レッドネーム《Player Killer》
爆風と閃光が通り過ぎ、焼かれた視力を取り戻したクロードが最初に見たのは、崩れ去るボスモンスターの姿だった。
三重に展開された高位攻撃魔法の圧倒的威力の前に、三割残っていたライフは、呆気なく消滅していた。
炎属性魔法使いの少女が最後に使った魔法を思い浮かべる。
トリプルキャスト―――
これを見たのは、二度目だ。
(シエラ以外に使える人がいるなんてな……)
クロードは、少しの間、放心していたが―――
「はーなにこれ、ケチ臭いわねぇもっといいもの寄越しなさいっての」
いきなり傍で聞こえてきた声にハッと現実に帰る。
立ち尽くしていた少女がぶつぶつと悪態をついていた。
どうやら、ボスドロップが良くなったらしい。
トリプルキャストを発動した時の神々しいまでの姿は今は無く、だらんと脱力して腕をぷらぷらさせている。
「それで―――アンタは、いつまで私のことを見つめているつもりなのかしら」
キラリ、とまるで猫のように目を光らせて、少女はクロードを睨みつけた。
そこでクロードは、初めて彼女を真正面から見つめた。
猫を連想させられるような、鋭い瞳。
ガラス細工のように透き通ったなめらかな肌。
嘘みたいに整った顔立ち。
そして、真紅のたなびく長い髪。スタイルは、胸が比較的薄いが、全体的にスラリとして文句のつけようがない。
かなりの美少女だ。
が、そこはゲームのキャラクターだけあって美男美女はさほど珍しくも無い。
クロード自身も、リアルの神谷暮都をベースにキャラメイクしてるとはいえ、些か以上に美化していることは否めない。
「もしかして、アンタPK?それだったら相手になるわよ」
少女は、自身満々に微笑む。
相当自信があるのだろう。その笑みからは余裕が感じられた。
挑発的な炎属性魔法使いの少女の態度に、クロードは肩をすくめて、首を横に振る。
「まさか、さっきの戦いを見て君と戦いたいとは思わないよ、凄いな、トリプルキャストなんて」
「ふーん、私の凄さが理解るくらいは、WEOをやってるってことね」
「まぁ、それなりには」
「そう」
少女の瞳が悪戯を思いついた子供のように輝いているのに、クロードは気づいていなかった。
「面白いものも見せてもらったし、今日は帰らせてもらうよ」
シエラを探すための手がかりを得る為にここまできたが、空振りだった。
落胆は大きいが、最初から上手くいくとクロードも思ってはいない。
(もう一度、情報を整理しなおしてから探索をするしかない)
それじゃ、と手を上げてクロードは少女に背を向けて帰ろうとして―――
少女が右腕を振り上げた。
「うん、さよなら―――スペル詠唱『紅桜』
(なっ―――!?)
いきなりの不意打ち。
展開とほぼ同時に発動した攻撃魔法に、クロードの反応は一瞬遅れる。
しかし―――
クロードは完璧に『紅桜』の特性を理解していた。
花びらのような独立した炎が敵に殺到する『紅桜』は、動くものに反応し襲い掛かる。
(その特性から『紅桜』は汎用性が高くて、使いやすい―――けど)
逆に言えば、『紅桜』は動かなければ、大した脅威ではない。
クロードは、その場から一歩も動かず、襲い掛かる炎をやり過ごした。
それでも、当然炎全てを避けられたわけではない。
クロードのライフバーは、1割弱削られていた。
「いきなり何するんだッ」
「何って、PKしようとしてんのよ、見てわからない?それとも、こういうのは初めてかしら」
少女はフフンと笑い、長い髪を掻き揚げる。
その時になって、やっとクロードは気づいた。
少女の名前、シンクレア―――
その名が赤く輝いていることに。
(こいつ、レッドネームプレイヤーかッ!?)
「ゴミドロップでムシャクシャしてんのよ、代わりにアンタを倒して装備をもらうことにするわ」
シンクレアは、ぺロリと桜色の唇を舐めると朗々と音声入力を開始する。
「スペル詠唱『火炎九十九』
(速い)
展開された魔法陣から、飛び出した無数の火炎球が周囲を焼き尽くす。
クロードは、轟々(ごうごう)と燃え盛る草木からバックステップを駆使して距離を取った。
本来炎属性魔法使いなどの魔法使い《ウィザード》クラスは、ソロで戦うのに向いていない。
機動力と防御力の初期ステータスの値が低いからだ。
代わりに他職には少ない範囲攻撃や回復スキルなどの支援系統スキルを保持しており、パーティに一人でもいるとダンジョン攻略時に難易度がグッと低くなる。
だが、目の前の少女は―――
「双剣装備『空海』」
クロードは基本装備の片手剣から、双剣へと換装。
スキル『疾駆』を発動。
周りの木々を利用し縦横無尽に駆け回り火球を避ける、そして―――
(―――これでどうだっ)
シンクレアの頭上からの攻撃。
双剣をクロスさせて放つスキル『セイバー』
完璧なタイミング、二つの凶刃に倒れる真紅の姿をクロードは疑わなかった。
しかし、その予想は、はずれた。
シンクレアは、魔法使い《ウィザード》系クラスとは思えない動きを見せ迫り来る刃を華麗に避けたのだ。
交差する二人、クロードに突き出される左手、スキル硬直によって出来た一瞬の隙、しかしそれは、両者にとって永遠のような一瞬。
シンクレアは哂う。
「チェックメイト」
爆炎にクロードの体は包まれた。
どうも、たちまるです。
最近のオンラインゲームも、なかなかグラフィックは良くなっているんですが、どうにも一皮剥けない感じが強いんですよねぇ。
PSO2に期待したいと思います。