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開幕戦

4限目の理基学講習を終えた一年生達は特別講習場を出る。


そのまま昼休みになったので直接学食へと向かうと食堂前が騒がしい・・・どうやら広報に何か張り出されているようだ。


《速報!新人戦開幕!!


 開幕戦は1―C 津田 ヨシキ VS 1-C 松永 ダイチ

 本日16:00より 第一武道場で両者激突!!


 生徒会管轄広報委員会》


手書きで要点のみが書かれた、わかりやすい文章・・・(くだん)の二人が放課後さっそく理技戦を行うようだ。

 

まわりの生徒達もざわめいている。それは一年生だけでなく上級生も同じだ。


理力による強さを重視するこの学校にとって、理技戦は()るのも見るのも まさに祭りみたいなものだ!それが新学期開幕戦となれば盛り上がらないわけがない!!


こうして一年生達が主役の新人戦という祭りは開幕するのだった。




放課後・・・全校生徒の半数以上が第一武道場に押し掛ける。その中にはタツミの姿もあった。



時計の針が15:50を指すとマイクを通した声が武道場に響き渡った!


「お集りの皆様!今シーズンの開幕戦が始まろうとしております。新入生の皆様、お初にお目掛かります。いやお初にお耳にかかります!


私は生徒会管轄広報部部長 観月 カナエです。今回記念すべき開幕戦を実況させていただく名誉を賜りましたので、精一杯実況を務めさせていただきます!


さて、今回は注目すべき開幕戦ということで、解説をしていただく生徒会直轄風紀委員副長、三木村 ヒサシさんをお迎えしております。三木村さん、よろしくお願いいたします。」

 

「よろしくお願いします。」


「さて、今回の新人戦の開幕戦は1-Cの松永 ダイチ君と、同じく1-Cの津田 ヨシキ君というカードですが、三木村さんはお二人を御存じでしょうか?」


「ダイチくんは唐松家分家の子であり、同級生の松永 タイジュの弟ということで面識はあります。

 津田君とは直接面識はありませんが、中等部で数々の実績を積みかさねた有望な新入生だと聞いております。」


「なるほど・・・ズバリ聞きますが三木村さんの予想ではどちらが有利だとお考えですか?」


「そうですね──」

「おおっと!ここで主役の二人が入場だ! 西口から津田君、東口から松永君の登場です!」


主役の登場により武道場内は一層の盛り上がりを見せるが、二人は観衆の声に飲まれることなく、堂々と武道場中心に向かい、歩みを進めていく──

 津田は笑顔で声援に応えている。その姿に緊張感はまるでない。一方の松永は声援に応えるでもなく淡々と進むのだった。


「熱気に包まれる第一競技場!例年開幕戦は盛り上がりますが、それにしても上級生もいる中、二人とも落ち着いていますね。むしろ津田君は楽しんでいるようにも見受けられます!」


「二人とも大舞台に慣れているというか、観客の目があっても全く上がっている感じはありませんね」


「踏んできた場数の数が違うということですね──さぁ!両雄が中央に並び立つ!これより立会人からルール説明があります!皆様お静かにお願いします!」



武道場中心には津田と松永、そしてもう一人立会人を務める女の姿あった。


「初めまして。私は生徒会直轄監察(かんさつ)委員会所属の3年生、高木 ミキと申します。

今回お二方の理技戦は責任をもって管轄委員会が取り仕切らせていただきます。なにとぞよろしくお願いいたします。


さて、今回は開幕戦ということで改めて理技戦の基本ルールを説明いたします。


1、お互い理力を顕現して試合に臨み、理力が尽きる・・・つまりは、どちらかが顕現不可になることで決着となります。


2、理力以外を動力にする武器、そして銃器を除いた武器の使用を()()()()。ただし理力で展開したものに関してはその限りではございません。


3、基本的に反則行為はございません。ただし対戦相手以外への故意的な攻撃、または対戦相手の殺害は、いかなる経緯をたどろうと没収試合とし加害者を拘束粛清対象とします。


4、試合は立会人の目の届く範囲で行っていただきます。本理技戦ではこの第一武道場内と限定します。


5、理技戦における怪我、後遺症、または死に至った場合も含め、すべて本人の自己責任とします。本校および対戦相手はその責任を負いません。


そして最後に・・・理技戦における立会人の言葉は絶対です。決着の判断など試合の裁量権はすべて立会人に一任されております。異議、異論は認められておりません。ご承知おきください。


