4月5日
初めて投稿しました。至らぬ点も多々あるでしょうが、ご指導ご鞭撻含めまして感想等いただけたら嬉しく思います。
4月5日──
空席が目立つ電車内の一席に少年が一人
真っ黒でボリュームのある癖毛、薄緑がかった大きな瞳、それを隠すような黒縁メガネ・・・わかりやすい特徴と言えばこのくらいで、どこか頼りなさげな少年は、体格に比べ不似合いな 大きなリュックを肘掛けにして景色を眺めている。
明日からの学園生活への期待と、親元を離れて始まる新生活に対して少々の不安── 車窓の窓に映る少年の顔は、薄く微笑んでいるように見える・・・
少年を乗せた電車が終点の駅に到着する。
プラットフォーム4番線に降り立つと、多くの人が向かっていく方向に流されるようについていく。
改札を過ぎて駅前の広場で、一枚の紙を取り出す。読みにくい文字と乱雑に描かれた地図を見て、少年はつぶやく・・・
「もうちょっと丁寧に書いてよ・・・先生」
目の前には大きな寺、いや日本家屋と武道場が連なる建物 その棟門の表札に刻まれた文字は“浅倉”、それを2度確認して少年は深く深呼吸した後、家主に聞こえるように大きな声で挨拶した。「ごめんくださいー!」
返事がない、少年はもう一度声をかけるがやはり返事はない。
恐る恐る門を潜り玄関前に立つ インターホンはない。少年は今一度「ごめんくださいー!」
「はーい」
女の人の声で返事があった。道場の方角からだろうか?玄関に向かってくる足音が近くなる。
少年の緊張は最高潮に達する。なぜなら今後3年間お世話になる屋敷の住人と初めて顔を合わすのだから・・・
「お待たせしました。」
肩上まで伸びた淡いブラウンの髪、意思の強そうな切れ長な目、通った鼻筋、薄い唇、均整の取れた顔の美少女が少年に近づく
彼女と目が合った瞬間、自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
思わず目をそらし頭を下げる。そのままお辞儀をする格好で焦りながら──
「すす・・・すいません!あの!僕、今日からお世話になります!石川タツミと申します!!」
「えっ?」
予想外な少女の返事に思わず顔を上げ聞き返す。
「えっ!?あ、あの僕は──」
「お待ちしておりました」
屋敷の奥から人が近づいてくる。年の頃は70歳ほどだろうか。小柄で気品漂う立ち姿、優しそうな笑顔で着物が似合うおばあちゃんといった女性だ。
その人は玄関先までくると膝を折り床に手をついてタツミの目を真っ直ぐ見る。
「ようこそおいでくださいました。石川タツミさん、私は浅倉ミノリ 浅倉家当主代理でございます。」
その言葉に深々と頭を下げて再度名前を告げる。
「ぼ、僕は石川タツミです。先生のご紹介で伺いました!よろしくお願いいたします!」
「ええ、マサムネからの連絡で存じております。わざわざ来てくれてありがとうございます。
さぁ、お上がりください。メイ・・・客間にご案内して」
メイと呼ばれた少女は何も知らされてないのであろう・・・やや怪訝そうな顔をして答える。
「はい・・・どうぞ」
「あ、ありがとうございます!失礼します」
客間に案内されると座るように促される。ミノリはメイにお茶を入れてくるように頼んだ後、机を挟んで正面に座った。
「さてタツミさん、ようこそ浅倉家へ・・・と言いたいところだけど、私もマサムネから貴方が訪ねてくるとしか聞いておりません。
マサムネから手紙や言伝はなにか預かっておりませんか?」
「あっはい!手紙があります。これを見せればすぐにわかるって先生が言っていました」
タツミがカバンから取り出したのは、どこにでもある茶封筒に 封もしてないような簡素なもので、中には四つ折りされた手紙が一通 その封筒を手渡す。
「失礼──」
ミノリは封筒を開け手紙に目を通す。おそらく内容も簡単に書いてあったに違いないだろう。すぐにタツミに視線を戻した。
「たしかにあの子がしたためたものに間違いはないようですね・・・
とはいえタツミさん、この手紙の内容は一文だけしかありません」
少しだけ間をおいて、ミノリが続ける。
「浅倉家当主として、石川タツミが浅倉家に仕えることを許す・・・だそうです。」
