道具は必要ない
「雪、蒼・・・それと千那まだ食べてるのか?」
「・・・んぐ!食べ終わったぞ!」
「あぁうん、とりあえず口拭け・・・よし、外出るぞ」
食べカスが口周りについていた千那の口を指で拭ってやり、タオルを探すと志乃が訝しげに俺を見ている。
「どした志乃?」
「ん、たつそれ舐めるの?」
「舐める?・・・あーいや、タオルだしてくれないか?」
「ん、はい」
よくある間接キスを警戒してたのか?やってもいいが、パンくずだからそういう気にならなかったんだよな。ご飯粒なら食べてたかもしれないけど。
それはそれとして千那しかご飯食べてないな・・・まぁいいか。どちらにしろ美香がいないと飯にありつけないだろ。作っておいてくれたらしいサンドイッチは千那と雪と蒼が食べてしまったようだし。
「チチチ?」「クルゥ?」
「いや、何でもない。そら外行くぞ」
「チ!」「グルゥゥ!」
”思考加速””反応強化””腕力強化””脚力強化””身体頑強””気配察知”
外に出ると服(白い作務衣のような)を着た虫人達がうろついていた。落ち着きなく、確かめるように歩いたり、手のひらを開いたり閉じたり、跳んだりはねたり。
パッと見ふつうの人間だが、頭から触角を生やしている人が多い。それに身体の各部位に虫人だった時の名残か特徴的な部位を持って居るようだ。蟷螂の人の鎌、カブトムシの人の角、蜂の人の針、そして
「長ですか?」
「おぉキサラギ殿ですかな?・・・私の言葉が通じていますか?」
「えぇ、改めて如月達也です」
「これはご丁寧に、私も改めて挨拶を・・・虫人の集落をまとめている天道族の爺です、長というよりは町のご意見番ですな」
わっはっはと笑う長の全身を見る。確かに長というよりはご意見番のお爺さんといったほうがしっくりくる。まぁ周りにいる虫人達の視線からはそんなことはないようだが、多種族をまとめている手腕は集落の信頼を得ているのだろう。
そんな長も触角を生やしている。天道虫としての特徴は背中だろうか。長の作務衣は背中が開いているタイプ、もしかしたら逆向きに着ているのかもしれないが、露出している背中は肌が見えない。天道虫の象徴である赤い甲殻に赤の上から黒が彩られている。
ちびっ娘組が気になるのか、優奈と俺以外は長の後ろに回り触ったり撫でたり・・・ってこら!
「こら!人の背中を触ったりしない!」
「志乃ちゃん失礼だよ?」
「ん、ゆうな、おささん背中かたい?」
「触っちゃだめだよ~」
優奈がまともなことを言って志乃を後ろから抱きしめながらこちらに連れて来る。
「チチチチ?」
「クルウゥ?」
「ふ~む、千那も背中につけたほうが良いのか?」
「つけて、どうすんだよ・・・すみません長殿、子供とはいえ」
「いえいえ、孫に触れられるようなものです、むしろそのまま撫でてくれる方が爺としては嬉しい・・・いやいや達也殿?手、手はだしませんぞ!?」
当たり前だ、嬉しさのベクトルがズレていたら八つ裂きにしている。
「(たつくんが妬いてくれてるよ志乃ちゃん!)
「ん、たつはやきもち?」
まだ悩んでいる千那を蒼に乗せて・・・志乃も乗せたいのか?蒼の無言の訴えに志乃も優奈から受け取り蒼に乗せてやる。そして微笑ましげに見ていた長に気づいて釘を刺しておく。
「・・・そんなに見てもあげませんよ?」
「達也殿!?」
「まぁそれは1割くらいは冗談として「達也殿!?」冗談ですよ、美香がお手伝いしているそうですが、どこにいるんですか?」
「え、えぇ、美香さんには大変助かっておりますお礼を・・・それで美香さんでしたな、彼女は蜘蛛族の者とあちらに」
長が指差す建物から虫人達が出てくるのが見える。服を受け取った後なのだろうか?服を伸ばしたり、隣りの人と指を指し合いながら笑い合っている。
それにしても量が必要とはいえ、白しかないのか。まぁ染色してる時間もないのか。
「とりあえず様子だけ見に行こうか。忙しいとは思うが」
「ご案内いたします」
長の目配せで蝶の人かな?背中から生えた綺麗な羽から仄かに燐粉が出ていて綺麗だ。その蝶の人の先導で建物に向かう。
どうやら配っている建物が虫人が出てくる建物で、作っているのはその後ろの建物だったようだ。回り込むように建物に入ると美香がいた。入った瞬間あっちも気づいたようだ。
「あら、達也?本当は冬華さんに行ってもらおうと思ったんだけど、護衛だからってことでカブトの人に行ってもらったんだけど。優奈達から出してもらえたのね良かったわ」
「ヂヂヂヂヂ!」
「いや、怒ってないから敬礼しないでいいって・・・」
そもそも怒る対象は美香の方だ。俺の視線の意味に気づいたのか美香もばつが悪いのか、目をそらしている。まぁ、状況が状況だし性急な話だったろうからな。
