#11 免疫だけはラブコメ主人公
突然だが。
風邪を引く主人公は存在するのでしょうか?頭の中で想像してみろ、風邪をひいた主人公を。
普通のアニメ好き、漫画好きならば、数人は思いつく筈だ。
次に質問を少しかえてみる。異世界戦闘ものの主人公で風邪を引くやつを見たことはあるか?
おっと、質問の意味を履き違えないで欲しい、風邪だ。ただの風邪、重病じゃないぞ。
異世界転生? 異世界転移? はたまた異世界ループもの?
異世界系には沢山の種類がある、それに準じて主人公もたくさんいる。
しかしその数多くいる主人公の中で普通の風邪をひいている姿を見たことがない。少なくとも俺はだ。
確かにオタクレベルまでなって来ると、挙げられるのも出て来るだろうが、アニメ好きレベルであれば思い付かないのではないか?
……そしてこの俺は恥ずかしながら風邪をひいてしまったのだ。つまり免疫力はラブコメ主人公と同等ということだ。
「ゴホン、ゴホン」
喉の奥に詰まった痰を吐き出そうと、自然に咳が出る。
身体中は熱を帯び首からは汗が滴った。しかし身体は熱さと共に寒くもある、悪寒というのか。心臓の鼓動が全身に巡り、脳を刺激した。
いつもだったら明るく感じる日光も、妙に薄暗く感じる。
仮ベッドとして作られた枯葉のベッドは、何かの動作をするたびに、シャキッという音を立てて、それが普段より一層大きく聞こえる。
呼吸の音が聞こえる。鼻だけでは事足りず、口と鼻両方を使うかのように、必死に呼吸している。
たまに風が通ることがある、風が通っていき少し経つと葉が揺れ出す。そして俺の体調を少し楽にしてくれる。
こう何もせずじっと、ただぼぉーっとしていると、普段生活していて気づかない事も見えて来る。
風邪さえなければ、たまには悪くないのかもしれない。
確かに自然は美しいものだ、地球にいた頃には、自然を美しいなんて思ったこともないし、興味を持ったこともなかった。
しかし今は違う、自然を眺めていると、なんだか生命の息吹きを受けている、そんな気がする。
今日は風邪を良いものだと捉えて、自然を堪能するとしよう。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
おっと、早速邪魔が入った。
俺の視界一面にミミィの顔面が広がる。
「大丈夫、心配しないで」
「無理しないでね、今日はわたしが看病するから!」
「いや、いいんだけど……」
ミミィが看病だって? 冗談じゃない、コイツが看病すると余計悪化する予感しかない。
「遠慮しなくていいの!」
「いや、遠慮してな……」
完全に聞く耳を立ててないな……。
俺を心配して看病してるんじゃない、コイツのことだ探究心から言い出しているのだろう。
「でっ! なにすれば良いの?」
「無策で看病するって言ったのかよ……仕方ない、じゃあ水でもかけてくれないか? 少し身体が熱いんでな」
「なんだ、そんなことか!」
いつも通り、無邪気でハイテンションなミミィ。楽勝だよ、という顔をして俺の顔に手のひらを向けた。
「《ウォーターサーブ》」
ミミィの詠唱と共に、初級魔法だとは思えない程に凶悪な水流が顔面に押し寄せた。
「おい! ちょっとお前! 手加減って言葉を知らないのか?」
するとミミィはぽかんとした顔をした。
「手加減したつもりだけど??」
そうだミミィは不器用なのだ。
「あれが手加減って……俺は修行僧でもなんでもないんだぞ! 滝行なんて求めてない!」
びしょびしょになった服に土が着き不快感を感じる。
「ねえ、お兄ちゃん他になにやればいい?」
「…………」
「ねえ?」
「…………」
「ねえってば」
「………」
「お兄ちゃんが無視する。うわぁぁん!」
突然ミミィが泣き出す。
「ごめん、ごめんて。……そうだご飯、ごはん作ってよ」
そう言うと、ミミィはぴたりと泣き止み、颯爽と森の中へ入って行った。
やっと行ってくれた……。
よし、自然を楽しむとするか……。
———数秒後
飽きた……。
さっきあれほど自然をリスペクトした発言をしたが、それを取り消して欲しい。
前言撤回、俺には自然はよくわからなかった。
変わらない景色を眺めてなにになる?
わーすごい! ぐらいだろう。
やっぱ暇だ、誰か話し相手になってくれないだろうか? ミミィはどっか行ってしまったし。
……そうだヘルサと久々に話すか。
「なあ、ヘルサちょっと話しあるんだけど、良いか?」
『ナンデスカ、告白デスカ?」
「違うわ! 確かにそれっぽい文章だけれども。話っていうのはな、つまりな………あれ、あれだよ……」
『特ニ話スコトガナイノナラ、サヨウナ……」
「いや、そうだ勇者、勇者について教えてくれ」
『ワカリマシタ』
それからヘルサはこう語り出した。
勇者というのは今までに計6人、俺含め7人いるらしい。
神話上のルールで勇者は必ず同じ時空に共存してはいけないらしく、この世界では勇者は現在、俺だけ。つまり歴代の勇者は魔王を倒せずに死んでしまっているということ。
少しゾッとした、俺も魔王を倒せずに死んでしまうのではないか。しかしもう後戻りできないのも知っている、だから諦めない。
そして最後に固有スキルの存在。勇者は各自一つ固有スキルを保持しているという。
しかしそれに気づけない可能性だってある、中には自分の固有スキルに気づかず死んだ勇者だっているらしい。
もう少し気になることはあったが、ミミィが満面の笑みで森から帰ってきた。
いつもいいところに来るのがミミィだ。
ミミィはなにやらキノコをとったらしく、自慢げに見せびらかして来る。
「ミミィ、俺はそれは食わないぞ」
なんでよ、と顔が言っている。
確かにミミィが頑張って採った食料は食べてあげたいが。ものがもの、赤い傘に白い斑点があるキノコなんて誰が食べる?
食べるとしたら赤色の配管工ぐらいだろ。
絶対幻見せて来るやつってことがわかる。
「いいから…いいから」
「うぐっ……」
ミミィに無理矢理口に詰められる。
そして運悪く飲み込んでしまう。
う……お腹の下からなにかが……!
「おえええ」
「お兄ちゃんからウィンジュースがぁ!」
なんて的確なたとえなんだ………