ミノリが手紙をこちらに向けると、先ほど口にした言葉と同じ内容が目に入った。
「え?仕える?あの、仕えるってどういう──」
「失礼します。」
先ほどまでの会話を聞いてか聞かずか、メイがお茶を乗せたお盆をもって客間に入ってきた。
「メイ、あなたもそこに座りなさい」
お茶を置いたメイはそのままミノリの隣に座る。
「さてタツミさん、あなたは八家高校へ入学が決まっているのですか?」
「は、はい」
「そうですか。あなたとマサムネの間柄は後ほど伺うとして、浅倉家に仕えるとはどういう意味かわかりますか?」
「い、いえ、僕はただ高校に通うにあたって先生の実家で世話になれと、それと手紙を渡せばわかるとしか・・・」
「まったく実にあの子らしい・・・」
ミノリは短く考えてから言葉を続ける。
「いいですかタツミさん、家に仕えるとは、その家に対して服従していただき主の命令は絶対となります。それと家の手伝いなど・・・いわゆる奉公をしていただきます。
そのかわり高校に在学中は衣食住に関わる保証、浅倉家の門下生として技を学ぶことは約束しましょう。
あなたはマサムネから何も聞いてないようですが、今の話を聞いて、なお浅倉家に仕えることを望みますか?」
「あっ、あのえっとですね・・・お世話になる以上家のお手伝いをする事は当然だと思います。当主様の命令に従うことも理解できます。でも・・・
服従はできません!先生は言っていました。理学を学ぶ上で、自分の判断を最も大切にするべきだと!そしてその考え方こそが浅倉の家にも必要だと」
次の瞬間──冷たい汗が出た・・・不意にメイの方へと視線を奪われる。真っ直ぐにタツミを睨みつける瞳はただ暗い。
(やばい・・なんだろうこの感覚・・・怒っている?いや敵意か・・・目が離せない)
その場に緊張感が走るが、それを制してミノリが口を開く
「いいでしょう。ならば一つテストをしましょう。本来、家に仕えるならば従者として主人に従うのは
当然なのですが・・・それができないようなら当家に必要ございません。
しかし当主直々の文書がある以上、無下にするわけにもいかないでしょう。そこであなたの実力を示していただきます。
その結果次第では、客人として当家に滞留いただきご面倒をみさせていただきます。いかがでしょうか?」
「・・・わかりました。客人扱いなんておこがましいですが、この家においていただくためにも是非テストをしてください! お願いします!」
「結構・・・テストの内容は実にシンプルです。ここにいるメイと理技戦にて手合わせを行い、あなたの実力を拝見いたします。
そのうえで我が家に相応しいと判断すれば改めて客人として、お迎えいたしましょう。よろしいですか?メイ?タツミさん?」
問われた二人は共に短く答える。
「「はい。」」
タツミはなんとなくわかっていた──この家の門を潜った時から、遅かれ早かれ力を示す必要があることを・・・
理技とは、体内あるいは周囲に存在する理粒子を、自身の肉体をもって触媒にすることで理力として構築、顕現する。その顕現した理力を基に、展開、応用して技を競う。それこそが理技戦──
武道場の上座に座るミノリの視線の先には、静かに座るタツミの姿があった。手合わせとはいえ理技戦を前に動揺や焦りも感じない。集中力が高まっているのが見て取れる。
武道場は静寂も相まって緊張感に包まれていた。
鏡に映る少し赤みがかった瞳、慣れた手つきで道着と袴に着替え髪をゴムで纏める。明らかに不機嫌な表情をしているがメイは手際よく準備を進める。
これから得体の知れない少年と手合わせを行う心中は、穏やかではない──
(いったいなんなのあの野良犬みたいなガキは?このあたしが、あんなパッとしないヤツの相手だなんて分を弁えなさいよ・・・
先生?あのクソ親父の弟子ってことか・・・ふざけたこと言いやがって・・・服従はしないだと、野良犬如きが偉そうに・・・まったくもって浅倉を舐めてるわね。そもそも・・・略)
その次々に湧き出る不満が怒りの感情となる前に、一息大きな深呼吸をする。
(・・・とっととぶちのめして、叩き出してやる)
