友達《partner》
「そ、それで……パートナーって何をすればいいわけ?」
クロード達は、ダンジョンから交易都市カリウェルへと戻っていた。
体力回復も兼ねて、今はファーブという喫茶店にきている。
回復ポーションというのも、もちろんあるが、値が張るので緊急時以外は基本的には使わない。
ファーブの店内は、薄暗くアンティークな家具類が置いてあり、シックな雰囲気を醸し出している。
厚みのある木材で作られた丸テーブルを挟んでクロードはテケロッティを、シンクレアは普通の紅茶を飲んでいた。
「まぁ、そんなに難しく考えることもないだろ、狩りとか一緒にしてくれればいいよ」
クロードは、そう言ってテケロッティを一口飲む。そして、吹き出しそうになるのを堪えた。
(なんだこれ!?コーヒーとコーラとリンゴジュースを混ぜたような味がするぞ……)
当店オススメと書かれたメニューを見て、何も考えずに頼んだ結果だった。説明書きを読んだところテケテケというモンスターからとれる体液で作られているらしい。
「どうしたの、なんか顔色悪いけど……」
シンクレアが心配そうに顔を覗いてくる。長いまつげと綺麗な金色の瞳が揺れるのを見て、心臓の鼓動が少し早まるのを感じた。
いくらゲームとはいえ、本物とほぼ同じにしか見えないほどのリアルさで、これだけの美少女がいれば、仕方のないことだと言える。
「いや、大丈夫だ問題ない……」
正直なところ目の前のゲテモノジュースをどこかへ捨ててしまいたいところだが、体力の回復量は文句なしで良いので、我慢する。
「俺は、インしてる時は大抵用事があるから、シンクレアは別にいつもと同じようにしていてくれればいいんだ」
用事というのは、もちろんシエラを探すことだ。
クロードにとってはそれが第一の目標で最優先事項なのだ。
シンクレアと一緒に狩りをしたりダンジョンを巡るのも、きっと楽しいだろう。しかし、今は無理だ。
「そんなのパートナーでもなんでもないじゃないッ!大体用事って何よ!?私より優先すべき用事があるってわけ?」
突然立ち上がり、声を上げるシンクレアにクロードは驚いた。
「お、おい、まてまて!お前は、俺とパートナーやるの反対だったんじゃないのか?」
店内に訪れる一瞬の沈黙。他の客の視線は全てシンクレアへと注がれていた。
「なにあれ」「痴話喧嘩じゃない?」「うっそー」「こんなところで、うるせぇ奴らだな」「リア充爆発しろッ」「はー俺も彼女欲しいなぁ」「直結乙」
周りの声がシンクレアの耳にも届いたのだろう、みるみる内に顔が真っ赤になっていく。
「……~~~ッ!」
ストン、とそのまま席について紅茶が入ったアンティークなカップに口をつけ誤魔化すシンクレア。
(なんか、可愛いなこいつ……)
先程まで戦っていた相手と同一人物とは思えず、クロードは少し可笑しかった。
「それにしても、どうしたんだ?俺、そんなに変なこと言ったか?」
シンクレアは、俯いたまま答えない。
しばらくして、微かにシンクレアの唇が開いた。
「……WEOで友達って出来たの初めてなのよ」
「え?」
あまりにも小さく呟かれた言葉は、クロードの耳まで届かず空中で霧散した。
「なんだって?すまん、聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」
「うっさい、バカ。二度と言うか」
(一体どうしたっていうんだ……)
クロードは、首を捻って考えを巡らしてみるものの、よくわからなかった。
思案顔でテケロッティを口に含む。また、吹き出しそうになった。
(二度と頼まねーぞこんなもん……)
「と・に・か・く、私とアンタは対等のパートナーなんでしょ、自分が言ったことには責任待ちなさいよ、インしたら必ず私に個人チャットでもメールでも送ること!黙って一人で行動してたらPKするから」
「それって、パートナーの領分を越えているような気が……」
「文句、あんの?」
ニッコリと微笑むシンクレア、傍から見れば虜にされそうな可愛らしさがあるが、クロードにとっては鬼のソレに見えるような気迫があった。
「いいえ……」
(笑顔が怖いと思ったのは初めてだ……)
クロードは、これからどうしようかと頭を抱えた。
どうも、たちまるです。
思いつきでゆっくりに小説を読ませたところ、なかなか面白いことに気づきました。
ゆっくりにもっと種類があったらシンクレアの声を可愛くしたいんですがね……。