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5話 傷を越えて、蘇る少年

 大剣で胸を貫かれたアルビは、動かず、呼吸もしていなかった。顔から生気が抜け、まるで人形のように見えた。


「終わりましたよ。約束の金、ちゃんと払ってくださいね」


 血に染まった大剣を肩に担ぎながら、ガリスがそう告げると、ギルバートは突然、声を上げて笑い出した。


「はっはっはっ! よくやった! 金は約束通り払ってやるさ!」


「この人でなし!」


 アンナは泣きながら、ギルバートとガリスを強く睨みつけた。怒りと悲しみに震えるその瞳を見たギルバートの顔から笑みが消える。


「おいアンナ……そんな目をするなよ」


 ギルバートはアンナの髪を乱暴に掴み、耳元で低く囁いた。


「アンナ~、お前もああなりたくないなら、俺の女として生きたほうがいいと思うぞ?」


「……死んだほうがマシよ!」


 アンナは顔を背けて吐き捨てた。だがギルバートの笑みは戻っていた。


「そうか……じゃあ、お前の母親と妹も、俺の手で始末させてもらうか」


 その言葉に、アンナの顔から血の気が引く。絶望に染まった彼女の表情を、ギルバートは楽しげに眺めていた。


 そのときだった。


「ぐあっ……!」


 ガリスが突然、呻き声を上げて崩れ落ちた。頭から血を流している。


「誰だっ……!?」


「僕はまだやられてないよ」


 その声が響いた先に立っていたのは――間違いなく、死んだはずのアルビだった。


 血塗れの衣服に身を包みながらも、その瞳はしっかりと前を見据えている。ギルバートもアンナも、言葉を失った。


「なん、なんで生きている……?」


「僕はね、死なないんだ」


「ふざけるなっ!」


 怒声と共に、ガリスが立ち上がる。大剣を高く掲げ、怒りをぶつけるようにアルビへと斬りかかる。


 避ける素振りも見せず、アルビは右肩から腹部にかけて、深く斬り裂かれた。肉が裂け、血が溢れる。だが――。


「これでも、強気でいられるか?」


「痛いのは痛いけど……でも、死ねないから意味ないんだよね」


 アルビの言葉通り、斬られた傷がみるみる再生していく。その異様な光景に、ガリスもギルバートも、言葉を失う。


 右手が完全に戻ると、アルビは杖を手に取って構え、迷いなく突きを放った。ガリスの腹部へ、一直線に。


 鋼の鎧を着けていたはずのガリスだったが、アルビの突きは鋭く、まるで紙を裂くように貫いた。


「がっ……!」


 そのままガリスは地に崩れ落ち、動かなくなった。


「ば、化け物……!」


 震える声でギルバートが言い、怯えながらアンナを盾に取った。


「これ以上近づくな! アンナが死んでもいいのか!?」


 アンナの喉元にナイフを突きつけるギルバート。だがアルビは、一切足を止めない。


「おい……!」


 焦りがにじむギルバートの手元が狂い、ナイフがアンナの肌を浅く裂いた。血が一筋、流れる。


 その瞬間、アルビが動いた。


 一閃。ギルバートの懐に入り、杖の柄で顔面を打ち抜く。


「ぐっ……!」


 ギルバートは吹き飛ばされ、背後の壁に激突して気を失った。


「アンナ、大丈夫?」


「……ええ。私は大丈夫。……でも、あなたこそ……本当に平気なの?」


 アルビは彼女に手を差し伸べた。だがアンナは、その手を見つめて、わずかに怯えているようだった。


 それも当然だ。さっきまで死んでいたはずの人間が、何事もなかったように立っているのだから。


 アルビは、静かに視線を伏せた。やはり、自分は普通の人間とは違う。これ以上彼女たちと関わるべきではない。


「このまま真っ直ぐ行けば村に戻れるよ。リョカ達も心配してるだろうし、早く帰ったほうがいい」


 そう言って、アルビは背を向けた。


「どこに行くの……?」


 アンナが、すがるようにアルビの腕を掴む。


「僕がこの町にいると、また誰かが傷つくかもしれない。だから……出ていくよ」


「……体が再生して、死なないなんて、びっくりした。でも……それでも、あなたが優しい人だってことは分かってる」


 その言葉が、アルビの胸に静かに染み込んだ。遠い昔、同じ言葉を誰かに言われた記憶が、ふとよみがえる。


「……いいの? 僕みたいなのが、ここにいても……」


「何、変なこと言ってるの。さあ、一緒に帰ろう」


 アンナはそう言って、アルビをそっと抱きしめた。


 その温もりに触れ、アルビは思い出した。忘れかけていた、人の優しさが――こんなにもあたたかく、やさしいものだったことを

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