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#8 小さな村の英雄



 「実はですね、この村人間によって、住民が誘拐されるのですよ、おそらくですが奴隷として捕まってしまっているのです」

 「なるほど、だからあんなに人間を怖がっていると」

 「そういうことになります」

 「でもなんで、最初から人間を入れなければよかったんじゃないのですか?」

 「しかし、この村にはある人間に恩があったのです。これは儂が若い頃になりますが……」


 村長は無造作に伸びた髭を触りながら語り出した。





 —約80年前———




 長くから続くこの村は、平和で愉快な日々を過ごしていた。

 僕、ビクト【現在の長老】もまた楽しい日々を送っていた。


 そんなある日、平和な村は壊滅の危機に瀕した。

 森の守り神、破壊竜が3000年の時を経て封印が解かれ、その地に放たれたのだった。

 竜種とはこの世で最強の種族であり、多くは王国軍、騎士団によって封印され、モンスター間の均衡を保ってきた。

 しかし破壊竜の復活により活性化したモンスターが暴れ出し、村を襲うようになった。

 そして普段食料としているモンスターも活性化により天敵に成り果てた。そうして、村の破壊が進みつつ食糧難に瀕した。

 

 竜種の復活に国々は黙っているはずがないと思いきや、破壊竜の発生場所がどの国よりも遠い山岳に位置し、国々が軍を上げることはなかった。

 やむを得ず、村人たちが武器を持ち、破壊竜の山岳に向かうも破壊竜へ辿り着くことなく惨敗、多大な被害を被った。


 村が絶望に苦しんでいる中、彼女は現れた。

 彼女は突然、村の上空から落ちてきたのだ。

 それに村中は大騒ぎ、突然落ちてきたうえ、珍しく人間がきたおまけに、ヘンテコな格好をしているのだ。それはもう彼女の話題でもちきりだ。

 そして彼女は聞いたことのない言語を話す。発音も単語もこの世界では存在しないもの、知りたがりな僕は、今現在貧しいにも関わらず彼女を家にすませた。両親も嫌な顔一つせずに了承してくれた。

 それからというもの、僕は彼女に獣人語を教え込んだ。

 すると彼女は短い間に完璧に習得したのだ。

 彼女は僕に色々な興味深い話をしてくれた。

 彼女はニホンというこことは違う別世界から来たのだと言う、そして彼女はそこでジェーケーという職業にあり、リクジョウというものを嗜んでいたという。

 そして自分は勇者だと言い張った。

 僕はそれを小馬鹿にし、その時は信じなかった。

 

 ある日の朝、彼女は姿を消した。

 彼女が村に戻って来たのはそれから3ヶ月経った頃だった。


 彼女はなぜ村を去ったのか。その根本的原因は僕にあった。

 獣人語の習得はコミュニケーションの観点からメリットしかないと思われた。

 実のところ、彼女が来た時から彼女を追い出すか、村内で話し合われていた。しかし獣人語がわからない彼女はそれを悟ることはなかった。

 しかし僕が彼女に獣人語を教えたことで、その意味を理解し、心を痛めたのだろう。

 そして誠実な彼女は村のために出て行ったのだろう。

 

 ある日、僕はそんな彼女のことが気になって探すことにした。

 自慢の鼻を利かせ、微かな彼女の匂いを嗅い彼女の元へと行く。

 僕の胸は彼女に対する謝罪の念でいっぱいだった。

 ある時背後から襲いかかるモンスターに気づくことができず襲われかけた。

 しかしモンスターが僕に触れる手前で、空気によって押されたように圧死したのだ。

 誰の仕業だ? かなり腕利きの魔法使いか? そんな事を頭に浮かばせ周りを見渡した。

 そこには腕利きの魔法使いなんていなかった。いたのはそう、勇者だった。

 彼女の風格は勇者に錯覚させ、以前にも増して強力な覇気を纏っている。


 彼女はこの短い期間にあった事を話してくれた。

 その中で最も興味深いのは、彼女が持つと言う、固有(ユニーク)スキル【重力操作(グラビティ)】だった。

 彼女はその固有スキルとやらをこの期間に会得したと言う。


 そして彼女は破壊竜を倒すと言った。

 僕はそんな無茶振り無理だと言ったが、彼女は聞かなかった。

 彼女は僕を村に帰らせて、また破壊竜の山岳へ向かって行った。

 

 それから数ヶ月経つと、不思議なことにモンスターの活性化が収まり、村に平和が訪れた。

 きっと彼女が破壊竜を倒したんだ。そう思い毎日村の門で待ち続けた。

 そして彼女は現れた、ボロボロになって。

 村人は彼女を介抱しながら感謝の意を述べた。

 

 そして英雄として彼女の像が建てられた。



—————————



 「彼女の名は、「『アサキ・サンジョウ』」」


 ヘルサが被せるようにして言った。


 「おお、その声はヘルサ様ですか? お久しぶりです」


 村長は懐かしげにそう言った。


 「あんた、ヘルサのこと知っていて、この声が聞こえるのか?」


 ヘルサは脳内に語りかけるのでまず聞こえることはないはず、それにヘルサの存在を知っているのもおかしい。


 「知ってるも何も、アサキ様の相棒でしたからね脳内の、日を経過するに連れて聞こえるようになってしまったのですよ」


 アサキさんも勇者と言ったか、ヘルサは勇者にセットで付いてくるものなのか?


 「それで、アサキ様は今何をされているのですか?」


 村長は少年の笑顔のような表情をして尋ねた。


 『……死ニマシタ、数十年前ニ』


 村長の笑顔はしょんぼりとした表情に変わった。

 あまりにもバッサリとした言いようにもっと他の言い方はなかったのかと思ってしまう。


 「そうですか。そうですよねもう80年も経ったいますしね」

 『イエ、勇者アサキ様ハ魔王軍幹部ニ敗北シ、死亡シマシタ』


 それから、この空間では気まずい空気が漂った、それを打ち消すように僕は話し出した。


 「じ、実は、僕も勇者なのですよ」

 「ハハ、ご冗談を」

 「嘘じゃ有りません、ホントです!」

 「いや嘘だとは思っておりませんよ、ただ儂の中の勇者はアサキ様ただ一人なのですから」

 「しかし儂が死んでしまえば、アサキ様も忘れ去られてしまいます。この前だって、この村唯一のアサキ様の存在の証拠である、アサキ様の像が人間に反感を感じた若者が壊してしまって……」


 隣には会話の流れについてこれず、ポカンとしたミミィがいた。

 村長は明らかに困った顔をした。そんな顔を見ると放っては置けなくなる。


 「そうだ、僕らがその人間をなんとかして見せます。な、ミミィ」


 ミミィはそれは理解したようで、大きく頷いてくれた。


 「ホントですか! 是非お願いします」

 「はい、ですのでその人間について詳しく教えて下さい」

 


◆◆◆◆



 話によるとその人間とやらは四人組で、一人は【商人】、他は冒険者パーティで【剣士】、【アーチャー】、【魔導師】がいるらしい。

 なんでも【魔導師】が厄介らしく、人間には聞こえない高音を操って獣人族を苦しめるらしい。

 他は大したことはなく、拘束係的な立ち位置らしい。

 まずは【魔導師】を討ってからか。


 その場にいた場合の行動、思考を想像しつつ、作戦を練る。戦いは明日だからな。

 

 初心者ながら頑張ったと思う。


 最後にこの村の職人にあるものを作らせた。

 そして作戦を村中に伝えた。


 くっくっくっ、明日が楽しみだぜ。


 「お兄ちゃん、ゲス顔だよ」

ミミィの出番少なかった。

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