003 タイラーとの出逢い
パルマは人差し指を立て、ことさらに意地の悪い笑顔を浮かべた。
「嫌ですよー。散々私のことをなじってきたヒトに、魔法発現に必要な魔力など与えませんー」
「なじったつもり、ないですけどね」
「ないかどうかは私が決めるんです~、私は人間の上位存在ですよ?」
「うわぁ、こんな上位存在は嫌だなぁ」
「まぁ、その見た目なら男のヒトをたぶらかせば良いんじゃないですか? さて、私はアンゲルスのお酒を探しに──」
「もし、アンゲルス屈指のお酒をプレゼントすると言ったら?」
「え」パルマの足が止まる。「アンゲルス屈指のお酒? それはぜひとも飲みたいですし、仮に手に入れられるのなら、貴方に魔力を開発してあげても良いですよ」
やはり、この天使は酒に弱い。酒を釣具にすれば、たいていの願いを叶えてくれそうなくらいに。
「そうですか。なら、探しに行きますよ」
もちろん、宛があるわけではない。13歳の少女に酒を売る者がいるのなら、むしろ見てみたいほどに。それに、渚は酒の良し悪しも分からない。完全なる見切り発車であった。
それでも、この世界でまともに生き残りたいのなら、美味な酒を見つけるほかない。情報なんてなにもないが、同時にこの見た目は使えるのも事実だった。そう。倫理的にはよろしくないが、適当なスーパーに入って一番高い酒を万引きすれば良い。この見た目なら、見つかってもお咎めだけで済む。万引きなんてしたことないが、やるしかない。
「なら、私はここで待っていますよ~。精々がんばってくださいね、ヒトの子」
「はいはい……」
というわけで、スーパーへ向かう時間がやってきた。まず、街に設置された地図を見てみる。当然ながら、何語か分からない。異世界転生したら、その世界の言語を理解できるのではないのか? そう思いながら、立ち往生していたら、
「やぁ。君、日本人?」
聞き慣れた単語が耳に入ってきた。地図から右横に目をよこす。隣にいたのは、紫髪で高身長な女性だった。タレ目で、どこか温和そうな雰囲気が漂っている。
「そうです」
「観光客なら、翻訳アプリくらい持ってるよな。ということは……転生者?」
「だとしたら?」
「別に捕まえるわけじゃないさ。確かに私は軍人だけど、きょうは非番だからね」
「……軍人?」
「私はタイラー・スレッジハンマー中佐。君と同じく、転生者だよ。君は?」
「佐藤渚です」
「渚ね。なにを探してるんだ?」
「お酒が売ってるところです。なんか、守護天使だと名乗るヒトが、魔力がほしければ酒を持って来いっていうから、万引きしようと思って」
「ファンキーなちびっ子だなぁ……」タイラーは目を細める。「まぁ良いや。同じ転生者だし、私が酒買ってやるよ。なにが欲しいの?」
「お酒飲んだことないから分かんないですけど、一番良いお酒がほしいとのことです」
「なら〝グリフォンズ・ティア〟だな。あれ3000メニーくらいするけど、まぁ良いや」
「3000メニーって、日本円でおいくら?」
「30万円ってところだね」
「ヤバッ」
「酒はカネがかかるからな~。私も昔は、スピリタスとエナジードリンクを一気飲みしてたよ」
「は? スピリタスって、世界最強のお酒って聞いたことあるんですけど」
「そりゃあ私、スライム娘だもん☆」
そう言って悪戯っぽく笑うタイラーに、渚は開いた口が塞がらなかった。スライム娘? 物語の中だけの存在だと思っていたものが、こうもあっさりと目の前に現れるとは。
「え、えっと……スライムって、あの、ぷにぷにした……?」
「そー。ま、触れてみろって」
シャツをまくったタイラーは、鮮やかな緑色に変化している右腕を見せてきた。