自室のドアノブに手をかける頃には、感情は整理され平静を取り戻していた。
「おまたせいたしました。」
そう告げてメイは武道場に入る。そのままタツミの隣に座ると上座に向かって一礼をする。
「それでは、これから理技戦稽古試合を始めます。二人とも準備はよろしいですか?」
ミノリが二人に問いかけるも返事はなく、二人は共に頷くだけ──
「よろしい。それでは互いに礼」
タツミとメイが向かい合う形で座り直し礼を交わす。そして互いに立ち上がり構えをとった。
・・・一拍あけてミノリが開始の合図を告げる。
「では、浅倉家当主代理 浅倉ミノリが責任をもって立ち会います。
お二方共に全力をもって技を競うことを望みます──では、始めてください。」
浅倉流の真骨頂は拘束術にある。相手の体を制圧して動きを封じる技・・・
しかし相手の力を利用した返し技も数多くあるため、同門同士の戦いにおいて積極的に仕掛けにいくことは多くない。最初は相手の出方を見るのが定石・・・
タツミは開始位置から少しずつ間合いをつめていく、一方のメイは動かない。ゆっくりと、お互いの手が届く距離まで詰まっていく・・・
先にタツミが仕掛けた!──左手で道着の襟を掴みにいくが、わずかに体をずらしてメイが躱す。三、四、五回──続けて左手で掴みにかかるも空を切る!互いに間合いを詰めることなく、その場から半歩も動くこともなく攻防は続く!
仕掛けるタツミ、躱すメイの図式は変わらない。タツミは次の一手を試みる。あと半歩だけ間合いを詰めようと前にでた。しかしその分だけメイが距離をとる。
ならば壁まで追い詰めようと再度詰めるも同じことの繰り返し・・・気づけば間合いが詰まることもなく円を描くように上手く捌かれている。
埒があかない・・・焦ったわけではないが、一気に間合いを詰めようと少しだけ腰を落とす。懐に入るため強く床を蹴り、掴もうと右手を伸ばす──
パァン──
掴みにいった手は、見透かされたかのようにメイの右手に弾かれる!弾かれた勢いはタツミの重心をわずかにずらした。
その作られた隙を逃すはずもなく、メイは勢いのままに懐へ入り左手をタツミの首に掛ける。そしてそのまま右足でタツミの足を払いながら、首に掛けた左手を薙ぎ払う!
──浅倉流・払い逆落とし──
無防備で決まれば肩から床に落とされていただろう。なんとか落とされる前に右腕の支えが間に合ったため床への直撃は免れた。
ダメージはほぼ無いが、これで終わったわけではない。追撃を避けるためにすぐに体制を整え、立ち上がらなければならない。しかしメイは間を詰めるでもなく、タツミが立ち上がるのをただ待っていた。
タツミは立ち上がり構え直すと深く息を吐いた。
(さすがは先生の娘さんだな。素の戦いでは一枚も二枚もむこうが上・・・それなら!)
「・・・いくよ」
小さな声でつぶやくと、タツミの体がまるで若葉のように透き通った新緑を纏う。これこそが理力の顕現──
「綺麗な理力・・・・」
ミノリは感嘆するも、相対するメイに動きはない。変わらない表情で仕掛けてくるのを待っているように見える。
「そのままでいいんですか?」
タツミの問にメイが答える。
「気になさらずに・・・どうぞ」
「では・・・遠慮なくっ!」 ──距離を詰める!
明らかにタツミの動きは早くなる。しかしメイには先程と同様に捌ける自身があった。
タツミが距離を詰める勢いのまま左手で掴もうとしても、メイは一歩下がる。しかしその一歩下がりきる前にタツミの右手が奥襟を掴みに来る!
(また弾いてやる!)
右手で払いにいくが気づいた時には手首を取られていた!奥襟狙いはフェイク・・・最初から狙いは右手首──
「っ痛!」 思わず声がでる。自由な左手で対処しようとするも遅い。すでにタツミの左手は襟にかかっていた。
瞬間──掴まれた右手首と襟が引き寄せられ、自分の足が床から離れるのがわかった。タツミは背負い投げの体制に入っている・・・このままでは投げられ床に組み敷かれてしまう
「このっ・・・!」 投げられまいと全力をもって左腕でタツミの首にしがみつく──ほんのわずかだけ動きが止まるが・・・
「うぉおおらぁああーー!!!」 タツミはそのまま強引に投げにいった!
