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#9 I’m not what I was.



 ついに来た、決戦の日。


 昨夜は随分満喫できた。

 美味しい料理、寝心地の良い寝床。サイコーだった。いやぁ、体が軽い。

 

 さて、僕が昨日村の職人に発注したものとは。

 これ、猫耳だ。決してコスプレをするわけではない。変装するのだ。あ、でも、コスプレか。

 かなり再現度が高い、木製なのにはたから見ても、猫耳そのものだ。

 かちゅうしゃのようになっているので、このように簡単に着用できる。





◆◆◆◆





 村の中心の広場に呼ばれ、作戦の再確認をする。

 大勢の獣人がぞろぞろと集まってくる。こう見ると沢山いる、僕が来た時にはみんな隠れてしまっていてわからなかった。しかしミミィには悪いが巨乳が多い、こんなまな板があそこまでいくとは思えない。

 通りすがりの獣人に話しかけてみると、女性は少し怖がりながら距離を置かれ、男性には睨まれる。やはりまだ人間としての差別意識があるのか。

 それもそう、勇者アサキを間近に見たことのあるやつは長老だけらしい。

 村人は皆、ただのお伽話としか考えていない。

 だから人間を嫌悪しているこの村に、こんな僕が呼びかけたところで誰も応じてくれない。

 しかし村長は村人からの信頼は厚いらしい、だから村長が頼めば一件落着らしいが……。

 本当にそれでいいのか?


 大体全員が集まった頃に、村長に促され壇上に立った。

 壇上に立つと、僕に視線が集まった。

 

 「みなさん、こんにちは」


 喉の奥に何かが詰まっていたかのように、声が出なかった。


 「聞こえねぇよ!」


 どこかからヤジが飛んできた。


 「人間のすることは信用ならん!」


 さっきの言葉を境に次々に罵声が飛び出して来た。


 いつもそうだ。あの時もそうだった。止められなかった。素直に言えなかった。

 茜の顔が頭に浮かんだ。

 もしあの時、止めれていれば、もしあの時勇気があれば。

 僕はヘタレだ……。


 「うるさい!!!!」


 でも今は違う、僕は、いや俺は変わったんだ、この世界に来て。

 俺を後押しするように追い風が吹いた。

 村人はその言葉に驚き唖然としていた。


 「俺がこの村を救ってみせる、それだけだ……」


 そして静かに壇上を降りた。

 俺が壇上を後にした時、広場中に拍手が巻き起こった。俺は変われた、前の僕とは違う。


 その後、なんやかんや話して、ある飲み物が配られた。

 それは、ウィンジュースと言って獣人族の古くから伝わる勝負ごとの前に飲む物らしい。その名の通り、勝つ意味が込められている、日本で言うカツ丼みたいな感じだ。


 「お兄ちゃん、カッコよかったよ」


 ミミィがニヤニヤしながら此方を見つめて来た。

 なんかむかついたので、髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやった。

 そこに、前の少女(アサキ)がその母親に見守られ此方にきた。


 「あの……お兄さん。あの時はごめんなさい」


 もじもじしながらも、しっかり謝ってきた。


 「いいよ、気にしてないよ」


 そう言いアサキの頭を撫でた。

 照れくさそうにし、「じゃあ」と言って母親の方へ戻って行った。


 「それにしても、このジュースうめぇな。どうやって作っているんだ?」

 「これはね蛾の幼虫を適当に潰して取れた汁なんだよ」


 ミミィは笑顔でそう言った。

 何も聞かなかったと思いながら、最後まで飲み干した。……中身はどうあれ美味しかった。



◆◆◆◆




 ゴーンッ!!

 鐘の音が村中に響き渡った。

 

 奴らが来た。村人をすぐに避難させた。

 この世界で初めて見る人間、いったいどんなやつなんだ?


