#5 「妹」は才能の原石
「お兄ちゃん? わたしトイレ行きたいんだけど」
ミミィが僕に付いてきてから数日が経った。
彼女は僕をお兄ちゃんと、呼んだ。
そしてミミィについてわかったことがある。
ミミィは本当に魔法が苦手。
魔法の水準レベルはよく知らないがこの世界に来て、数週間の魔力のない僕より使えない。
まあ、不器用なんだろう。うん……。
あと、馬鹿力。
マジでコイツ馬鹿力。
以前、おふざけで叩かれたのか知らないが、背中が真っ赤に腫れてしまった。
今でも手の跡がくっきりと残っている。
ヘルサから聞いたが獣人族は皆、フィジカルがえぐいらしい(語彙力)。
そんなとこだ。
そしていま俺の前で用をたそうとしている。
「いや、お前ちょっとやめろって、俺の前でするな! って言っただろ」
「あ、ごめん、ごめん。あっちでしてくるね」
まじあいつ、羞恥心なんてないのか?
「ふぅー」
スッキリした顔をしたミミィが歩いてこっちへ来た。
ミミィの着ている服装。これは異世界特有の服装なのか? それとも、ミミィの村の伝統の服なのか?
動物の毛皮を巻いている、服というより、ビキニ? 水着? そんな感じだ。
「うぁー! ヒルだ!」
ミミィの叫び声が聞こえて来た。
何かと思えば、ヒルか。あいつ一応野生児だよな? 獣人族だよな?
「どうしたんだ?」
叫び転がり回るミミィに僕は声をかけた。
「ヒルがぁ、ヒルがぁあぁあぁぁ!」
「なんだよ? 見せてみろ」
ミミィは太ももについたヒルを震えながら見せてきた。
僕は《ロウヒート》を使い、ミミィの太ももについているヒルを落とした。
「ありがとうぅぅ!」
「はいはい」
「ていうか何その魔法! かっこいい!!」
「いや、大したことないよ」
「教えて、教えて」
「えー」
いつもと同じ表情をして、僕を惑わせる。
ミミィは教えてを連呼する。
「わかった、わかった、教えるから」
「ありがとう!」
◇◇◇◇
「教えるにあたってだが、ミミィなんか使える魔法あるのか?」
テキトーにかっこいい風のポーズをとっているミミィに尋ねた。
「あー! えっと《ウォーターサーブ》なら使えるよ!」
「へー、そうなんだ。やってみてよ」
「うん!」
そういうと、ミミィは呻き声を上げながら、眉間に皺を寄せ、目を細めた。
そして
「《ウォーターサーブ》!」
と詠唱した。
するとミミィの目から数粒の水が……。
「って、おい。これただの涙じゃないか」
「違うもん、涙じゃないもん。村の人みんなこれで褒めてくれたもん」
あ……。僕はミミィの村での扱いを察してそれ以上聞かないことにした。
「そっか、でも一応復習しておこうか」
「なんで、なんでそんな可哀想なものを見る目で見るの〜!」
それにしても、魔法が苦手なものに対してどうやって、教えればいいんだ?
だって僕は最初から苦労せずにできた訳だし。教えるのはなかなか難しい。
というか、僕はどうやって魔法を使っているんだっけ。
頭の中があっちゃこっちゃに行き交う。
自分で《ウォーターサーブ》を打ってみたが難なく打てた。なんだろう、自分は身体がこの感覚を知っているようだ。だから一連の動作を無心ですることができる。
とはいえ、それを伝えられるかどうか。
「なんだろう、こう、手先に身体のふわふわしたものを集めて、わぁー! って詠唱して吐き出す感じ」
自分でもなに言ってるかわからない、擬音を使い始めた時点でもう謎だ。
「あー、なんとなくわかった!」
……わかるんだ。
そしてミミィは気難しそうな表情をし出した。
「《ウォーターサーブ》、」
と言った途端、ミミィの手のひらからかの有名な歌川広重の作品、神奈川沖浪裏の波のような水流がバッシャァンと、大きな音を轟かせ、木々を破壊しながら進んだ。
「できた! できたよお兄ちゃん!」
「……?」
どうなってんだ? あれ? さっきまで涙を《ウォーターサーブ》と言い張る程魔法が使えなかったんだよな? あれ? 今や《ウォーターサーブ》というショボい名前に反して、災害級の魔法撃ってんだけど。
コイツの魔力量どうなってんだよ、僕の立場ないやん!
