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早野教授の理基学講習

4月7日早朝──


訓練の疲れか、普段より少しだけ体が重い気がする・・・気合を入れて布団から起き上がり、早々に準備を整え部屋を出た。外はまだ薄暗く肌寒い・・・軽く準備運動をした後、タツミは走り出した。

 


どれくらい走ったのだろうか・・・朝日が昇り始め、大分息も上がっている。走ることに集中しているなか、不意に昨日のゲンとの会話を思い出す──


「タツミ、君の技術は正直すばらしいよ。特に投技や固め技は相当なものだ。とても努力してきたのだろうね。だけど・・・

 なぜ打撃をつかわない?さっきの訓練でも拳打や蹴りが有効な場面は何度もあったはずだ。打撃技は苦手なのかい?」

ゲンの指摘はもっともだ・・・実際に稽古で一度も打撃技を使っていない。


「・・・苦手です。というより打撃技はほとんど使いません。型の動きは知っていますが、稽古試合で使ったことはないです」


「どうして?」


「・・・」タツミは答えるのをためらう・・・


「怖いのかい?相手に拳や蹴りを当てることが」



「・・・僕はもともと母親から武技を習いました。その母から打撃技は一切教わっていません。幼い頃から投技と固め技だけはたたき込まれましたけど・・・

 先生に会ってからも打撃の型や基本的なことは教わりました。でも浅倉流の芯といえる技術は相手を制することだと聞かされて、打撃技の訓練をお願いしたことはありませんでした」


タツミはさらに言葉を続ける・・・

「怖い・・・のかもしれません。未熟な技が防がれることもそうですが、人を殴るということが・・・」


「そうか、君は優しいね。タツミ・・・だけどね、八高に入ったってことは、君は少なからず強さを求めてきたんじゃないのかい?今のまま打撃技を避けていては、大きく力を伸ばすことは難しいよ」


「・・・強さ・・・ですか」


「君の目指す夢や目的はわからないけど、ここにいる以上強さを求めることは、必ず目指す先に向かって近道になるはずだ。だから今は俺を信じて打撃技を練習してみないかい?」──


気がつけば浅倉家の門まで戻っていた。門を潜る前に足を止めつぶやく「打撃技・・・か・・・」



武道場に戻ると、メイが型稽古を行っていた。


「お、おはようございます。」

タツミが挨拶するが、メイは動きを止めることなく、挨拶を返すこともない・・・


タツミはそれ以上何も言わずメイから離れた位置で型稽古を始めた。それは拳打や蹴りの攻めを意識した稽古だった。

(・・・強くなることが近道・・・今はそれでいい)




昨日覚えた通学路を一人歩き登校する。1-Cの教室に到着すると早くも打ち解けた生徒たちが各々に会話を楽しんでいる。タツミも自分の席に向かい隣の席の宍戸 トウマに声をかけた。


お互いに挨拶をして他愛のない話をしていると、突然教室のスピーカーから全校生徒に向けた放送が入る。


「──全校生徒のみなさんおはようございます。生徒会直轄監察(かんさつ)委員会よりお知らせです。

 本日の午前9時より一年生の理技戦試合申し立ての受理を開始いたします。立会をお望みの方は3F生徒会窓口の監察委員会までおこしください。詳しくは我々監察委員か各担任の先生にお尋ねいただくようお願いいたします。

 なお、2・3年生の申し立ては新人戦終了まで受理されませんのでご了承ください。以上・・・監察委員会からお知らせでした。」


放送が終わると教室がざわめく。クラスメートたちは新人戦の話題一色となり、それはタツミとトウマも同じだ。

「ねぇ、石川君は新人戦どうするの?代表に立候補したりする?」


「いや僕はあまり自身ないからなぁ、みんな強そうだし・・・宍戸くんは?」


「うん・・・僕も自身ないけど試してみたいかな・・・自分の力を」


意外に思える答えにタツミは驚く

「えっ・・・そ、そうなんだ!頑張ってね!」


「うん!そういえば石川君は、どこの流派──」


大げさに開かれた教室のドアが大きな音を立て会話を遮る。教室中の視線はドアを開けた男へと向けられた。その男は真っ直ぐ教室後方出席番号30番の下へと向かう・・・


「よぉ!松永 ダイチさんよ、昨日はずいぶん舐めたこと言ってくれたよなぁ・・・俺はお前がクラス最強だなんて1ミリも認めてねぇ!」


息まく男に対してダイチはまるで動じることなく睨みつける。ダイチの取り巻きの一人が本人に代わって聞き返す。

「あぁ?なんだテメェは?」


「お前にゃ話してねぇよ!三下は引っ込んでろ!!

