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1年C組 新人戦予選組み合わせ会議

4月9日──


時刻は午前10時、自室のベッドで天井を見上げるタツミは、昨日の宍戸 トウマの言葉を思い出していた──「僕と新人戦予選で戦ってくれないか?」


宍戸君はやっぱり浅倉家と何かあったのか?何か目的があるのか?なぜ僕なんだ?僕が浅倉家と関係があるから?そもそも宍戸君の理術の実力はどうなんだ?

考えても答えがでない疑問ばかりが浮かんでくる。


トウマへの返答を保留にして、タツミは昨日から迷い続けている・・・本音を言えば新人戦に興味がないわけではない。

 しかし稽古や手合わせでしか理技戦の経験はなく、勝敗がはっきり分けられる試合の経験はない・・・なにより自分の実力に自信が持てない。


断る理由なんていくらでも考え付く、しかし出会ったばかりとはいえトウマは友人だ。少なくともタツミはそう思っている。

 何かしらの事情があるとはいえ、その友人が勇気をだしてタツミに理技戦を申し込んだのだ。その思いに報いたい・・・


考えても結論の出せないタツミはある人物に相談することにした。




その日の午後、稽古のために三上 アキラが浅倉家へと入る、彼を待っていたタツミは玄関先で声をかけた──

「あの、三上さん」


「ん?ウィース!タツミ君!早いね!気合入ってるね~」

そういうアキラこそ、時間の30分前にも関わらず稽古に来ている。


「えっと、ちょっと相談したいことがあって・・・」


「相談?嬉しいね!僕を頼ってくれるなんて、なんて可愛い後輩だ!」

先輩らしく振舞えることが嬉しいのか、アキラは上機嫌でタツミの悩みを聞いてくれるようだ。



昨日の顛末と今の自分の考えや思いを包み隠さずアキラに話した。アキラは話を遮ることなく黙ってタツミの話を聞く、そして一通り話を聞き終わったあと口を開いた・・・


「えっと、まずタツミ君は新人戦出る気なかったの?もったいないよ!タツミ君ならいいところまで行けると思うんだよな~」


「えっ?そんな僕なんか・・・」

タツミは謙遜してそう言うが、自分を高く評価してくれることは素直に嬉しい。


「じゃあさ、例えばこの前の松永と戦ったとしたら、勝てる自信ある?」


少し間を開けてタツミは答える。

「あの試合が松永君の全力だとしたら、もしかしたら・・・勝てる・・・かも」


「勝てるよ! たしかに松永の本気の力はわからないけど、僕はタツミ君も負けてないと思うんだ。


前も言ったけど僕は・・・いや僕もマオもゲンさんも、そしてミノリ様も本当に君に期待しているよ。なんといっても君はあのマサムネさんの教え子だしね!


それに新人戦で結果を出せば、きっとメイだって君を認めると思う・・・」


タツミはアキラの期待に応える言葉がわからない。だから何も言えずにアキラの横顔を見つめるだけ・・・そんなタツミの方に目を向けてアキラは言葉を続ける。


「そして宍戸君・・・彼の思いや考えはわからないけど、どんな理由があるにしても、彼との理技戦から逃げたら君はきっと後悔する。

 たしかに家同士のしがらみは僕等を縛る・・・けれど友情に家は関係ない!友人だからこそ、お互いをより知るために戦うのも決して悪くないと思う。同じ理術師だからね。」


本当は最初からわかっていた。肯定してほしかった──認めてほしかった──背中を押してほしかった。アキラの言葉はタツミが求めていたものに他ならない。


「でもね、決めるのは君自身だ。自分の心に従うべきだよ。タツミ!」


「・・・先輩、ありがとうございます」

タツミは頭を下げて礼を言うと、武道場に向かって走り出した。


アキラは走り出したタツミの背中を見つめて微笑む・・・

(ああ・・・悩める後輩の相談に乗り導く・・・これこそ正に先輩の理想像!誰か今の僕を、理想の先輩である僕を見てくれ・・・)


