虫人の長
中に入ると会議室のような場所に通され、椅子に座っていた虫人達が立ち上がる。多分中心にいる人物が長だろう。
虫の姿をしているのに年老いていることがわかる虫人の長は天道虫だろう。背中に赤と黒の斑模様で出来たものを背負っていたからな。ついでに長老らしく杖も持ってる。蟷螂の人に促されて対面に座る形で向かい合う。
ここからは千那に通訳を頼んでの話し合いだ。とはいっても俺達は虫人の集落に明確な目的を持ってきたわけじゃない。一応蟷螂の人に援軍を頼まれたというのはあるが、まぁ適当な交流が出来ればいいか。見た目は違うとはいえ生活水準はそれなりにある。出されたお茶も温かかったからな。
長・・・長老天道虫の話によると、やはり先日の雨の後、ひっきりなしに魚人が襲撃するようになったそうだ。謎なことに近くにある川ではなく、遠くの川から来ていることは虫人達も確認していたそうだ。蟷螂の人が言っていたように魚人だけなら問題はなかったのだが、数日前から蛸やらクラゲ、今日は見なかったが巨大な蟹もいたらしい。蟹に関しては横にしか移動出来なかったのか、そのまま通りすぎていったそうだ。シュールな光景だったろうな。蟹はどこに行ったのだろうか・・・。
クラゲも相当の被害は出たそうだが、蛸がどうにも対処方法がわからず、足を斬ることは出来たが俺と同じく驚異的な再生力に根負けし死者は出なかったものの怪我人を多く出してしまったそうだ。というよりクラゲの方が死者を出してしまったらしい。
まぁそんな感じでひたすらあのクラゲや蛸を殲滅するとは貴方方は何者なんですか?と称賛しながらもこちらを観察する長老天道虫に、この世界の状況について聞いてみる。
やはりというか、ここはアルランと同じみたいだ。ただ部族丸ごととかではなく、俺達みたいに知らない間柄の虫人がこの集落に飛ばされていたようだ。そこで目覚めた虫人達は困惑しながらも手を取り合い、集落を広げていったそうだ。人間よりもよっぽど知性的だな!見習えよ!
そもそも同じ種族で固まるのが普通だったらしく、多種多様な種類の虫人が一緒に暮らしている等考えられませんと長老は言っていたが、どうやら困惑する虫人を纏め上げたのはこの長老天道虫だそうだ。蟷螂の人とカブトムシの人が誇らしげに自慢してた。頬を染めて照れる天道虫ってのも中々・・・。
虫人達の話を聞いた後俺達の・・・人間側の悪評みたいな形になったが、アルランで交流を広めることを目的として動くように決めたと話し、出来れば虫人達とも交流を結びたい旨を伝える。ギルドの話は後で優奈がするみたいだ。とりあえず構想だけ伝える程度だろうな。
交流は構わないのですが、取引ですか?と何やら商売人みたいな虫人(後で解ったが蛍だそうだ)が前に出てきたので、交換できる物を提示する。殆どはアルランからもらった食料だ、それに優奈が調合した薬や薬草や食べられる物の情報といったところか。虫人側からはハニカム構造で作った食料と、適当な資材ということになった。
通貨の導入はいつ頃になるかな?国がなくても大きな商会が出来て、そこが発行すればそれなりに流通はしそうだが・・・ちょっと難しいか。その商会が力をつけた後、国が出来たら目をつけられるだろう。下手をしなくてもすぐさま戦争・・・下手な殺し合いより経済戦争の方が悲惨なことになりかねない。
話を終えた後、何やら張り切るカブトムシの人に連れられ訓練場らしき広場に連れてこられた。それなりに走り回れる広さに、きちんと地面を均して整備している場所に色々な種族の虫人達がそれぞれ訓練に精を出していた。個人毎に訓練をしているわけではなく、体長らしき虫人の号令の下、組織だって動いていた。アルランでの訓練と違って兵隊を育てる感じの訓練かな。
しばらく眺めていたが、連れて来られた意図が見えずカブトムシの人を見ると期待するようにじっとこちらを見ていた。
「いや、期待するように見られても・・・俺にどうしろと?」
カブトムシの人・・・カブトの人曰く、我々も蛸に勝ちたい強いては蛸に勝った俺に助言を賜りたいとのことだ・・・。
「腕から火出せば倒せると思うよ?」
投げやりに答えると、腕組み・・・(彼は腕が6本ある)を下中上でそれぞれの腕で組み、思案し始めた。いや、本気で取るなよ・・・というか、虫が火を使うのかよ。お茶が出てきた時に思ったが虫人達は普通に火を使う、使えるようだ。
しばらく思案していたカブトの人は、さすがに火を自分達では出せないが、火は有効かもしれないと感謝された。いやいや感謝されてもなぁ・・・それより俺からも聞きたい事があったので聞いてみる。これは冬華達にも聞いたのだけど・・・。
「虫人達に能力持ちはいないんですか?」
いや、首を傾げられても?これは冬華達のリス族にも何人か能力持ちがいたが、俺が聞くまで気づかなかったのだ、確かにステータスとか能力・スキルといった概念なんて人間側しか持ち合わせてないだろうな。ちなみに冬華も雪も蒼も能力持ちだった。
それでまぁ呼べる範囲で虫人達を呼んでもらって、ステータスや能力の説明をした後、ステータスと念じるか能力閲覧と思ってくださいと言った途端。
訓練場が阿鼻叫喚となった。
いや、まぁ何だこれ?と脳裏に浮かんだ能力を適当に使った人が回りを巻き込んで爆発したり、酸で自滅したり、身体の肥大化に思考が追いつかず転んだり(下敷きとなった虫人もいた)、火を吹いた虫人もいたりと中々凄いことになってしまった・・・あはは。
「た、たつくん?笑ってる場合じゃ・・・か、顔引きつってるよ?」
「笑いたくもなるわ!いや・・・これ俺のせいか?」
「ちょっと考え無しだったわね・・・リス族の人たちと違って人数多いのだし」
優奈と美香に突っ込まれたが、現状あの中に入る気は起きない。カブトの人や比較的まともな人が落ち着かせようと頑張っているが、使い方を確定化させた者がひっきりなしに現われる為か終始がつきそうにない。
「ん、たつごめんなさいする?」
「ヂヂヂ、ヂヂヂヂヂ?」
「そうだな、冬華も言っているが、もう威圧で動きを止めるしかないのではないか?」
冬華と千那が威圧でとりあえずの終始をつけたらどうだ?と聞いてくる。それしかないか?確かにこのままだと怪我人だけじゃなく死人が出そうだが・・・あれやると怖がられそうだ、せっかく仲良く・・・ん?
