表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/41

#3 辛さこそ人生の醍醐味

 「はぁー、はぁー」


 息が切れ、重苦しい呼吸をした。

 肺が押し潰されているかのように、肺から痛みを感じる。

 足の筋肉もぱんぱんになり、足が上がらない。


 右脚の腿からは角で刺されて、血がどろどろと脚を伝って爪先へ流れ出る。

 その痛みに耐えようと、唇を強く噛んだ。

 傷の周辺を掴みながら、脚を引き、横に移動する。


 なんて不運なんだ、こんなところで、こんなに強いやつに出会うなんて。


 やつから目を逸らさないように、慎重に……。


 やばい、僕、

 

 “死ぬかも”



________


 異世界生活5日目


 新たな魔法《空槍(エアーランス)》を獲得した僕は、魔法の精度を上げつつ、ウルグルログムでレベル上げをしていた。

 それによりレベルが13まで上がった。

 僕は重要な課題を抱えている。それは……


 食料のバリエーションのなさである、毎日そして一日中、カエルしか食べていない。

 野生動物ならまだしもグルメな人間なら耐えがたいことだ。

 そのうえ塩の一つもないので、味は単調、初めて食べた時は感動したが、さすがに飽きてしまった。


 だが今何か出来るわけでもない、ここ数日ずっと都市へ向けて歩いているが食料になりそうな物は、一度も見つかったことがない。

 せっかくここまで来て、戻る訳にもいかない。

 ここでは我慢が鍵となる、そういうことなのか。


 思えばここ5日間苦労した、人生でこんなに頑張ったのは初めてな気がする。

 身体も少しずつ疲労が溜まっていっている。


 “もう終わりでいいじゃないか”


 そんなことが頭に浮かぶ。

 あの時なんで引き受けてしまったのだろう……。

 自分への後悔が押し寄せる。

 ああ、茜に会いたい。

 振られたのに、まだ茜を想い続ける心に腹が立つ……。


 誰かと話したい、誰かの顔を見たい、誰でもいい僕の隣にいてくれるなら……。

 ヘルサはあくまでヘルプサービスシステム、普通の会話はできない。

 珍しくネガティブなことを思うと、自然と涙がポロポロと溢れ出た。

 

 涙を拭い、感情をグッと飲み込むと、ゆっくりと歩き出した。


 しばらく歩いていると、平原に出た。

 その平原の中心にぽつんと一本の大木が聳え立っていた。

 その木には真っ赤な果実がなっており、林檎に酷似している。

 

 食べたい。その一言で残り少ない体力を振り絞り走り、果実へ飛びついた。

 果実に齧り付くと、シャキッという音を出した。

 瑞々しく、甘味が口中に広がった。

 味はメロンのような味、今までの辛さが甘味と共に飛び散った。

 僕は無我夢中で口に運んだ。


 「ガサっ!」


 草むらを踏み付けた時の音がした。

 なにかが近くに来ている⁈

 足音の方をチラッと見るそこには……。

 鹿のような、体長4mほどの巨大な獣がいた。

 鹿のように長い角を持っているが、鹿とは思えないほど恐ろしく凶暴に見えた、そして鋭利な角を持っていた。


 かなりキレているように見える。いやキレてる、絶対にキレてる〜、なんとかドットだっただろうか、そのリーダーが言って炎上した言葉を思い出す。


 奴の怒りの矛先は、確実に僕。そんなこと目を見ただけでわかる。

 頭を低くして自慢の角を突き出しているようだ。

 丁寧にお辞儀している、奈良の鹿もお辞儀すると聞いたことがある、鹿っていうのは礼儀正しいものだ。

 という、現実逃避をした。

 あれは恐らく威嚇しているだけ、礼儀のかけらもない行動だ。

 

 「なあ、ヘルサ。アイツの名前なんだ?できれば特徴も頼む」


 鹿の気を損ねないように、小声で尋ねた。


 『解析結果、個体名キングディアー。ソノ名ノ通リ、王様ノヨウナ角ガ特徴的。普段ハ温厚ダガ、縄張リヲ荒ラスナドキレサセタラヤバイ』


 ヤバイって……もっといい表現なかったのかよ、随分知能が低そうな言い方だ。

 

 つまりこいつは、今僕がここで実を食ってるのが気に食わないのか。

 そうであれば、その気にならないうちに撤退するまでよ。

 

 果実をさっと、懐に隠し。

 キングディアーから目を離さないように、背後歩きをしてその場から離れようとした。

 

 その時!


