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本質の変革者


夕方、私は町の古い図書館の個室で、一人、本をめくっていた。

ギルヴェルトさんは、外で見張りをしてくれている。

風が、窓からそっと入ってきて、燭台の炎を揺らした。


私は『古魔法学考証・第Ⅲ巻』の、奥付の裏に、小さく記された一文に釘付けになっていた。


「『性質』『型』とは、『生物の本質』なり。すなわち、人間が『変える』ことなどできぬ。だが、それを可能とする者がいる。この魔法を行使する者は、『本質の変革者』と呼ばれ、かつては『神の子』と恐れられた。」


……神の子。


私はその言葉を、口の中で、何度も繰り返した。


いやいや……ないでしょ。

ない、ない。


私は瞬時に見なかったことにした。


――本質の変革者。

『変革』とは――

組織などを、根本からつくり変えて新しいものにすること。


だからギルヴェルトの毛は生え、イザベルさんの指は動き、リリちゃんの耳は音を拾い始めた。


『変革』は、『創造』……に、近いのかもしれない。


それはまさに――

『神の領域』。


変化があるということは、どこかで帳尻を合わせるために、歪みが起こる。

私の『変化』によって、なにが起こるのか――


私は、足元から這い上がる何かに、背筋を震わせた。


そんな時、図書室の奥から、静かな足音が近づいてきた。

ギルヴェルトさんが、一冊の古い本を私の机に置いた。


表紙には、金箔で——


『禁忌の書:本質の境界線について』

著者:不明(王立図書館封印印付)


「……これ、どうやって?」


「盗んだわけじゃない。」


彼は、軽く笑った。


「ただ、『この本を、お前が読むべき時が来た』って、図書館の老婆が、渡してくれただけだ。」


その女性は、何者なんだろうか……?


私は、その本の表紙に、そっと指を触れた。

すると判定板が熱くなった。


取り出して見てみると――


体質変化 LV.2

体型変化 LV.2


判定板が、はっきりと光っていた。


ギルヴェルトさんは、静かに言った。


「……お前が、『誰かの本質』に触れるたびに、自分の『本質』も、少しずつ変わっていく。それが、この魔法の……『代償』かもしれないな。」


『代償』……怖い言葉だ。


私は、本を開いた。

最初のページには、誰かの震えた筆跡で、こう書かれていた。


「『変化』は、鏡だ。あなたが誰かの『本来の姿』を照らすとき、その鏡に映るのは、あなた自身のまだ見ぬ『本来の姿』。」


私はその文を読み終えると、窓の外を見た。

夕陽がやけに赤く、空を染めていた。


これから私は、誰かの本質を、自分の本質を、この世界の、歪んだ本質を——

ひとつひとつ、確かめながら進んでいく。


……そして、その先で待っているのは――





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