「どうした志乃?」
志乃がお腹に顔を、顎をつけながら見上げてくる。
「ん、たつがやらないともっと大変なことになる。怖がれるくらい気にしちゃだめ」
「・・・そうかもな」
「それに私達は怖がらないからやっちゃう」
確かに志乃達以外にどう思われてもそこまではダメージ受けないかな?
仕方ない。
”威圧強化””威圧強化””範囲強化”相変わらずどこを強化しているかわからんが・・・とりあえず訓練場の方に向けて、威圧してみる。
怒ってもいないし、殺気を飛ばした訳でもないが成功したようだ。
俺に近い虫人達から一斉に泡を吹いたり、意識を落とし崩れ落ちたり、俺の方を見て固まったりとそれぞれ精神力の違いは出たが概ね目論見通り騒ぎは収まった。殺気や怒気じゃなかったからか失禁したりする虫人がいなかったのは助かった。なぜか蟷螂の人が恍惚としていたが、まさかな?
そこからは怪我人を運び出し、騒ぎを聞きつけた長老達、参加してなかった虫人達にも説明しながら事態を収めていった。
長老に怒られそうになったが、逆に怒った志乃が止めてくれた。
「ん、たつも悪いけど、よく考えないで使った人も悪い」
長老は小さな志乃に言われて頭が冷えたのか、確かに言われたから使ってみましたといって怪我するとわ、こちらの方に落ち度がありますと引き下がり、カブトの人や隊長格を叱ることにしたようだ。いや、どう考えても一番悪いの俺だよな?
ところで威圧したけど優奈達は大丈夫だったのかと聞くと。
「うん?ん~たつくんの気配?がぶわ~!って広がってたのは解ったけど。別に怖かったりは・・・逆に安心感があったよ?」
「そうね、私達にとっては居心地のいい空間が広がっている感じだったかしら?」
「ん、温かかった」
「ヂヂヂヂヂ(知らない方のみ重圧を感じるようですね)」
「チチチチ!(兄様がカッコヨクなってた!)」「ガゥガゥ(主様からいい匂いした)」
「達也!千那の穿牙、大分回るようになってきたぞ!」
あぁうん、気にならなかったのならいいや。千那、ドリルは集落では禁止。
「何故だ!?」
「危ないだろう・・・万が一があるから禁止」
「・・・むぅ・・・わかったのだ」
「他の技も考えておいてやるから我慢しとけ」
「ほんとか!?」
千那の飴は厨二ネームなのか、楽でいい・・・楽じゃないわ。俺の精神が削られる。
それから能力相談会が始まった。顧問は俺だ。というより俺以外はそういう想像しないからな。美香と冬華は夕食の準備をするといってどっか行ってしまった。優奈は雪と蒼と植物を見に行った。護衛は蟷螂の人が受け持ってくれたが、この集落では俺もそこまで警戒していない。後になって少し無警戒すぎかなとも思ったが。まぁ雪も蒼もそれなりに能力が使えるようになってきているから大丈夫だろう。そんで志乃を膝に乗せて、ついでに近くにいた小さい飛蝗の人も膝に乗せて相談を受ける。千那も護衛に出したかったが、通訳がいないと相談されようにも出来ない。
カブトの人も能力を得たようだ、ただ俺には詳しく話せないと申し訳なさそうに言ってきた。いやそれが正解だからね?それでも使い方をさりげなく聞いてこようとするのは好印象だった。そうそう隠しながら情報は引き出すべきだよ。
聞かれたことからの推測だが、カブトの人は肉体強化関係だろうな、遠距離系や特殊系を聞いてくる時より熱が入っていたし。
虫人の中には火袋といった能力を取得した者がいて、その虫人が炎球を出していた。これで蛸が来ても大丈夫かな?一番俺が興味を引かれたのは小さい飛蝗の人が持っていた”場”という能力だ。考えようによっては最強クラスなんだよなこれ。いやはや小さい飛蝗の人も持っててくれるとか想像というか創造が捗るわ。
嬉々として能力を考える俺に小さい飛蝗の人も困惑していたが、悪感情ではないことはわかったのか、志乃と一緒に膝の上に乗って大人しくしていた。
日が暮れても相談者が後を経たず、長老天道虫が明日にせい!というように杖を振り上げるまで能力の相談を受け続けた。俺としては色んな能力を聞けて頭は疲れたが、ここ最近で一番楽しかったかもしれない。