自分の言動や行動に酔いしれる・・・この癖さえなければ三上 アキラは確かに理想の先輩と言えるのかもしれない。


タツミはアキラのアドバイスに背中を押されて稽古に打ち込む・・・自分の中で決断は済ませた。




4月10日──


いつもより10分早く登校した1-Cの教室内にクラスメートの数は少ない。タツミは自分の席に座りトウマを待つ・・・



それから5分・・・教室に入るトウマを見つけると、すぐに声をかけた。 「おはよう、宍戸君」


いつもと同じ調子で挨拶をするが、トウマはどこか緊張している様子で挨拶を返す。


「あのさ、ちょっと話せないかな?」 

トウマはタツミの提案に応じて、二人は教室を出た。



廊下の窓から並んで外を眺める・・・ほんの少しだけ躊躇したがタツミはトウマのからの申し入れに答えを出す。

「宍戸君・・・受けるよ。やろう、理技戦」


驚いてタツミを見る──タツミは真っ直ぐ外を見たまま目を合わせない。トウマはすぐに俯いて目線を外して言う

「・・・断られると思ってた」



少しの沈黙の後、タツミが口を開く・・・

「一つだけ教えてほしい・・・僕が浅倉の門下生だから、僕と理技戦をやりたいの?」


「・・・そうだね。君が浅倉の関係者だから理技戦を挑んだ・・・それは間違いない」


「・・・」


「信じてもらえないかもしれないけど、偶然だったんだ・・・君が浅倉の関係者だったから近づいたんじゃない・・・本当に友達になれると思ってた」


「・・・宍戸君、君と浅倉家にどんな関係があっても僕は君を友達だと思っている。だけど理技戦をやる以上、負けるつもりはない。

 でもできるなら浅倉家の僕ではなく、君の友人として、お互いを知るために戦ってもらいたい」



「・・・ありがとう。こんな僕を友人だと言ってくれて・・・そうだね。せめて君の思いに対しては、全力で応えるよ」


トウマは体を向けて右手を差し出す・・・タツミはその手を強く握り返した。




その日の放課後──

 授業が終わり、本来なら帰り支度をする生徒たちの大半が教室に残る。本城が教室の壇上に上り、残っているクラスメート全員に向かって呼びかける。


「ではみんな、この前話したように新人戦の代表を募りたいと思う。希望する者はこの場で前に出てきてほしい」


代表を希望する立候補者たちが壇上に並ぶ。右から、日野 ユウキ、松永 ダイチ、土屋 アスカ、本城 ツバサ、千堂 ミナミ、ビス・ロータス、宍戸 トウマ、石川 タツミ、和田 キヨタカ・・・


本城 ツバサ──「9人か、思ったより少ないな」


日野 ユウキ──「この前の松永の試合見てりゃあよ、ビビる奴も多いだろ」


土屋 アスカ──「で、この中からどうやって4人を選ぶんだ?」


千堂 ミナミ──「9人だから、1対1でやるにしても一人余っちゃうよね・・・だけど松永君は津田君と既に()っているから、松永君を除いた8人が1対1で戦えばいいと思う。

 そしたら勝った4人と松永君で5人までは絞れるね」


松永 ダイチ──「・・・つまらんな。それなら俺意外に残った四人のうち、その中の一人と戦らせろよ。そいつを落とせば手っ取り早く代表四人が決まるだろ」


本城 ツバサ──「まぁそれは実際5人まで絞られたら考えるとして・・・今は対戦相手をどう決めるかだけど・・・」


宍戸 トウマ──「あ、あの」

日野 ユウキ──「そんなもん、じゃんけんとかくじ引きでいいだろ」


宍戸 トウマ──「あの──」

ビス・ロータス──「ノンノンノン・・・それじゃあ、ツマラナイ!

 ここはイニシエからのデントウてきスポーツ、スモウレスリングでキメまショウ!」


日野 ユウキ──「なんで対戦相手決めるのに相撲しなきゃ・・・いやまて相撲・・・女子・・・」日野に電流走る──!

「素晴らしい!素晴らしい案だよ!ビスちゃん!!」


千堂 ミナミ──「相撲かぁ・・・あんまり自信ないなぁ」


宍戸 トウマ──「あのっ!!」

 ようやくトウマの声が届く・・・その一声は、場にいる全員の視線を集めた。


「あっ、ゴメン大きな声出して・・・えっと、ちょっと聞いてもらいたいんだけど、その、僕はもう石川君と戦うって約束したんだ。ねっ石川君」

 

「えっ、あ、うん」

名前を呼ばれて一瞬焦ったが、タツミは同意する。


日野 ユウキ──「OK!OK!じゃあ二人は決まったから、残りは相撲で決め──」

本城 ツバサ──「二人が同意済みなら問題ない。では残った僕等も対戦相手の希望があれば指名しないか?同意を得られれば、その二人で対戦すればいい・・・」


日野 ユウキ──「対戦相手に希望がなければ相撲で決めるんだな!なら俺は指名しない!」


土屋 アスカ──「じゃあアタシは、アンタと戦りたい」

指さしたのは、本城 ツバサ・・・

 

本城 ツバサ──「・・・光栄だね。断る理由はない。承ったよ。土屋君」


2組の対戦相手が決まり残るは4人


千堂 ミナミ──「えーじゃあアタシはどうしようかな・・・」


ビス・ロータス──「ユウキさん!ワタシ、アナタと、その・・・ヤりたいです」

ビスは日野ユウキの手を取りおねだりをする。ブロンドで青い目と、絵に描いたような美女に目を潤ませてお願いされれば断れるはずもない。


日野 ユウキ──「ヤりましょう!麗しいレディの誘いは断っては男が廃りますからね」



千堂 ミナミ「じゃあ、残ったのは私と和田君だね。みんな相手が決まっちゃったから、余り者の私で悪いけど、お手柔らかにお願いします」


礼儀よく頭を下げるミナミに一言、和田 キヨタカがつぶやく──「相撲・・・やりたかったな」


「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」



とにもかくにも松永を除く8人の対戦カードが決まった。石川タツミ 対 宍戸トウマ、土屋アスカ 対 本城ツバサ、ビス・ロータス 対 日野ユウキ、千堂 ミナミ 対 和田 キヨタカ・・・


本城 ツバサ──「では対戦相手も決まったことだ。どうだろう、今後の新人戦本戦も考えると代表の選出は早い方がいい・・・みんながよければ明日にでも、まとめて監察委員会に申請する。そしてそのまま4戦、その日のうちに行わないか?」


当事者八人に断る理由はない。1-Cの代表を決める新人戦予選4組の闘いは、こうして明日執り行うことになった。



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