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狩り《hunting》

ワープゲートをいくつか経由し、シンクレアが装備している防具が最初に出会った時の真紅に輝くデザインの凝ったローブではなく、黒地の地味なローブである理由に気づいたのは、シンクレアがドヤ顔で目的地はここだと宣言した直後だった。

なるほど、ここなら絶好の狩場ポイントだといえるだろう。

クロード達が到着したのは、古城型のダンジョンだ。

現実世界では、まずお目にかかることの出来ないほどの巨大な古城。

窓は割れ蜘蛛の巣が張り巡らされ、階段はところどころ欠けて下手をしたら踏み抜ける危険もある。

奇妙な絵画、風雨で削られた銅像、時折聞こえる遠吠え、血がぶちまけられた客間。

深い闇が降りた古城の中は、いつどこからモンスターに襲われるか分からない恐怖を感じさせるには十分すぎるほど雰囲気を放っていた。

しかし、クロードは理解していた。

今回シンクレアが狩ろうとしているのは、この古城に住まう無数のモンスターなどではない。

「今日はここでプレイヤーを狩るわよ!」

活き活きとした表情で告げるシンクレアにやはりという諦観がクロードの胸に張り付くが、その理由を尋ねずにはいられなかった。

「どうして、大会への準備がPKすることに繋がるんだ」

「決まってるじゃない、対人戦に慣れるためよ!」

シンクレアのは、なに当たり前のことを聞いてるんだといった口調で言い切った。

これも半ば予想していた答えだけに、クロードは黙るしかない。

大体、レッドネームであるシンクレアのパートナーになると言ったら、これくらいの事はあって当然なのだ。

レッドネームは少数しか存在しない。

それは、レッドネームになるとPKされた時にキャラクターがデリートされてしまうという過酷なデスペナルティを課せられるというのが理由だけではない。

レッドネームになるためには、連続30人PKを成功させるという高難易度の条件をクリアする必要があるからだ。

闘技場や大会での正々堂々とした公平な戦いではない、フィールドやダンジョンに冒険に来ているプレイヤーを狩るPKは、その特性から難易度の上下が激しい。

一人だけの相手をPKすることは比較的容易だろう。

モンスターとの戦いに気を取られているところを後ろからでも不意打ちを加えて、一撃で落とすことも可能ではある。

しかし、多くの場合プレイヤーはパーティを組み一人で行動することは少ない。

WEOの狩りのシステム上パーティで狩りを行う方が効率が良いからだ。

一人で狩りをする場合モンスターを狩ると一人分のSPしか取得することが出来ないが、パーティで狩りをした場合一体のモンスターから得られるSPはパーティの人数だけ分割されるものの、そこにはボーナスが含まれ通常より多くのSPを取得出来る。

当然、一人で一体のモンスターを狩るよりも複数人で一体のモンスターを狩った方が早い上に、パーティ内で前衛、後衛さらには回復役や囮役などの役割分担をすることによって、効率を上げることが出来る。

そして、PKはそんなパーティで行動するプレイヤー達を狩るのだ。

もちろん、PKも一人でいるとは限らない。現にクロードがWEOをプレイしていた頃には、PKギルドというものが存在していた。

PKもパーティで行動する。

しかし、レッドネームプレイヤーにそれは当てはまらない場合が多い。

なぜなら、PKが他のプレイヤーをキルする理由の多くは装備品の強奪にあるからだ。

ただ相手の装備やアイテムを奪うなら、キルした相手の装備やアイテムやゴールドを3分の1の確立で奪うイエローネームでも問題ない。

だが、レッドネームは負ければ自分がデリートされる。すなわち死ぬ。

そんな危険を冒すくらいなら、まだ狩りをした方が効率が良いだろう。

つまり、レッドネームは利益など見ていない。

クロードの経験上、レッドネームのほとんどは、現実に近い戦い、負ければ死ぬ戦いを求めている戦闘狂(バトルマニア)が圧倒的に多かった。

「なぁ、どうしてもPKしないとダメなのか?闘技場とか行けばいいじゃないか」

聞いても無駄だろうと確信しているが、ダメ元で聞いてみる。

「闘技場の連中は好きじゃないわ。あいつら私達PKを敵対視してるじゃない。ことあるごとにちょっかいだしてくるし、まるで自分達がヒーローだとでも思ってるんじゃないかしら。それに、闘技場にはうっとうしい観客もいるでしょ。私は戦ってる最中にギャーギャーわめく奴らが大ッ嫌いなのよ!観客席が攻撃禁止区域じゃなかったら、範囲魔法で爆死させているとこだわ」