「まぁ良くやったと思うぞ美香?」
「怒ってないの?」
「ん~一応タダカツ達はいるんだろ?」
頷く美香、するとどこにいたのか四方からタダカツ達が来て整列し、敬礼を始めた。成りきっているな。
「性急な話だったから仕方ない・・・とも言いたいが、まぁ出来れば護衛は誰かつけてくれると心配しないで済むかな?」
「それは悪かったと思うわ、でも本当に皆全裸だったから私も混乱しちゃって・・・んっ」
反省するのはいいが、別に落ち込む必要はないだろ・・・頭を撫でながら宥める。ポニーテールまで猫の背を撫でるように撫でてると
「ちょっと!先っぽまで撫でる必要ないでしょ!?」
怒られた。
とりあえず美香の無事は確認出来たので、こちらを見ている多分蜘蛛族の人を見回す。糸紡ぐ糸車はあるが・・・服を縫っているのだろうか、手元を見ても針の類が見当たらないのだけど。
それぞれが見学を始めると俺の傍に美香が寄ってきて説明してくれる。
「蜘蛛族の人は糸を扱える・・・つまり道具を必要としてないみたいなのよ、手先から糸出せるのよ」
「針とか、ミシンはないだろうから織機とかも必要ないのか?」
「ええ、擬人化前でも必要としなかったみたいだけど、擬人化後は作成速度も上がってるみたいね?カブトの人が言うには基本身体能力が向上しているとの話だったけど、種族毎の能力も強化されてるみたいよ?能力は強化されてないみたいだけどね」
「ふ~ん・・・最初だけ美香が手伝ってやり方を覚えたから見てるだけってことか?」
「そうね・・・デザインとかは考えてる暇なかったからとりあえず羽織って履くものだけ作ってるのよ、それと種族毎に穴をあける必要もあるから」
「あぁ羽が生えてる人とかか」
「ええ、最初の作り方だけ私が手伝って、覚えてからは私じゃ邪魔になっちゃうから、見ているだけにしたのよ」
美香の言葉に1人の蜘蛛族の人が反論する。
「いえいえ!美香さんが邪魔なんて!どちらかというと糸を出す機構も、糸が紡ぎやすい身体をしている訳でもないのに、針だけで作りあげる手腕は私達からみても脱帽ものですよ?」
その人の言葉に作業の手を止めずに一斉に頷く蜘蛛族の方々。おや、美香が照れてる。
「ちょ!?撫でないで・・・いえ、別にいいけど・・・何でポニテの先まで撫でるの?」
「そりゃ最後まで撫でないと申し訳ないじゃないか?」
「誰によ!?優奈や志乃の時は撫でないじゃないの!」
「蒼はたまに尻尾を撫でてやってるぞ?」
「あれはブラシでしょ?」
「つまり美香もブラシをかけて欲しいと?」
「え?かけてくれるの?」
「別にやぶさかではないが・・・」
ちらっと志乃達の方を見ると期待するような顔で・・・わかったよ。
「まぁ風呂上りとか・・・あ」
「ん、たつ!おふろ!」
そうだそうだ、完全に忘れてたわ。でも志乃も忘れてたんだから、おあいこだろ?
「ん、たつおふろ!」
あ、駄々っ子モードに入ってる?とりあえず志乃を抱えあげて宥めながら・・・誰に聞くかな。
「そういえば昨日志乃と約束してたわね・・・私ももうすることないし、皆で入りましょうか」
美香もそういうので連れ立って移動しようとして蜘蛛族の人に止められる。
「美香さん達也さん、お風呂とは何ですか?」
あぁ擬人化したから脱皮は出来ないのかもしれないな、教えておくか。
「温かい水で身を清めるんですよ。お風呂自体が好きな人もいますけどね。清めるだけなら別に温かい水である必要もありませんけどね」
「そうなのですか・・・どうやら脱皮をするのはこの身体では無理そうなので、私達もその必要があるのでしょうか?」
「そうですね・・・後で集落専用の風呂を作りましょうか」
一度作っているから・・・大工担当の人が集落にいれば出来るかも?
「虫人の集落に建物や建築専門の人はいふぁふか?・・・ふぃの?」
「ん、たつおふろ!」
「わふぁったわふぁった」
わかったから頬を引っ張らないでくれ。
「それで、町の外に一旦出ますので、門番の人には言っておきますが何か御用があったら言ってください」
「町の外ですか・・・?」
「場所の確保が難しいので、まぁしばらくしたら戻ってきますから」
説明する時間も志乃がくれそうにないので、押し切って町の外で準備をすることに。
門番の蜂の人かな?に伝えるとやはり不思議そうな顔をされたが、少ししたら戻ってくることを伝えると笑顔で見送られた。
いつも通り異次元ボックスから風呂セットを取り出してセッティングして・・・じゃ、俺は見張りをと言ったら捕まった。
「ん、たつ頭洗ってくれるって言った」
「そ、そうだっけ?」
「ん・・・だめ?」
甘すぎるか?まぁ仕方ない目隠しと海パンを履いて俺も風呂に入るか。




