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会合《assembly》 Ⅲ

「は?」

「いや、ごめん。なんかいつも自分のこと俺、俺って言ってるからずっと男の人だと思ってて……ほらクロードの容姿だって男キャラじゃない?それにしゃべり方が合わさったらどう考えても男だって思っちゃいますよね、よね!?」

「いや……それはもっともだが……」

こういう反応をされるのは何も初めてというわけではない。

しかし、男だと思ってました→実は女の子だったんですねという流れは初めてでだ。

それにしても、こうも勢い込まれて言われるとどうにもこっちが悪いことをしたような気持ちになってきてしまうから不思議なものだ。

しかし、間違いは間違いであるのでそれを正さなくてはいけない。

「俺は男だぞ」

「そりゃ私だって、クロードが女の子だっていう可能性を考えなかったわけじゃないの!もしかしたら、万が一ってこともあるって柳沢さんが言っていたし!でも、まさか実際に出くわしてみるとやっぱり現実感がないというか、これって現実なの?っていうか、…………えっ?」

あんぐりと大口を空けて、こちらを凝視したまま停止するクレア。

これが本当にお嬢様なのかと、暮都としては心底首を傾げたいところなのだが、暮都としても本物のお嬢様など見たこともないので、これはこれで有りなのだろうと勝手に納得した。

イメージというものは、いつだって崩壊される為にあるものだ。

「男って……えっ本当に……男の人……?」

「そういうことだ」

「だって、その……あの……見た目が……」

「あのなぁ、少しぐらい女っぽいからって、そんなに言われると俺も傷つくんだぞ……」

何回経験したとしても、こればっかりはなかなか慣れることは出来ない。

そもそも、慣れたらダメな気がするが。

「ご、ごめんなさい。私てっきり……勘違いしてました……」

「まぁ分かってくれるんならいいんだが……」

まだ少し疑わしそうに、こちらをまじまじと見つめるクレアに内心苦笑しつつも、これでやっと本題に入れると暮都は思った。

「それで、今日のオフ会がどういう主旨だったのか……忘れてるわけじゃないよな?」

「ええ、もちろんよ」

先程までとは打って変わって、クレアの雰囲気が変わった。

「パートナーを解消するって話とその理由、リアルに関わると言ったからには、ちゃんと私を納得させるだけのものなんでしょうね」

口調も鋭く、眼光もきつい。

先程までのクレアがお嬢様モードだとしたら、今のクレアはさしずめシンクレアモードといったところか。

「分かってる、俺もそれだけの事を言ったつもりだし、ちゃんとした理由もある。ただ、それを理解して納得してくれるかはクレア次第だけど」

そう、これからのある種、荒唐無稽とも取れる話をしっかりと受け止めてくれるのかどうか。

「NPC症候群という言葉を知っているか?」

「NPC……症候群……?」

案の定クレアは、聞きなれない単語を反芻(はんすう)して、首を傾げていた。

「正式な名称はまだないんだ、そもそも病気なのかすらも断定出来ていない。ただ、突然意識を失い目を覚まさなくなるというというのが、このNPC症候群に共通する症状だ」

「ちょっと待って、そんな病名は初めて聞いたけど、突然意識を失って倒れるですって?」

「そうだ」

「それで、意識を失った人はどうなるの」

「極稀なケースで、目を覚ますことがあるらしいが、大抵の場合は意識を失ったまま起きることはない。所謂植物人間というやつになる」

「そう、それでちょっと疑問なんだけど、なんでそんな病気なのかわからない症状にNPCっていう単語が付いてるのかしら」

流石、名門と名高いお嬢様学校に通っているだけあってクレアの頭の回転は速いようだ、話がスムーズに運ぶ。

「それは……なんでだと思う?」

「NPCつまり、ノンプレイヤーキャラクターというだけあって、どんな理由があるのかは、わからないけれどゲームが関係していると考えられるわね。それも、家庭機型のゲームとは考え難い、それでいて私とアンタが、こうやって顔をつき合わせて話しこんでいる理由に関係しているのならば、考えられるのは一つしかない」

WEO(ワールド・エンド・オンライン)

正解だった。

まさか、ここまで頭の回転が速いとは思ってもいなかった、と言えば失礼になるが、実際シンクレアの思考回路は、暮都も一目置かざるを得ないものだった。

「まさか、こんなに早く回答に行き着くなんてな……」

「意外だった?こう見えても私、現実(リアル)じゃそれなりのもんなんだから。あんまり舐めてもらっちゃ困るわ」

「そうだな、少しシンクレアに対する認識を改めなくちゃいけないみたいだ」

「ちょっと!?私の今までの評価ってどんなもんだったのよ」

「まぁ、それはどうでもいいんだが」

全然良くない!と頬を膨らませるクレアをなだめつつ、暮都は話を続ける。

「本題はここからだ」

暮都が真剣な顔をしたのを見て、クレアも居住まいを正した。

「先日、俺達はグローリアというPKに襲われたな」

「あの、趣味の悪い大剣を装備してた女ね。今度出会ったら絶対PKしてやるわ」

「それは……止めておいた方がいい」

「どうして?」

「その理由が……これなんだ……」

そう言って暮都は、自分の左腕をクレアにもよく見えるように掲げて見せた。

「それが……なんだっていうの?」

心底不思議そうに、クレアは暮都の左腕を見つめていた。

一見すれば、何の変哲もないただの左腕がそこにあるだけで、何もおかしいことはない。

ただ妙に、だらりと垂れ下がっていた。

「やる気のない、握手でもしようとしているようにしか見えないわね」

「本当にそうだったら、どれだけ良かったか……」

「それで、その腕がどうかしたの」

「俺が、グローリアと戦った時に切られた場所があったな」

「そうね、それが……?」

「それが、この左腕だ」

「それが、どうしたっていうのよ」

クレアも薄々勘付いているだろう事に暮都は気づいていた。

それなのに、頑なに分からないフリをしている理由が暮都には理解出来なかった。

だから、はっきりと言うしかなかったのだ。

「実はあの日ログアウトしてから、左腕の感覚がないんだ」

「…………」

もっと大仰な反応が返ってくると予想していた暮都は、クレアが思いのほか冷静であったことに驚いた。

それとも、単に今の話を信じていないだけか。

クレアはずっと黙ったまま、暮都の左腕に視線を固定して、何かを考えているようだった。

時間にして、数秒のことだったと思うが、暮都にとっては実際よりずっと長い間沈黙が続いたように感じた。

「そんな話を信じられると思う?」

更新にかなり間が開いてしまって申し訳ありません……。


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