 俺は、津田 ヨシキ お望み通り相手してもらいに来たんだよ 松永ぁ・・・」


さらに食ってかかろうとする取り巻きを制してダイチは立ち上がる。

「身の程知らずか・・・いいよ。相手してやるよ。」


「そうこなくっちゃあなぁ!どっちが身の程知らずか教えてやるよ!!」

お互いに自信があるのだろう。共に不敵に笑みを浮かべて目を逸らさない・・・



「みなさ~ん、おはようございます」

二人の緊張感を吹き飛ばすかのように予鈴と同時にミヤコ先生が教室に入ってきた──


「さて今日から通常授業と理基学が始まります。それと朝の放送でもありましたが、理技戦申し立てが開始されますが─」

「先生!」


先生の話を遮って津田 ヨシキが大きな声で手を上げる。

「はい?えっと・・・なんですか津田君?」


「今日早速理技戦やりたいんですけど、どうすりゃいいんですかねぇ?」


「はぁ~、早速ですか?元気いっぱいですねぇ・・・では理技戦試合を行いたい人は後で休み時間に先生のところまで来てください」


「わっかりました!」

そう嬉しそうに答えるとヨシキは着席してミヤコ先生が話を続ける。


「えっと、話の途中でしたが新人戦が5月に行われます。このクラスの代表を決めるにあたって、話し合いってわけにはいかないでしょうね・・・

 なら実力をみんなに示して、5月第一週までに4人代表を選出してください。もし決まらない場合、C組は新人戦を辞退します。それが嫌ならみんなで協力してクラスの代表を決めましょう!

・・・はい!じゃあ新人戦については以上、次は・・・」


まだ会って間もないクラスメートから4人の代表を選ぶ・・・生徒の自主性を重んじると言えば聞こえはいいが、理不尽とも思える要求に大半の生徒は不安を感じているのだった。



1限、2限、3限目と通常授業をこなす一年生たち、休み時間の話題は近く行われるだろう津田 ヨシキと松永 ダイチの理技戦試合について予想や憶測、噂などが飛び交っていた。


タツミもトウマに聞いてみる。

「宍戸君は、あの二人のこと知ってるの?」


「うん、まぁ少しだけど・・・松永君は、唐松分家の松永家3男でお兄さんに3年の松永 タイジュ先輩がいるよ。松永家は八家直系ではないとはいえ、数ある分家でも実力ある家だからね。ダイチ君も相当強いんじゃないかな・・・

 津田君は、八家の家計ではなく地方出身みたいだね。でも津田 ヨシキという名前は聞いたことがあるよ。たしか全国中等部武道大会でベスト8のはずだよ。」


「す、すごいね・・・」


「そう、二人とも実力は折紙付きだからね。どっちが勝つかなんて全くわからないよ・・・」


「い、いや僕は宍戸君がすごいなって思うんだけど・・・すごく詳しいんだね」


「え!?いやぁ僕なんか・・・たまたま知ってただけだよ。あっ!次の授業は理基学だね。教室移動だから早くいこうよ」

そう言うトウマは顔を赤くして照れ隠しをするようにタツミを促した。




4限目の授業は理基学──この学校の専門分野、理力の基礎から応用を学べる授業であり、理基学の授業はA・B・Cクラス合同で行われるため、特別講義室で行われる。


「はじめまして諸君!私は非常勤ながら君たち一年生の理基学を担当する早野教授だ!よろしく頼む。」

早々に自己紹介を済ませてさっそく授業に移る。


「さて、本日の講習は既に大半の生徒が履修済みであろうが、理基学とはなにか・・・そのおさらいをしようと思う。


まず基礎知識として理力とは、理粒子を自身の肉体を触媒にして顕現させる力のことだ。

 では理粒子とは何か?およそ150年前、大陸で臨界の存在が発見されると間もなく、この理粒子の存在も確認されている。

 理粒子とは理力を構成する最小の物質であり、それは大気中、生物の体内、はては宇宙にまでその存在が確認されている。


通常、理粒子は単体としては例外を除き、特段なにかに作用するわけではない。しかし生物の体や条件を満たした機器において、それらを触媒にすることで結合し理力として顕現する。

 顕現した理力は、触媒となったものにより様々な力の形をとる。その力を研究、研鑽、そして応用することが理力の基礎つまりは理基学だ!