しかしメイの抵抗と技術の前に背負い投げは不発に終わる。床に叩きつけるはずが、掴んでいた右手が抜けてしまい、投げ飛ばす形となったのだ。
投げ飛ばされたメイは上手く体を捻り着地する。ここで両者に再び距離ができた。
メイが痛む右手首を見つめながら立ち上がる。その雰囲気は明らかに重い・・・
ゆっくりと顔を上げると、客間で見せた暗い目でタツミを睨みつける。今度はわかりやすく怒りを通り越して殺意を感じるほどの威圧感を放つ。
(こ、恐い・・・)
殺意や威圧感に対して恐怖を感じたわけではない。単純に目の前の少女が恐ろしく思えたのだ。タツミは目こそ逸らさないが、その場から動けずにいた。
「・・・こい」
誰にも聞き取れないような声でつぶやく──するとメイの体は薄い桜色を纏う。タツミのそれとは異なりその周囲にも、まるで桜の花びらが舞っているかのように理力が展開されていく・・・
理力が顕現された直後、今度はメイから仕掛ける!直線的に距離を詰めにきたと思いきや──間合いの外から跳躍し左側頭部を狙った飛び回し蹴りを繰り出す。
少し反応が遅れたタツミは反射的に頭を庇うように左腕でガードする。しかし完全に威力は殺せない!右に体が流れてしまう。
それでも反撃を試みようとするが、すでに着地したメイは次の攻撃体制に入っている。掌打と蹴りのコンビネーションの連続攻撃!
──直撃こそないが、なんとか防御するだけで精一杯だ!その一撃一撃も理力のせいか体の芯に響くほどに重い、クリーンヒットすれば大きなダメージは免れない。
(このままでやられる・・・)
そんなことはわかっている。しかし猛攻を前に反撃する暇もない!さらに連撃は加速しタツミを追い詰めていく──逃げるように後ろへ下がるも、いずれ壁が迫り逃げ道はなくなっていた。
ここで連撃が止まった。猫が鼠を袋小路に追い詰めたかのように、あとは仕留めるだけ・・・余裕のつもりだろうか?追い詰められた鼠の抵抗を警戒しているのか?いずれにせよタツミに残された選択肢は多くない。
(左か右に逃げたところで同じことの繰り返しで状況は悪くなるだけ、そもそも逃がしてもらえないか・・・なら、こちらから仕掛けてやる!)
しかし決断を実行するまえにメイが動く 躊躇なく最短距離でつめつつ回し蹴りを放つ!だがタツミはガードを捨て、ほぼ同じタイミングで前に出ていた──互いに距離を詰めたため結果的にメイの膝がタツミの左わき腹に刺さった!
鈍い痛みが走る。ダメージ覚悟で前に出たがリターンは予想以上に大きい!蹴ったメイの右足を左腕で抱え込むよう捕まえる!そしてそのまま押し倒そうと前に出る!
だがタツミの目論見は阻止される。メイの左手がタツミの左肩に触れる。左足を抱え込まれたままなのだ。力が入るはずもない、普通なら・・・
しかしこれは理力の戦い!触れた左手にメイの理力が収束していき、次の瞬間武道場に破裂音が響き渡る──!
その破裂音が示すように、強い衝撃がタツミの体を左腕ごと吹っ飛ばしていた!せっかく捉えたメイの右足も掴んでいられず手から離れ、背中を壁に打ち付ける。
(なんだ!?なにがっ!?)
タツミは何が起きたのか理解できていなかった。そのため次の動きが遅れる。すでにメイは懐に潜り込んでいる。
「メイっ!!」
危険を察知したのか、思わずミノリは立ち上がりメイの名を叫ぶ!しかし止まらない!
──浅倉式・緋華術 桜花播印──
利き腕の掌底を土手っ腹に叩きこむ!理力を収束させた一撃!!収束した理力はタツミの腹に触れると、まるで水風船のように弾ける。
一瞬遅れる炸裂音──弾けた衝撃は体に伝播して広がり、その衝撃波はタツミの体を貫き、後ろの壁にも衝撃痕を残すほどの威力!!そんなものを食らえばただでは済まない!
