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4話 廃教会に灯る希望と、散りゆく命

 アルビはアンナを助けるため、町の東にある廃教会を目指していた。

 アンナの母親によれば、ギルバートの根城はその廃教会だという。


 本当にそこにいるのか。確信のない足取りだったが、廃教会が近づくにつれ、迷いは霧のように晴れていった。

 道の先に松明の灯りが見え、数人の男たちが武器を手に立ちはだかっていたのだ。


 その中には、数日前にギルバートと一緒にいた体格のいい男たちの姿もあった。


「白髪……あんたがアルビってやつか。情報通りだな」


 一人の男がにやりと笑いながら近づいてきた。ぼさぼさの髪に汚れた服、鈍く光る刃。手入れのされていないその装備と雰囲気から、ギルバートが雇った盗賊たちであることは明らかだった。


「そこをどいてください。急いでいるんです」


 アルビが静かに言うと、男たちは一斉に剣を抜いた。


「それは無理な話だ。誰も通すなって命令だ」


 数秒後、戦いが始まった。


 アルビは杖を構え、男たちの攻撃を身軽にかわしていく。重たい一撃を躱し、間合いを詰めては一撃で無力化する。動きに迷いはない。力ではなく、技で戦うアルビの姿に、敵は次第に怯み始めた。


 やがて、一人、また一人と逃げ出していく。その中には、先日ギルバートといた体格のいい男二人の姿もあった。


 数分後、地面に倒れ伏したのは盗賊たちだった。


 息ひとつ乱さず、アルビは血のついた杖を握り直し、廃教会へと足を速めた。



 廃教会は、外壁の半分が崩れ落ち、屋根の一部も抜けている。何年も使われていないのは明らかだった。

 その中に踏み込んだ瞬間、アルビは祭壇の前に捕らわれたアンナの姿を見つけた。


「アルビ!」


 アンナが悲痛な声で叫ぶ。その両腕は縄で縛られ、ギルバートが背後に立っていた。


「よく来たな」


「ギルバート、アンナさんを離せ!」


 叫ぶと同時に、アルビは杖を構え、ギルバートへ駆け出した――その瞬間。


 横から突如、凄まじい衝撃が飛んできた。


 アルビは咄嗟に杖で受け止めたが、力は凄まじく、そのまま弾き飛ばされた。受け身を取りながら起き上がると、そこにいたのは、大剣を肩に担いだ屈強な男だった。


 男は無言で酒瓶を煽ると、空になった瓶を足元に投げ捨て、大剣を振りかぶった。


 振り下ろされた一撃をアルビは辛うじてかわす。地面が抉れ、石畳が割れた。


(今までの奴らとは、まるで違う……)


 直感が警鐘を鳴らす。


「だりぃ……」


 男は気怠げな声で呟きながら、なおも大剣を肩に乗せていた。


「こいつはエビル帝国の元騎士隊長、ガリス様だ。貴様みたいな小僧に勝てる相手じゃない!」


 ギルバートが後ろで叫ぶ。まるで自分の戦果のように。


「報酬はちゃんと弾んでくださいね」


 ガリスがぼそりと答えると、大剣を再び大きく振りかぶり、突進してきた。


 アルビは杖で受け止める。鈍い金属音が廃教会の中に響いた。


 重い。腕が痺れる。地面が軋み、膝が沈む。ガリスの一撃は、まるで岩を落とされたかのような破壊力だった。


「やるじゃねえか!」


 ガリスが笑った。戦いを楽しんでいる、それが分かった。


 押し負けると感じたアルビは、杖を斜めにずらして攻撃を受け流そうとした。しかし――


 ガリスはその動きを読んでいた。


 剣の軌道が、縦から横へと鋭く変化する。アルビの腹部を深々と切り裂いた。


「アルビ――!!」


 アンナの悲鳴が響く。


 血が舞い、アルビの体が崩れ落ちる。祭壇前に血の池が広がっていく。


「よっしゃあ!! アルビは死んだぞ――!」


 ギルバートが勝利を確信したように叫び、拳を振り上げた。


 アルビは、浅い呼吸をしながら地に伏していた。赤い液体が絶え間なく流れ、命の灯火が揺らいでいる。


「悪いな。恨みはねえが、仕事だからよ」


 ガリスが静かに呟くと、大剣を持ち直し、アルビの胸に突き刺した。

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