、えぇ・・・達也さんが上手く私の意識を落としてくれたのですよね?」

「まぁ・・・結構力ずくではありましたけど」

「その、申し訳ありま「俺としては志乃に謝ってくれればそれでいいよ」・・・はい」


 そう言うと蟷螂の人は志乃と話すため身体を屈めながら視線を合わせる。


「その、志乃さんごめんなさい、怪我はありませんでしたか?」

「ん、大丈夫・・・鎌の人たつがいたいことしたけど大丈夫?」


 志乃に気を遣われた蟷螂の人は少しだけ微笑み大丈夫ですと志乃を撫でる。


 その様子を見た俺、美香、冬華、長、甲虫の人はそれぞれ安堵し顔を見合わせる。こっちの問題は片付いたとして。


「それでこの奇妙な名乗りあいはいったい?」

「それはですのぅ、名前をつけようと言う話しになりましてな」

「無かったのですか?」


 長老の言葉に返すと不思議そうな顔をされた。いや、不思議なのはこっちですよ?それじゃ今までどうやって区別してたんだ?群体生物ってわけでもないだろうに。


「以前までは思念を使えたので問題なかったのですがのぅ」

「思念ですか?」

「あぁ人間に近づいたことで使えないことから察するに、人間は思念が使えないのですかのぅ」

「使えないと思いますよ。それで思念っていうのは他人と言葉を交わさずに意思疎通が出来るとかですかね?」

「その通りですのぅ、思念が使えた故。名前をつける必要がなかったのですのぅ」


 それにしたって名前がないと区別が出来ないと思うんだが・・・その疑問には甲虫の人が答えてくれた。


「達也殿の懸念はわかる。思念にはそれぞれ特徴があって、それによって区別出来ていたのだ」

「なるほど・・・いわば名前の変わりはあったんですね」

「そうなるな」


 うんまぁここまで聞いたら、何でここに呼ばれたか予想出来るな。


「それで達也殿達に来てもらったのはのぅ、名前に関しての相談なのじゃがのぅ」

「名前ですか・・・」


 この世界に来てから何人の名付けをしているのやら。


「やはり難しいですかのぅ?」


 黙ってしまった俺を見て長が諦めるかのように言ったので、特に考え無しに


「いえ、構いませんよ」


 許諾した。


「本当ですかのぅ!?」


 あ、ミスったかもしれない。部屋にいた虫人の皆さんの視線が全て俺に集中しているよ。


「達也殿が名前をつけてくれるらしいぞ!?」

「是非!私に最初の名前を!」

「いやいや、ここは力が一番強い者が最初だろう!」

「そういうことなら速さが大事だと思うが?」

「いえ、美しさが最も重要よ!」


 一斉に俺に詰め寄りながら一番は私が!と主張してくる。さすがに身体毎ぶつかってくる人はいないが、時間の問題かな?


 助けを求めて長を見ると、雰囲気に呆然としていたが俺の視線を受け甲虫の人を小突き、甲虫の人が動き出すのに合わせて長が一喝した。


「これ!そんないっぺんに詰め寄るではないわ!わしが最初じゃからのぅ!」


 そうそう長が最初・・・いや、おい。


「「「「「長!?」」」」」

「こういうのは年長者からと決まっておるからのぅ、のぅ?達也殿」

「いえ?決まってませんよ?」

「な、なんじゃとぅ!?」


 面倒だから・・・蟷螂の人からでいいか。


「とりあえず蟷螂の人から考えようと思いますけど、何か希望とかあります?」


 最初の名誉がどれだけ重要なのかわからないけど、見る見る内に目を潤ませる蟷螂の人。いや、どんだけ感動してんの?志乃がそんな蟷螂の人を見て首を傾げている。


「ん、たつまたいじめた?」

「いやいや、俺は何もしてない・・・だろ?」


 面倒だから最初にしたけど、それが迷惑だったとか?いや、そんな馬鹿な。心配になった俺は蟷螂の人に再度声を掛ける。


「え~っと・・・最初は嫌ですか?」

「いいえ!そんなことはありません!」


 恐る恐る聞くと、顔を近づけながらむしろ嬉しいです!とばかりに喜色満面で迫ってくる・・・のを志乃が後ろから手を引いて引き止めた。志乃に引かれたことで迫っていることに気づいたのか、顔を赤くしながら一歩下がる蟷螂の人。普段は純朴なんですね。今朝のが異常だっただけか。


「も、申し訳ありません・・・私ったらまた・・・」

「あぁいえ、問題ないですよ・・・それでどうしましょう?」

「希望・・・でしたよね?」


 考え込む蟷螂の人をよそに志乃にノートとペンを出してもらう。アルランでリス族達全員に名前をつける時に適当に書き貯めておいたのがあるのでそれも使おう。


「ん、たつ・・・とんかつ?」

「だからそれは料理名だからな?人につける名前じゃないぞ?志乃だってあだ名がから揚げとか嫌だろ?」

「ん、やだ」


 ぬいぐるみとか自分のペットとかなら構わないとは思うけどね、パラパラとノートを捲り悩んでいる蟷螂の人・・・虫人全員がこちらを窺っているな。特に長老がガン見してる。そんなに一番が良いのか?


 まぁいいや、それで名前か・・・姓は種族名・・・甲虫ならカブト何某とかでいいだろ。姓まで考えてたら俺が死ねる。長にそのことを伝えるとなるほどと納得してくれた。それで・・・後は名前か。


 未だ悩んでいる蟷螂の人を見ながら、優奈と美香を見やる。


「たつくんたつくん、日本名にするの?」

「そういわれるとそうね、虫人さん達の顔的にヨーロッパ系の名前かしら?ナポレオンとかかしら?」

「いやいや、美香の名付けは何で偉人ばっかなんだよ・・・そうだな、欧州系とかの方が良いか」


 そうだなぁ・・・綺麗は綺麗だけどトゲが凄いし・・・


「ローズなんてどうですか?」

「たつくんそれは花の名前じゃないの?」

「一応フランスの女性名であるわよ優奈?」


 そうなんだ?と頷く優奈をよそに蟷螂の人は響きが気に入ったのか詳しく聞いてきたので、俺の元いた世界の花の名前ですというと、感激したように手を握られた。


「ありがとうございます!これから私、ローズと名乗ります!」

「喜んでもらえたようでなりよりです」


 ローズローズと呟きながら手を離さないローズさんに志乃がわき腹を突いた。


「ひゃん!?し、志乃さん何を?」

「ん、手握ってる」

「え、あ、し、失礼しました!」


 柔らかい手だったなとか思ってないぞ?志乃を見ると胡散臭げに俺を見つつ手を握ってくる。志乃はヤキモチ妬きだな。経験則的にこのまま何もしないと機嫌が大変なことになるので抱えつつ膝の上に乗せてやる。


「えーっとローズさんの家名はどうしますかね。蟷螂族だから・・・カマキ?マキリ?」

「そこは普通にカマキリ・ローズでいいと思います」


 まぁ、種族名だからわかりやすい方がいいか、とうろうって読み方もあるけどな。



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