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会合《assembly》 Ⅲ

予想通りと言えば聞こえはいいが、暮都にとっては、やはりその一言は辛かったのも事実だ。

自分が、クレアと同じ立場だったとして、果たして先程の話を信じられるのかと問われれば、素直にイエスとは答えられない。

「信じろ……とは言わない。けれど信じて欲しいというのが、今の俺の素直な気持ちだ」

「そう……それじゃ信じるわ」

「えっ!?」

驚いた暮都の顔はよほどおかしかったのだろう。

ぷっと思わずクレアは吹き出した。

「考えてもみてよ、この場をセッティングしたのは私で、アンタは私に付き合ってわざわざこうして来てくれた。たかだかゲーム上の付き合いだと一蹴することも出来たのはずだったのに。私が暮都を信じる理由なんてそれだけで十分すぎるほどよ。それに……どうやら嘘じゃなかったみたいだしね……」

そう言ってクレアが持ち上げたのは、暮都が机の上に投げ出していた左腕だった。

手の甲に僅かに残る爪の跡をクレアは、じっと見つめていた。

「これ、さっきから私が爪を突き立ててたんだけど……全然気づかなかったわね」

「…………」

暮都は何も言い返すことが出来なかった。

試していたクレアに驚いたのもあるが、完全に感覚が無くなった自分の左腕に少なからずショックを受けていた。

ログアウトして自分の体を確認した時から、こうなることは覚悟していたはずだった。

それでも、今暮都は自分の認識が甘かったことを実感していた。

自分の体の一部が動かなくなる、いや、それよりもひどい状態……感覚がなくなるという事態をどこか楽観視していたのは事実だが、こうやって実際に体験してみればそれがどれほど恐ろしいことなのかを今まさに味わっていた。

(これは……思っていたよりもずっと……精神的にくるものがあるな)

「その表情を見てれば、分かってて我慢していたというわけじゃなさそうね」

暮都をじっと監視するように見つめていたクレアは、確信めいた口調でそう言った。

「まぁ……そういうことだ……」

「でも、当然ながらアンタの話を全部信じたわけじゃないわ。だからこそ、私はアンタから離れるわけにはいかない。ゲーム内で負った傷が現実に影響を及ぼすという突拍子も無い事態を確認する為にも」

「つまり、俺が左腕をなんらかの理由で動かせないというのは信じてくれるが、その原因がゲームに関係しているというのは認められないということか」

「そういう意味だと捉えてもらっても構わないわ」

「どうあっても、パートナーを解消するつもりはない……と」

「まぁ、簡単に言ってしまえばそういうことね」

「俺が、どうしてこの交渉に応じたか分かるか」

「私をどうにかして、アンタに関わらないようにしたいってことでしょ」

クレアは、すっかり冷めてしまった紅茶に口をつけて、音をたてずに飲む。

そんな、動作の一つ一つが洗練されていて、クレアがお嬢様なんだと印象付けていた。

それだけに自分から危険な方へと進もうとする姿勢に暮都は危機感を抱いていた。

(信じてるにしろ、信じていないにしろ……)

危険であることは変わらない。

これから、暮都が進もうとしているのは、そういう道なのだ。

積極的に、この異常とも言える現状を探る。

必然的に、それはこれからグローリアのような存在に遭遇する可能性が飛躍的に上昇することを意味している。

それが分からないクレアじゃない。

「どうして……」

思わず、考えていたことが口に出ていた。

クレアの切れ長の双眸そうぼうが暮都を捉えた。

「どうしてって……決まってるじゃない、私達……と、ともだちでしょ!」

なぜか、頬を赤く染めながらクレアは友達という部分を強調する。

「友達って……なぁ、普通の友人ってのは、そこまでしないと思うが……」

「普通の友人って何?」

クレアの声が低くなり、暮都の発言を咎めるように鋭くなる。

「アンタの言う普通ってのは、一体何を基準にしているわけ?少なくとも私は、友達だったら相手を見捨てるような……一人で危険に晒すようなこと……しないと思ってる」

あまりにも真剣なクレアの言葉に、暮都は何も反論することが出来なかった。

相手は、自分を一人で危険へと向かわせたくないと思っていて、自分は相手を危険に巻き込みたくないと思っている。

互いに相手のことを考えているだけに、どうしようもない。

どこかで妥協しなければ、話し合いは平行線のままずっと終わらないように思えた。

「結局、俺たちはどうすればいいんだ……」

「そんな、難しく考えることなんてないんじゃない、私達は今まで通りでいいって、そういうことなのよ」

やけにのんびりとした口調でクレアは言う。

「暮都が言ったことが本当なら、WEOをやっている限りどこにいたって、危険があることには変わらない。それだったら、いっそのことを暮都が私を守ってくれればいいのよ。私だってただ守られるつもりなんてないし、暮都だって戦力は少しでも欲しいはずでしょ」

「…………」

戦力が必要だと言うことは、暮都だって百も承知だった。

いくら腕に覚えがあるとはいえ、シエラを倒したような得体の知れない強敵を相手にするなら、戦力がありすぎて困るということはない。

それに、昔と比べたらやはり暮都の腕は落ちているし、SPの面から言っても他のプレイヤーに遅れを取っていると言わざるを得ない。

SPの問題は些細なものだが、実力が拮抗している場合、選択肢の多さはそのまま勝敗を決する場合があるのも事実。

自分が一年前ほど、無茶を出来ないことを暮都自身も理解していた。

それだけに、クレアの助力はありがたい。

しかし、個人的な事情にクレアを巻き込みたくない。

もう二度とあの時のような光景を目にすることは耐えられない。

信じきった目でこちらを見つめるクレアに、胸が痛む。

それでも、暮都を言わざるを得なかった。

重たい口を開き、暮都は決定を告げた。

「やっぱり、君を連れて行くことは……出来ない……」

どうも、たちまるです。

更新が遅くて、申し訳ありません。

遅すぎて、もうこいつ更新しないんじゃねーかと思われた方すいません。

頑張って更新しますので見捨てないでくださいorz

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