002 日本のお酒はとても美味らしい
展開が強引過ぎる。三文小説も良いところだ。そう思いながらも、いきなりマイアミみたいな街……パルマいわく『アンゲルス連邦共和国』に転移、いや見た目が変わっているから転生? してしまった事実は揺るがない。
それに、声からして女子になってしまったのは間違いない。先ほどの声は、どう考えても少女のそれだからだ。鈴のように美しい声色。では、見た目は?
渚は呆然としながら、歩き始める。そして、ちょうど全身が見られるガラスを見つけ、それで自分の身体見た。そこへは、闇落ちしたのかよ、とツッコたくなるような金髪の少女がいた。
「あ、ちょ、私を無視しないでください!!」
目は緑色──いわゆる翠眼というヤツであろう。顔立ちはあどけなく、身長も相まって13歳くらいの少女……ちょうど渚と同い年くらいに見える。顔を触ると、きめ細やかで滑らかな肌触りを味わえる。ある意味夢が叶った、といえるのか。
「渚さん! 私は守護天使ですよ!? 人間から崇拝されて当然の存在なのです!」
そして異世界。つまり、『美少女になって転生したい』という願いは叶ってしまったわけだ。もっとも、異世界らしくない異世界だし、まだマイアミにテレポートしたと考えたほうが理にはかなっている。
「なんで無視するのですか!? そのような態度では、天からの助けを得られませんよ!?」
人間、思った通りに進まない。そんなことくらい分かっていたが、いざこうなると溜め息のひとつもつきたくなってしまう。あぁ、これからどうすれば──。
「なーぎーさーさん!!」
「……うるさいなぁ。アンタ、さっきからなに言ってンの?」
「え、聞こえていたのですか?」
「金切り声は嫌いなんで、聞こえてますよ。ただ、返す言葉もない」
「返す言葉もないって、どういうことですか! もっとこう、感謝とか、畏敬の念とか、そういうものはないのですか!」
「おれって、言い方を変えれば拉致被害者ですよね? なんで拉致された者が、加害者に感謝するんでしょうか」
「拉致ではありません!! 神のお導きです!!」
「酒で潰れてたヒトが、神様とやらを語るんですか?」
渚の刺々しい言葉に、パルマは「うぐっ」と言葉を詰まらせた。図星を突かれたのか、あるいは単に反論を思いつけなかったのか。しばらく悔しそうに唇を噛んでいたが、やがてぷいっとそっぽを向き、咳払いを一つした。
「……まぁ、良いでしょう。貴方のような無知で蒙昧なヒトの子に、この私が直々に、この素晴らしき世界『アンゲルス連邦共和国』について説明して差し上げます。ありがたく拝聴なさい」
腕を組み、ふんぞり返るパルマの態度は癪に障るが、情報がないことには始まらない。渚は黙って耳を傾けることにした。ガラスに映る見慣れない金髪美少女の姿には、まだ実感が湧かない。
「まず、貴方がいた世界……21世紀の日本のお酒はとてもおいしく──」
「頭の中、お酒しかないんですか?」
「ごほん。あの世界と同じ時間軸に存在する世界、を考えたことはありませんか?」
「バタフライ・エフェクトを起こして、別の発展を遂げた世界みたいな?」
「そうです。ここはいわば、平行世界なのです。貴方たちの世界は科学有りきで発展していきましたが、ここには〝魔法〟がある。もしも魔法と科学が同じ具合に発展したら……という世界なのです」
「へー。ちなみに、魔法らしい魔法を見ないような気がしますけど。杖使ったりとか、空を飛ぶ絨毯だったりとか」
「それらは、時代の流れとともに淘汰されて行ったのですよ。飛行機があれば、絨毯はいらない。魔法を手だけで発動できれば、杖はいらない。人間も多少は考えているようですね」
「なるほど。2020年レベルの技術を持ちながら、魔法もあると。面白そうな世界ですね。けどひとつ。自分でいうのもなんだけど、おれみたいな美少女って、魔法を使って犯される可能性もあるんじゃないですか? パルマさんが魔法をくれるなら別ですけど」




