狩り《hunting》 Ⅱ
「古城型のダンジョンは奇襲をかけるのが一番だ。視界が悪く少しでも味方と離れれば距離感が掴めなくなる。マップに居場所が表示されても目の前は真っ暗で、分かり辛いからな。パーティを組んでいたとしても確固撃破にもっていきやすい。ということで俺は奇襲をかけるべきだと思うんだが……聞いてるのかシンクレア」
クロードは説明を一旦やめてさっきからぼーっとしているシンクレアを睨んだ。
「えっあぁ……真正面から一気に畳み掛けてぶっ潰すんだっけ」
はっとしたように、こちらに焦点を合わせるシンクレア。
(こいつ……全然話聞いてなかったな……)
「さっきからボーッとして一体どうした。これからPKをするってのにそんなんじゃお前が一番最初に敵にやられてお陀仏だぞ。いっとくが俺がフォローするのにも限界があるんだぞ。レッドネームなんだから気をつけろよ」
「そんなことは分かってるわよ。言われなくてもね。私がどれくらい長くレッドネームやってると思ってるわけ。言わば私はその道のプロ。レッドネームの中レッドネームと言っても過言じゃないわ!」
ババーンという効果音が聞こえてきそうなくらいに堂々たる態度のシンクレアに辟易とさせられながらもクロードは自前の索的スキルをつかいながら周囲を警戒する。
「レッドネームのプロってお前称号持ちでもないのに、よくそんな大言壮語を吐けたもんだな。そういう事を言うなら称号の一つや二つ手に入れてからにしろよ」
「ばっ馬鹿ね!称号なんて持ってなくても私は強いの!それにすぐ称号なんて手に入れてやるわよ。今に見てなさい。私が称号を手に入れたら一気に有名人になってアンタなんか私と釣り合わなくなるわよっ」
「へぇ釣り合わなくなる……ね……」
「って……釣り合わなくなるってのはパートナーとしてだからッ別に他の意味はないんだから!勘違いすんじゃないわよ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶシンクレア。
それを見ていると、ドクン。と胸が高鳴る。
(こう見てるとシンクレアって可愛いよなやっぱり……って……何を考えているんだ俺は!?相手はああ見えてもゲームのキャラクターなんだぞ!リアルとは違うんだ!何が勘違いすんじゃないわよ。だよあざといわ!)
そう思っていても、目の前には現実と比べてもほとんど見分けがつかないような美少女がいるわけで、クロードが意識してしまうのも無理からぬことだった。
この世界で外見など、さほど意味ないものだと理解していたとしても。
「というか称号システムって結構前からあったのね。アンタって確か一年間引退してたんでしょ。その時からあるってことはもしかして、称号って最初から存在してたわけ?」
シンクレアは少し意外だとでもいいだけに呟く。
「まーそういうことになるのかな。最も称号システムってのは所謂隠し要素みたいなもんで、特定の条件を満たすことで手に入れられるようになるものだから、運営もいつ頃から称号システムが在ったのかは公式に発表してるわけじゃないけどな」
「はー私も早く称号が欲しいわ……」
「そんなに、称号が欲しいのか?」
「当たり前でしょ!称号がどんだけ貴重なのかアンタだって知ってるんじゃないの」
確かに、称号の価値をクロードは知っていた。
クロード自身が称号持ちとして一年前WEOであまりに有名だったからだ。
鮮血の死神。称号だけが先行しすぎて中身は追いつけなくなった虚像。
特定の条件を満たすことによって手に入れることの出来る称号は、それだけで特別な力を持っている。
攻撃力を高めたり、スキルの強化を出来るだけでなく、限定スキルや称号に付随する限定武器などの存在。それらが全て称号の価値として含められる。
必然的に、称号を手に入れたプレイヤーは莫大な力を手にしギルドのギルドマスターや領主などの重要なポジションにつくことが多い。
最も、クロードの場合は違ったが。
「そんな、いいもんじゃないと思うけどな。ありゃ一種の呪いみたいなもんだよ。称号を見ただけで他人になんらかの第一印象を植え付けるんだからな。それが良いって奴もいたみたいだけど」
「なーに、アンタまるで称号を持ってたみたいな感じで語ってるのよ。そもそも第一印象なんて下らないわ。そんなこと気にしてたらネットゲームなんてやってられないわよ。ここでは、身体という枠から開放されて精神だけが他人と付き合うための手段なわけでしょ。現実っていうしがらみが無い分好きに生きてける。私はそういうところが好きなの。だから気にしないわ」
「そういう考え方もあるか……」
口ではそう応えたが、クロードは納得しているわけではなかった。
結局いくら仮想とはいえ、完全に現実と分離できるわけがない。
(そうじゃなかったら……シエラがあんなことなっているわけがないんだ……)
「口では、肯定してるけど……そんな訳ないって顔してる」
気がついたらシンクレアの顔が真正面にあった。
こちらを心配するような、それでいて悲しんでいるような不思議な表情。
「自分では気づいてないかもしれないけど……クロードってたまにすっごくつらそうな顔するよね」
辛そうな顔。
思わずクロードはじぶんの顔に手を伸ばしていた。
手のひらは、皮膚の柔らかい感触を伝えてくる。
こんなことをしても自分がどんな顔をしているのか分かるはずがないというのに。
その様子を見てシンクレアは笑った。
嫌な笑いじゃない。
見ているこちらが暖かくなるようなささやかな笑み。
クロードは思わず見惚れてしまった。
―――ここが何処であるのかを忘れて。
どうも、たちまるです。
最近筆……じゃなかったキーボードの進みが遅いです。
なかなか思うように文章が書けない時期ですかね。