しかし理力の応用は、誰にでもできるものではない。努力次第では顕現することは可能だろう。しかし、使いこなすためには資質が必要だ。

 今この場にいる諸君等は、個人の差はあれど少なからず理力を扱う資質を持った秀才たちだ。

 最も大切なことは自分の資質を理解することにある。そのうえで正しい知識に基づいて研鑽する方向を間違えないように理力を学んでいってほしい!



次に理力の種類についてだが・・・“顕現色”で分けたものが最もわかりやすい。

 顕現色とはその名が示すように、顕現した際に発現する理力の色のことを言う。原則としてこの顕現色こそ、その者の資質を表す。


基本的には青・赤・黄・緑 色相環の4原色そして例外的に白と黒・・・色それぞれに理力の特徴が割り当てられている。


まずは青、蒼装(そうそう)術とも言われるが、この顕現色は己の肉体を理力で強化することを得意とする。

 さらに纏っている理力を体の延長線上として認識することで、手足のごとく操れる。使いこなせれば、理力を自分の手として離れた敵や物体を掴むことも可能になるだろう。近接戦闘に最も適した色だと言える。


続いて赤、緋華(ひばな)術だ。顕現した理力を、周囲に展開して操ることで物理的事象を起こすことや、理力を結合して形作ることができる。

 例えば、展開した理力に収束・振動・回転など物理的な作用を与えて力場を起こすことで攻撃する。他にも展開した理力を結合して武具を創造するなど・・・どんな間合いでもバランスよく戦える色だ。


そして黄色・・・黄錬(こうれん)術 黄色は実際に存在する物体に対して理力を込めることを得意としている。込めた理力の性質を変化させることも可能だ。

 武器に理力を込めて操ったり、水や炎ですら操れる。極めれば空気中の分子を操り化学的反応を用いて戦うこともできる。応用力の高い色だ。


緑は翠換(すいかん)術・・・理力を他の力に置換することが得意な色だ。

 幅広く知られているものとして、理癒(りゆ)術がある。理力を治癒力に置き換えて肉体の再生を促す術だ。

 他にも自身の理力を変化させることや、相手の理力に干渉して攻撃を相殺する。逆に味方へ理力を与えて強化することもできるようになる。サポート能力が高い色と言えるだろう。


以上が4つに大別したそれぞれの特色だが、個人の資質を完全に4つに分けているわけではない、例えば赤と青の間の紫・・・より青に近ければ蒼装術、赤に近ければ緋華術に近しい資質があるということだ。

 各色の特徴を組み合わせて、より自身の顕現色にあった術の習得に励んでもらいたい。


それと補足として白と黒だが、この二色は顕現色の濃淡を示している。白色に近い・・・つまりは淡い色ならば、理力の濃度は薄く扱いやすいが壊れやすい。逆に色が濃くなるほど、黒色に近づくほど強度は増すが消耗も激しくなる。


しかし例外として純白の顕現色を持つ者もいる。簡単に言えば色相環の中心にあるとされ、4原色すべての術をバランスよく組み合わせて習得できるが、その特徴故能力を極めるのは非常に困難と言えよう。


最後に漆黒の顕現色・・・高濃度の汚染された理力に触れることや、強力な負の感情により漆黒の理力に浸食される。

 漆黒の理力は非常に強力で、使い手次第では鬼神の如き力を得る。しかし完全に漆黒に染まってしまえばやがて精神は壊れ、暴走後体は朽ち果てる・・・


色相環の外にあるとされ、一度漆黒に染まった理力は二度と元に戻ることはない。

 また理力の資質をもたないものが漆黒の理力に侵されれば、“炭人(すみびと)“と呼ばれる厄災となる。それを処理するのも力もつ我らの責任と言えよう。


以上が諸君等が学ぶべき理基学の基本であり、学ぶ上で前提となる知識だ。

 ここまでで質問はないな?──よろしい では続けて理基学の歴史についての講義に移る・・・」


勢いよく理基学の基本知識を話した早野教授の講習は、質問を許すこともなく、そして一息つく暇もなく次の内容へと続くのだった・・・



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