「あ・・・がっ・・・」
声にならないタツミのうめき声・・・背中を壁に叩きつけられその反動で前に倒れる。
メイは倒れこむタツミを受け止めるでもなく背を向け勝利を確信して武道場の出口に向かって歩き出す。
「メイ!やりすぎです!!」
「・・・死んではないよ。しばらく動けないだろうけど」
煩わしそうに答える。
「まったく貴方は感情のコントロールが・・・」
ミノリの小言は途中で中断された。メイは面倒な説教が止まったことを疑問に思い足を止め振り返る。
視線の先には、倒れたはずのタツミが膝をつき、なんとか立ち上がろうとしている姿があった。
ダメージの大きな腹部を右手で押さえ、新緑の理力を集中させていることがわかる。そう、タツミは理力をもって己の肉体を回復していた。とはいえなんとか立てる程度だが・・・
「まだ・・・終わってないっ!」
あの一撃を食らって立ち上がってくるなんて・・・正直メイは驚いたがすぐに面倒事が終わっていないことに腹を立てる。
(めんどくさ・・・とっとと死んどけよ。鬱陶しい)
小さなため息と迷惑そうな表情を隠そうともせず再びタツミに体を向ける。理力を再度展開する必要もない。
さっさと抑えこんで終わりにしてやろうと無防備に近づく──
タツミは案の定動かない、いや動けないのだろう・・・それでも最後のあがきと気力をもって左手を伸ばす。
その弱弱しく出された左手を簡単に掴み、メイは脇固めの体制に入る。大した抵抗もなくタツミは床に組み敷かれ抑え込まれた。これで終わりのはずだった。
ミノリが思わず試合の終了を告げようとした時──タツミの右手中指に新緑の理力が収束していく・・・収束した理力を込めた中指で、抑え込むメイの右肩を突く──
ほんの少し・・・時間にして1秒経たずして、突かれたメイの肩に激痛が走る!?
「いっ!?つぅぅぅうぅう・・・」
その痛みはほんの一瞬だけだったが肩から先が無くなったかと錯覚するほどの痛み!思わず固めている両手を放し、苦悶の表情でのたうつ!!
改めて自分の右手を確認すると、当然無くなったわけじゃない。痛みもない。
わずかに混乱したが、相手が何をしたのか、どんな攻撃だったのかを分析する前に、怒りの感情が先行する!
「この・・・ガキィィィーー!」
もう怒りを隠しておけない!鬼のような形相で激昂している。
横で大の字で倒れているタツミには、もう立ち上がる気力すら残ってなかった。そのタツミに向かって殺しかねない勢いで襲い掛かるメイ──
「え!?」
体が浮いている・・・感覚で投げられたことがわかる。そのとおりメイの体は大きく投げ飛ばされていた。不意に投げられたといえ、上手く体を捻り着地する。
「頭を冷やしなさい!みっともない!!」
声の主はミノリ・・・あの瞬間二人の間に割り込みメイをいなし投げ飛ばしたのだ。
メイはミノリを睨みつけるが、すぐに目線を外し、怒り心頭のまま武道場の出口へ向かって歩き出した。
「メイ、この勝負あなたの勝ちです。」
ミノリが勝ち名乗りを上げるが、メイは何も言わず去っていった。
「さて・・・」
メイが去っていくのを見送ったミノリはタツミに近づき問いかける。
「タツミさん、お加減はいかがですか?とても良いものを見せていただきました。」
タツミはまだ立ち上がれない・・・仰向けの体制のままで目を瞑って息を切らしながら、自嘲の笑みを浮かべて答える。
「なんとか・・・平気とは言えませんが・・・」
「あなたの翠換の活己術があれば大丈夫そうですね。」
ミノリが言う通り、タツミは理力を活性化させてゆっくりとではあるが自身の肉体を回復していた。
「さてタツミさん先程は見事でした。新緑の美しく力強い素晴らしい理力です。しっかりと貴方の力を見せていただきました。約束通りあなたを浅倉家へ歓迎いたします。」
ミノリは優しく微笑みながらタツミが求めているであろう言葉をかける。その言葉に安心したのかタツミは意識を手放しそうになりつつも答えた。
「ありがとう・・・ござい・・ます。」
精一杯ながら短い謝辞を述べると、そのまま気絶するかのように眠りに落ちた・・・
「あらあら・・・フフ」
ミノリはその姿を見て嬉しそうに笑うのだった。