 「《アセンディングエアー》」


 ヘルサに教えてもらったこの魔法、地面へ向けて放つことで空気を押し出し、大ジャンプを繰り出す至ってシンプルな魔法。


 草むらから出ると、門の近くに4人、人がそして馬車が一台。

 華麗に着地し、敵をビビらす作戦!


 「ここから先は俺が相手だ!!」

 「な! なんだお前は!」


 ここまでは完璧。あとは着地するのみ。

 グキッ!

 足首から聞いたことない音がなった。そのまま着地に失敗。

 ……はっ、恥ずかしい。


 「…………」

 「ご、ごめん、もっかい、もっかいやらせて」

 「あ、おう。……どうぞ」


 「ここから先は俺が相手だ!!」

 「な! なんだお前は!」


 商人さんには気をつかわせてしまった。

 しかしもう2度と同じ過ちを犯さない。

 ここで華麗に着地!

 グキッ!

 同じ足がさっきと逆方向に勢いよく曲がった。なんかどっちも捻ったから逆に痛くなくなった。


 「……本当にホントにもっかいやらせ…。」

 「やらさせるか!!」

 「何? お前人が頑張ってんの否定するわけ?」

 「え、なに? 逆ギレ?」

 「は? ちげぇーし」

 「絶対コイツ逆ギレしてるって」

 「お前器が小さいんだよ、だからハゲデブなんだよ」

 「は、ハゲじゃねーし、ちょっと生えてるし! デブは富の証だし!」

 「ハゲが激しく言い訳か? ハゲだけに、わぁはっはは」

 「調子乗んなよマジで」

 「ちょっと、デブスさん?」


 剣士と思われるやつに肩を叩かれ我に帰る「しょうもないことでキレる人」略して商人。


 「君、見ない顔だね」


 狐目の剣士は落ち着いた様子です此方を見ている。

 剣士の顔は、例えるならバトル漫画によく出てくる、絶対裏切るやつだ、しかも物語の終盤そして大事な場面で敵に寝返りそうな顔をしている。

 アーチャーはまあモブだな、害は無さそうだ、同じモブ顔の俺より。

 魔導師は紫色の衣に身を包んでいて、身体的特徴をバカにすることができない。後で剥ぎ取ってやる。

 そして商人コイツはデブ、ブス、ハゲ、モテない三大要素を詰め込んだ感じだ。

 この人々を優しく総称するなら個性豊かな人達かな。


 「まぁな、この村来んのは初めてだからな」

 「ほお、援軍のつもりか」


 しっかり猫耳が効果を発揮しているようだ。


 「そんなところだ、お前たちをぶっ殺しに来た」

 「ふっ、」


 奇怪な笑みを浮かべた。


 「覚醒前の獣人など下等生物に等しい! やれ! キャイン!」

 「はっ!《ハイサウンド》!」


 紫の魔導師が杖をあげて呪文を詠唱した。

 俺にはなにが起こっていたのかサッパリ分からなかったが、きっと獣人は聞こえて人間には聞こえない高音を出しているのだろう。

 

 最も、ここはやられたふりをするが。


 「威勢だけはいい雑魚だったわい。今日はコイツに免じて、売り物にはコイツを出そう」


 商人はゲラゲラ笑いながら四人を連れて俺の方へよって来る。


 「キャイン、多分ないがそいつの生死を確認しろ」


 魔導師はそれに従い僕の腕の脈に手を伸ばした。

 その瞬間、立ち上がり魔導師の腕を掴み、そのまま喉仏にグーパン。

 相手に時間を与える間もなく魔導師を拘束。


 「いまぁだぁ!!!!」


 俺の叫び声と共に草むらに潜んでいた、獣人の強靭な漢たちが雄叫びを上げながら、商人、冒険者パーティに襲いかかった。


 「うわぁぁあ!!!」


 以前の僕では出なかった叫びも今の俺ならできる。





ちなみに僕の一人称は俺です。


……すいません。

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