どうやら過去に何かあったらしい、シンクレアの闘技場嫌いは異常なほどだった。

思い出して怒りに頬を上気させているシンクレアは、未だに暴言を吐いている。

「わかった、わかったから闘技場で戦うのは無しだ。でも、どうして対人戦に備えなきゃいけないんだ?シンクレアの実力があれば、結構楽勝なんじゃないか?」

「わかってんじゃない、そりゃ私ほどの実力があればある程度の奴らなら余裕で燃やし尽くして見せるわ。でもね、あの女クロエはある程度で留まるような奴じゃないのよ」

「どういうことだ」

確かにクロエは、良い防具を装備していたように思うし武器もかなりの業物だと思う。

しかし、それだけでシンクレアがそれほど警戒するとは思えない。

「あいつはね、見えない剣を操るのよ」

「見えない剣?」

もし、シンクレアの言うことが本当だとしたらクロエは思っていた以上に厄介な相手だ。

WEOでは、使用するスキルの攻撃範囲は装備している武器のリーチに左右される。

大きさも長さも分からない不可視の剣でスキルを振るわれたら避ける事もままならない。

「そんな剣が本当にあるのか?俺も引退する前は結構WEOにどっぷりハマってたんだが、そんなレア武器の事なんて聞いたことないぞ」

「私だって聞いたことないわよ。そもそも不可視の剣なんてあるわけないと思ってたもの。それこそチートでもしない限りはね」

「そういえば、どうしてクロエが見えない剣を使っている事を知っているんだ?」

「一回だけ見たことあるのよ、クロエがその剣を使っているところ。フィールドに出ている時にね。一瞬だったけどクロエが何も持っていない手を振るってPKしているのを見たわ」

「クロエもPKだったのか!?」

「ああ、アンタは知らなかったっけあいつもPKよ、イエローネームだけどね」

「先に教えといてくれよ……」

「フンッあんな女のことなんて知る必要ないわ」

クロエの話題を出したのはどこのどいつだと声を大にして言いたいが、話しがこじれること間違いなしなのでクロードは口をつぐんだ。

「それで、アンタはやるのかやらないのかさっさと決めてくれないかしら。私は別にアンタがやらないって言ったとしても怒らないわよ。別にアンタが参加しなくても私一人で今までだってやってきたんだし……」

そう言いながらも、シンクレアはどこか寂しそうに(うつむ)いた。

『WEOで友達出来たのって初めてなのよ』

ふと、シンクレアがそう言っていたのを思い出す。

(ずるいよな……ほんと)

まるで捨てられた子猫のような表情でこちらを見つめるシンクレアにクロードは静かにため息をついた。

「レッドネームはPKしない」

「えっ?」

「俺がお前と一緒にPKをする条件だ」

「一緒に……PKしてくれるの?」

「まぁ正直に言って乗り気じゃないけどな。でもPKは別に嫌いじゃない。ただレッドネームだけはPKしないことに決めてるんだ。そのおかげでシンクレアも助かってるんだから許してくれるよな?」

「うんっそんなの全然いいわよっありがと!」

パァッと花が咲くようにシンクレアは満面の笑みを浮かべる。

それを見てクロードは胸が熱くなるのを感じた。

(なんか……懐かしいな……)

三年前は自分もこんな顔で笑っていたような気がする。

「それじゃいくわよ!」

「はいはい」


どうも、たちまるです。

最近ラノベをあまり読めていません。

何かオススメがあったら教えて欲しいです。

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