馬鹿力とか魔法とか、コイツただの才能の原石やん。
でも、いちいち魔法撃ったらこんな威力になる訳? え、めっちゃ不便やん。
ミミィの規格外の威力に戸惑いを抑えられない。
「ミミィ……お前、今から魔法使用禁止な」
「えー、せっかく撃てたのに……」
ミミィはしょんぼりと肩を下ろした。
その肩を優しくトントンと叩いた。
ドス! ドス!
聞き覚えのある足音と共に、トラウマが蘇る。
これはあれだ、逃げたほうがいいやつだ。
ドス! ドス!
更に音が大きくなる。
よし、逃げよう、うん。ミミィに伝えなければ。
そう思い後ろを振り向くと、見たくもない巨大なクマが森から身体を露わにしていた。
ミミィはそのクマを見つめながら、よだれを垂らしていた。
「ミミィ! 逃げるぞ!」
「お兄ちゃん! コイツ、美味しそうじゃない?」
「そんなこと言っている場合か! 早く逃げるぞ」
僕はミミィの袖を引っ張ったがびくともしない。
コイツまじでジャイアントモッグ食う気だ……。時すでに遅し、ミミィはクマに夢中になっていた。
クマをよく見ると、怒りの原因がわかった。
身体は水でびしょ濡れ、ここ二、三日雨は降っていないし、近くに水場があるわけではない、理由は一つ、さっきのミミィの魔法。それしかない。
推測できるのは、気持ちよく寝ていたところを魔法で叩き起こされた。そんなところだろう。
「今日はご馳走だ!」
その言葉を最後に身勝手なミミィは大きく飛び跳ね、熊の頭に蹴りを入れた。
しかし、クマはなんともなく、ただ怒りが増す一方。
そしてクマはミミィを地面へと叩き落とした。
アイツ大丈夫か?
もう、こうなってしまった以上仕方ない、一か八か僕も戦うか。
確かに僕の魔法が強敵にどれだけ通用するかは気になるところだ。まあ、命かけてまですることではないが。
それに僕は今レベルが37、それ相応のステータスが上がっているはず、それに今までコツコツ貯めてきた魔力もある。
今の僕ならきっと……。
ミミィの方はもう立ち上がりピンピンしている。
「そうだな、今日はご馳走かもな!」
僕がそう言うと、ミミィはまた上へ飛んだ。
こんなことを言っておきながら正々堂々したいとは思っていない。
狙うのは痛いところ。
「《空槍》ッ!」
僕はクマの脛へ向けて放った。
やはりクマでも脛は痛いらしく、しゃがみ込み脛を抑えた。
そこに、ミミィはクマの目に蹴りを入れて、両目を潰した。
ミミィもなかなか容赦ないな。
そして僕は考えた、生き物に《アブゾーブ》を使ったらどうなるのかを。
それを試す為に痛みに暴れるクマにしがみついた。
しがみついても、僕がクマから引き剥がされることはなかった。
きっと上がったステータスによってパワーが上がっているのだ。以前の僕ならすぐに引き離れてしまっていただろう。
そして
「《アブゾーブ》!!」
身体中に魔力が送られてくる、そして始めは激しく暴れていたジャイアントモッグもだんだんと弱っていき……動かなくなった。
『チロリン♪レベルガ37カラ51ヘト上ガリマシタ』
クマは死んだ。そしてミイラとなった。
「ふー、やっと倒し終えた」
僕が腕で汗を服と、なにやら怒っているミミィが見えた。
無事に倒すことができたのになぜ怒っているのだろう。
「どうしたんだ?」
するとミミィは泣き出した。
「お兄ちゃんのせいでクマのお肉食べれなくなっちゃったじゃん」
「あ……! マジごめ……」
と言いかけたところにミミィが僕の息子に蹴りを入れた。
……食べ物の恨みは大きい。
咳が止まらないです。助けてください。
PS
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