 『補足デキングディアーは鼻ガキキマス』


 それ先に言えよー!


 鹿はしっかり、懐の実に気がついたようで。

 鼻息を荒くした。そしてこちらに猛ダッシュで……!


 そうして一瞬追いつかれそうになったので、やむ得ず実を投げた。

 投げた実は、鹿の鼻にクリーンヒット!

 鹿は暴れ出した。

 僕はその隙を見計らって森の中へ逃げた。

 木々が連なる森ではスピードは出せまい。

 

 冷静さを取り戻した鹿は森の中へ、僕へ駆けてくる。

 しかしスピードは落とさない。

 何故なら行く先の木々を薙ぎ倒しながら進んできているからだ。

 流石に異世界ヤバすぎるだろ……。


 遂に僕の所まで辿りついてしまった。

 そして鹿は角を振り上げた。

 角は腿に突き刺さり、高く、そして遠くに飛ばされた。


 木が背中にぶつかり、勢いが止まった。

 背中に痛みが走った。また腿からもダラダラと血が。

 木を支えとして、なんとか立ち上がった。

 しかしその時にはもう鹿が……。

 執念……。


 「はぁー、はぁー」


 息が切れ、重苦しい呼吸をした。

 肺が押し潰されているかのように、肺から痛みを感じる。

 足の筋肉もぱんぱんになり、足が上がらない。


 右脚の腿からは角で刺されて、血がどろどろと脚を伝って爪先へ流れ出る。

 その痛みに耐えようと、唇を強く噛んだ。

 傷の周辺を掴みながら、脚を引き、横に移動する。


 なんて不運なんだ、こんなところで、こんなに強いやつに出会うなんて。


 やつから目を逸らさないように、慎重に……。


 やばい、僕、

 

 “死ぬかも”


 眉間にシワを寄せ、目前の死に対する恐怖を必死に耐えようとする。


 いやだ、いやだ、いやだ。

 まだ死にたくない。まだ死ぬのには早い。

 生きろ、生きろ、生きろ。

 

 右手に力を入れて、胸を強く叩いた。

 今の僕は相当カッコ悪いのだろう。

 泥まみれで、汗まみれ。

 少年のようじゃないか。

 でもまだ僕は大人じゃない、少年に毛が生えた程度の人間。

 カッコ悪くていいじゃないか。


 さて、切り抜ける?


 「ゲコっゲコっ」


 こんな時にもバカなカエルは呑気に鳴いている。

 集中させてくれよ。


 ……まてよ、カエルだって? まさかこの先に沼地があるのでは?


 一か八かで走り出した。

 どこに沼地があるのかなんて確証はない。あるかすらわからない。

 でも、それにかけるしかない。


 すぐ行った先には、案の定沼地があった。

 僕は沼を避けるように通った。

 そしてそこに座り、鹿を誘き寄せる。

 

 鹿は変わらず前も見ずに猛ダッシュで向かってきた。

 しかし、鹿はそれが仇となり沼にハマった。

 今がチャンス、今倒さなければならない。

 狙いは頭。

 今まで貯めてきた全ての魔力を吐き出す。

 

 「ふぅー」

 

 一度ため息を吐く。

 そして手をキングディアーに向けた。

 これで仕留める。


 「『空槍』ッッッッ!!!!」


 その詠唱はバカデカく、声が枯れていた。

 そして鹿の頭には空洞が空き、血飛沫をあげた。

 倒した、のか?


 『チロリン♪

 レベルガ13カラ34マデ上ガリマシタ」


 この音が聞こえたということは倒せたのだろう。

 そう確認すると、地面に倒れ込んだ。

 体中がジンジンと悲鳴を上げている。

 もう動けない。動きたくない。

 今日の晩飯はなしか。

 そう思い、適当に雑草を口に放り込んだ。

 痛い。もしかしたら、このまま痛みで死ぬかもしれない。

 はたまた多量出血で死ぬのかもしれない。

 でもなんだろう、後悔はない。

 

 初めてだ、

 「達成感は」


 それだけで、胸がいっぱいになった。

 満腹だ。


 


 

 

 

 



足捻って、スラダンの海南戦の赤木みたいになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