──以上です。ご質問がないようであれば双方開始位置までお下がりください」



津田が松永に何か言って挑発しているようだが、松永は無視して開始線まで下がる。津田も立会人に促され開始線まで下がると、騒がしかった生徒達は落ち着きをとりもどしたかのように徐々に声を抑え始める・・・

 


時計の針は間もなく16:00を指す。 静寂・・・とまでは言えないが静かな武道場に立会人の声が響く・・・

「時間です・・・初めてください」


開始の言葉が告げられると、武道場内は大合奏のような声援が沸き起こる!その声援の中心にいる二人は同時に理力を顕現した──それはお互い似た色、青色ベースの顕現色・・・今回の理技戦は蒼装術のぶつかり合いとなった。



会場内の声援に、かき消されてはいるが実況は仕事を続ける──

「さぁ、開幕戦が開始されました!二人の顕現色は同じ青!蒼装術同士の対決となったわけですが、同じ青でも二人が纏う理力は大分異なる様子ですね。三木村さん?」


「ええ、津田君は薄い青色の理力を制御して膜のように纏っています。反対に松永君は、紺色の理力をそのまま制御することなく展開していますね。おそらく理力量に自信があるんでしょう」


「なるほど、となると理力の扱いは津田君が、理力の量は松永君がそれぞれ相手を上回っているということですか?」 


「まあそんな単純な話ではないですけど、ね・・・」


実況と解説が状況をまとめていると津田が動き始めた。無警戒にも思える足取りで拳を構えて距離をつめる・・・すると牽制のジャブをノーガードの松永の顔面に放つ──それを無防備で受けるが、松永は何事もなかったかのように動かない。


何度かジャブを放ち、そのすべてが松永の顔面を捉える。だが全く意に介さない・・・ならば次はとジャブからのストレート、ワンツー!──ストレートが綺麗に松永の顔面を捉える。しかしこれにも手応えはない・・・


「津田君の拳が入るー!しかし松永君には効いてないようです。」


「今の津田君の攻撃では、松永君の蒼装術の鎧は抜けないでしょうね。松永君は避けるまでもないとわかっている。でも、津田君の狙いはダメージではなく松永君の理力を削ること・・・」


ここで松永が動く、津田が再度ワンツーを仕掛けた直後——その剛腕を振るう!力任せに体重を乱暴に理力を乗せた一撃はまるで大槌を振るうが如くの一撃!だが放たれたその拳は津田を捉えることなく空を切る・・・


「松永君の強力な一撃でしたが、津田君はうまく躱しましたね。」


「ええ、そして今の攻防で二人の狙いは大体予測できます。松永君は強力な一撃必殺を、津田君は松永君の理力を削りチャンスを待つといった所でしょうか・・・」


理力の使い手——“理術師”同士の戦いは理力の削りあいでもある。理力による攻撃や強い衝撃を受ければ、その威力に比例して展開した理力は飛散する。

 つまり理力という装甲を削る戦いになるのだ。特に接近戦を主体とする蒼装術は、その傾向が強い・・・

 津田と松永、やり方は正反対だがお互いに相手の装甲を抜くことを狙いにしていることは間違いない。



一旦距離をとった津田は構えて、体を上下に揺らしてリズムを取り出した・・・

(癪だが奴の理力量だけは半端じゃねぇな・・・並大抵の攻撃じゃ抜けやしねぇ。だが、このままチマチマ削ってくのもおもしろくないな)


先程までの試合展開とは逆に今度は松永が連打を仕掛ける。その大振りな攻撃では津田を捉えることはできない。ことごとく回避して、むき出しの隙に拳を合わせる。しかし津田が考える通り、たしかに理力は削ってはいるがダメージはない。


「小うるさいハエの拳だな・・・」

松永が挑発するも意外にも津田は冷静だ。自分の中で松永を倒す算段はついている。そのためには・・・


「へっ、てめぇは触れることさえできねぇじゃねぇか!壁でも殴ってろよ。壁は避けねぇからよ。」


「・・・上等だ!」

怒りの感情は理力に表れる。纏う理力がより大きく、より揺らぐ・・・攻撃が当たらないストレスもあるのか、わかりやすい挑発に簡単に乗ってしまう——あっさりと目論見通りになった津田は、ほくそ笑む・・・,


怒れる猛牛のように突進する松永の力任せの一撃!それを短い距離で躱す。同時に体を回転させて勢いついた肘を──

“必殺の回転肘打ち”を顔面に叩きこむ!! 

