#6 「妹」と初のダンジョン
「ん? 雨降ってきた?」
ポツポツと僕の肩ヘ雨が降り注いだ。
「お兄ちゃん、早く逃げよ」
「どうしてだよ?」
ミミィは気乗りしない顔で僕の背中をポンポンと叩いた。
「だってわたし、」
「雨が苦手ってこと?」
「……うん」
どうやらミミィは水が苦手らしい。
「うーん、そうだな……。おっ、丁度いいところに洞窟が! あそこで雨宿りをしよう」
頭を手で覆いながらミミィは洞窟へ駆けていく。僕もミミィの後を追うように駆けて行った。
「ふー。とりあえず、ここで雨が止むまで待つとするか」
二人はその場にストンと腰を下ろした。
そしてとりとめのない話をした。
「獣人族はなんか特別水が苦手なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……。水は大丈夫、水は大丈夫なの。でもわたしね、昔、雨の日に興奮しながら外で遊んでいたの、そしたら……雷が……わたしに」
そう言い、びしょ濡れになった露出の激しい服をペラリとめくり、胸元にある傷を見せてきた。
きっとこれは、落雷によってできた傷だろう。
すると、ゴロン! と雷が落ちる音が聞こえてきた。
「キャ!」
ミミィがうわずった声を上げ、僕に飛びついてきた。
僕はそんなミミィを抱きしめた。
なんというか、母性本能的な(?)。
ミミィを見ると、震えていた。
そしてさっきめくったままの、服の中の、綺麗なくっきりとしたピンク色のものが見えた。
いや、これは避けようのない事態、仕方ない。
ラッキースケベと受け止めるべきか、それとも見なかったことにするか。
それは緊迫した場面をぶち壊した。
ヘタレな僕は何も言わずにそこから目を逸らした。
「洞窟はもっと奥まであるみたいだから」
僕は奥を指差した。そしてミミィをお姫様抱っこしながら、洞窟の奥へ進んだ。
雷の音が聞こえなくなり、そこでミミィを下ろした。
真っ暗闇な洞窟内を眉を寄せながら凝視した。
ここは異世界、いつなにが起こるかわからない。なので細心の注意を払っておく。
ガン! という音を鳴らし、僕の小指が悲鳴をあげた。
小指に何かが当たった……なんだこれ。
それは木製でできていて叩くと中が響いた。箱?
「《ロウヒート》」
そう詠唱し、明かりを灯した。
魔法によってくっきり見えるよになったそれは箱だった。
もしかして、これ宝箱か⁈
その箱を開けようとしたが、鍵がかかっているのか開く気配がしない。
《空槍》によってその箱を壊すと、中には、巧みな加工によって施された紅い宝石のあるネックレスが、一つぽつんと置いてあった。
間違いない、これは宝箱だ。
突然箱を壊した僕に驚いたのか、ミミィが何か何かと僕の方へ寄ってきた。
「ミミィ。お前にプレゼントをやる」
宝箱のネックレスをミミィにかけた。
「え、これは?」
「そこの宝箱に入ってたから、ミミィにあげるよ」
ピカピカと輝く宝石をミミィ、物珍しい様子で見ていた。
「でも、これはお兄ちゃんのじゃ?」
「いいんだよ、こういうのは可愛い女の子がつけておいたほうがいいの」
宝石の紅い光が一瞬強くなった気がした。
それを聞いたミミィは宝石を眺めながら嬉しそうな表情をした。
それと同時に紅い光を打ち消すように黄色く輝き出した。そしてしばらく経つと輝きが収まり、また紅く光出した。
しかしなんでこんなところに宝箱が……。
疑問に思い、その先を見てみると、間違いないここから、廃坑が広がっている。
それを決定づけるようにところどころには、トロッコのレール、堀り途中の鉱石、ツルハシ、etc……、があった。
まさにここはダンジョン!
「なあ、ミミィ。ここって……⁈」
「ダンジョンだね!」
やっと、やっとだ。やっと冒険者らしいことができる。
僕は心の中でガッツポーズをかました。
「やったぁ! ダンジョンだ!」
僕は大声を上げて、喜んだ。
しかし、ミミィは珍しく乗ってこない。それどころか、両耳をピクピクさせて、音を立てずに歩いている。
「なにをそんなに警戒しているんだ?」
「だって、ダンジョンでは何が起こるかわからない、これは常識だよ」
「……ごめんなさい」
普段、おちゃらけているコイツに言われると、妙に説得力がある。
そういえばさっき僕も、そんなようなこと考えてたっけ。
「そうだな、っておい! 宝箱じゃん!」
「え、ホント⁈」
ミミィは真っ先に宝箱に飛びついた。
……アイツさっき自分が言ったことわすれたのか?
さっきのように宝箱には鍵がかかっておらず、安易に開いたようだ。
しかしなんだろう、宝箱に牙がある気が……。あれ、ミミィなんか宝箱に飲み込まれてない?
言わんこっちゃない。あれはきっとトラップだ。目先の宝箱に翻弄されて捕まるバカな冒険者がよく引っかかる典型的な宝箱トラップだろう。
足を掴み、宝箱から出すために引っ張った。
宝箱対僕の綱引きが始まる。
中ではミミィが泣き叫んでいる気がするが、このまま食べられるよりかはマシだろう。
ついに宝箱はミミィを離し、ミミィはなんとか生還することができた。
グスングスンと泣く、ミミィの背中をさすりながら、「大丈夫か?」と声をかける。
ミミィはしばらく宝箱がトラウマになっただろう。
泣き声を聞きつけたのか、新たなモンスターが現れた。
そいつは大蛇だ。大きな身体をうねらせながら此方へ向かってくる。
「おい、ヘルサ! アイツはなんなんだ!」
『データ、ナシ』
まじかよ、こんな時に限ってコイツは……使えねー!
宝箱トラップを大蛇へ向かって蹴り飛ばした。
すると奇跡的に大蛇の頭にすポリと宝箱がハマった。
それを機に、ミミィを抱えて逃げる。
大蛇は身体を横に振りながら、ダンジョンの壁にぶつけて、宝箱を破壊しようとする。
あの大蛇はやばい、今まで、ジャイアントモッグやキングディアーなどの割と強力なモンスターと対峙してきたが、あれはそれ以上、確かにアイツを倒せば経験値も弾む、しかし無理だ、僕の16年培ってきた感がそう言っている。
僕にはまだダンジョンは早かったのかもしれない……。
「ミミィ、僕らにはここは危険すぎるのかもしれない、もう戻ろ」
「悔しいけど、そうだね」
大蛇は宝箱を破壊し、キョロキョロと周りを見渡していた。
僕は物陰に隠れていたので見つかることはなく、大蛇が去っていくのを待った。
「ていうか、帰り道どこだ?」
「知らないよ、わたし抱っこされてきたんだよわかるわけ……。」
「「あっ。」」
どうやら迷ったようだ……。
鼻うがい初めてしました……めっちゃスッキリする。
PS
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