 松永の体は大きく体は仰け反り、理力の拡散と共に血飛沫が舞う──しかし倒れない、それどころか・・・


「カウンターのスピニングエルボーー!!これは強力!いや、だがしかし──」


()()()()が重なる。仰け反った体を反動にして繰り出す反撃の一撃!その拳は、大技の隙が生じた津田を捉えた──

 回避こそできなかったが、左腕のガードで直撃は避ける。しかし、その強力な衝撃は津田の体を大きく吹っ飛ばす──吹き飛んだ津田はかろうじて倒れることなく、なんとか両足で着地するのだった。



大技と流血もあって会場がより沸き立つなか、ここで実況と解説が状況を振り返る。

「開始5分、試合は大きく動きました。いや~見応えのある攻防でしたね!」


「そうですね。両者共に特に格闘技術が素晴らしかったです。津田君のスピニングエルボーは言うまでもありませんが、松永君の受け方がよかった。肘を額で受けることで防御、そして防御と同時に頭突きによる攻撃にもなっています。

 額が切れて出血はすごいですが、おそらく津田君の肘にもダメージは入っているでしょうね・・・」


「頭突きで津田君の肘を壊したということですか?とんでもないですね・・・さらに松永君の返しの一撃は、ガードこそされましたが、これまた強力でしたね!」


「たしかに直撃だけは避けましたが、でも津田君の左腕はたぶん・・・」


解説の三木村の予想通りか、津田は左腕をブラリと下げたまま苦悶の表情を浮かべる。ガードした左腕は骨折にまでは至ってないが、ダメージは隠せない。

 肘打ちを仕掛けた右腕にも痛みが走り、到底いつも通りには使えない・・・状況は津田にとって不利な方向に傾いた。

 しかし津田は試合を捨てない、逆転の一手を携え勝利への道筋を考える──

(くそ馬鹿力が・・・腕は使えないが、俺にはまだ脚がある!)


悠々と歩いて距離を詰める松永・・・そのまま幕を引くための一撃を放つ!だが津田は残された最後の武器、脚を使って素早く回避した。

 粘る津田に焦れながら、松永はラッシュを仕掛ける!一撃食らえば即アウト・・・その攻撃とプレッシャーを脚だけで必死に避ける津田だったが徐々に追い詰められていく・・・



とうとう逃げ道を失った津田に、勝利を確信した一撃を放つ松永!今までよりさらに体重を乗せた拳──だが津田が待っていたのはまさに、この一撃!温存した右腕を使い、松永の攻撃を受け流す。その一撃の威力ゆえに松永自身の体が流れる──そこに回り込んだ津田が放つ渾身の!!


──後ろ回し蹴り!!──



逆転の後ろ回し蹴りは松永の側頭部を捉える──ことはなかった・・・松永は、この一撃を読んでおり左腕でガードしたのだ──そしてそのまま津田の足首を掴み取る!

「は、放せ──」

足首を掴まれた津田は必死に振り払おうとするが・・・


「ぬぅん!!」

松永は掛け声とともに腕力で津田の体を振り回す!その軌道は山なりの放物線を描き、津田の体はうつ伏せ状態で床に叩きつけられた!


「がっは・・・」

胸を強く打った津田はすぐには動けない・・・いかに理力を纏っていてもその衝撃を殺すことはできず、動けない津田を見下ろして松永は言う。


「お前みたいな貧弱な奴は皆そうだ。すこし隙を見せてやれば、よろこんで食いついてくる」


そう・・・体格や理力量で劣る津田のカウンター狙いは想定通り、意図的に作られた隙に津田が大技を合わせれば、逆に隙ができる。大ぶりな攻撃、挑発に対する怒りの感情、理力の揺らぎすら松永のフェイク・・・


「終わりだな・・・」

そう呟くと、松永の体に、より色濃く紺色の理力が顕現する。津田はまだ動けそうにない・・・残された理力で防御しようとするが・・・


「ちっくしょう・・・」

敗北を悟った津田の背中に無情な一撃が入る!!

その威力は理力の装甲を貫き、意識を刈り取るに十分な一撃だった。意識を失った津田は展開した理力を維持することができず、その体から理力が消えていく・・・


倒れたままの津田に立会人が近づき確認する──そして・・・試合を止めた!



「決ッ着――!!開幕戦勝者は“剛腕”!松永ダイチーーー!!」 

 実況が勝利者の名前を力強く高々に叫ぶ。同時に武道場内は本日一番の歓声に包まれるのだった。


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