逆ナンパ
盗賊風のお姉さんが俺の事を誘ってる。
「ねえ君、わたしとお友だちになって遊んでくれない?」
お姉さんからのお誘いがキター!
危険な夜の大人の遊びのお誘いが来たー!
これで毎日責め続けられた王女との恋人関係を上書きできる。
これだけの美人なお姉さんが誘ってくるってことは……。
このお姉さんとベットの上で夜の大運動会をしていると強面のヒモ男が乱入してきて俺をボコって金を奪う美人局の可能性はなくも無いけど、もしヒモ男が乱入してきたらアイテムボックスに収納してやればいいだけだ!
なにしろ今の俺は怖いもののない最強!
答えなんて決まってる!
即答だ!
未体験のリア充イベントに舞い上がってることを悟られないために声を低くクールに決める俺。
「いいですよ」
「じゃあ、明日ね」
えっ?
明日?
なんで明日なのかよく解らないんだが?
これから宿に行って、組んず解れずの大人のプロレスごっこでもして遊ぶんじゃ無いの?
これはなんだ。
俺の聞き違い。
きっと今から行くんだよ。
するとお姉さんは立ち上がると店の奥に向かって大きく手を振った。
「やったー! みんないいって!」
店の奥からゾロゾロと現れる男と女。
腰に武器をぶら下げててどう見ても堅気じゃない。
えっ? 何が起こるの?
速攻俺は五人の男女に取り囲まれた。
やっぱ俺ボコられるの?
や、やってやろうじゃねーか!
今の俺は陰キャなだけなクズじゃねー、武器を持ったクズだ!
ち、近寄ると危ないんだからな。
俺はヤバいと思って身構えたけど、みんなニコニコしてる。
その中の好青年ぽいのが挨拶をして来た。
「討伐依頼に一緒に参加してくれる事になってくださいまして、ありがとうございます」
「えっ? 討伐依頼?」
言ってることがさっぱり解らないんですけど?
おれが理解できずにポカンとしていると、異変を察知した青年が聞き返してきた。
「明日、冥洞窟のアイアンゴーレムの討伐依頼に同行してくれる事になったんですよね?」
「そんなの初耳ですけど?」
「えっ? おい、ニケ! 話が違うじゃ無いか!」
「てへへへ。あたしの友だちになってくれるのを受け入れてくれたから嬉しくて、討伐依頼の事を話すの忘れてたよ」
「おーーい!」
青年がお姉さんの頭をポカリと軽く叩くと舌を出した。
可愛いな、おい。
それにしても討伐も友だちも初耳なんだけど、どうなってるの?
青年は改まった感じで俺に詫びる。
「すいません、なんか手違いが有ったみたいで妹がご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ」
「『青春騎士団』団長をやってるアレスです。もう結構長い間団長をやっているので青春ていう歳じゃ無くなってしまいましたけどね、ははは」
どうやら討伐依頼の同行の勧誘だったらしい。
青年が再び頭を下げる。
「改まってのお願いなのですが、明日、冥洞窟というダンジョンにアイアンゴーレムの討伐依頼をしに行くのですが、お名前は……タカオカ様でしたっけ?」
「タナオカです」
「失礼致しました。タナオカ様は非常に大きなアイテムボックスを持っているとの噂を聞いています。そこで討伐依頼に同行して討伐対象のアイアンゴーレムの運搬をして貰えないでしょうか? 」
青年は依頼票を机に広げながら説明を続けた。
「アイアンゴーレムはその身体が良質な鉄素材として使えるのですが、非常に重いので普通だと運搬が困難なのでコアだけの素材収集となります。そこでタナオカ様に鉄素材となるアイアンゴーレムの身体の運搬をして欲しいのです。もちろん倒すのは我々がしますし報酬は人数割りでは無くてタナオカ様1、我々全員で1の配分で構いません。受けて貰えないでしょうか?」
一対一の報酬か。
向こうは五人である事を考えると罠が有るんじゃないかと思うほどうまい話だ。
もしこれで罠じゃ無ければこの人はいい人過ぎるだろ。
明日は予定もなにもなくて暇だから受けても何の問題もないし、もし罠だったらこいつらをアイテムボックスの中に収納してしまえばいいだけの話だ。
それなら受けない理由は無い。
それに騙されてる気もしない。
この兄ちゃんの目は凄く綺麗だから悪い事を考えてるようには思えないしな。
俺は二つ返事をした。
「もちろんいいですよ。よろしくお願いします」
「ありがとうございます! それでは明日、よろしくお願いします!」
「じゃあ、明日の討伐依頼の成功を祈って俺のおごりで前祝といきましょう!」
なんだか期待してたムフフ展開にはならなかったけど、この人たちはいい人っぽいし初めての冒険らしい冒険という事で俺の期待度はMAXだ!
*
日が明けて討伐依頼同行の当日。
あれから明け方まで続いた酒場でのどんちゃん騒ぎで酒を飲んでいないのに寝不足のせいか頭が痛い。
馬車乗り場から馬車でメンバーと一緒にダンジョン前まで移動。
馬車で2時間の旅路だ。
多分距離的には20キロは無くて10キロちょっとの距離だろう。
移動中、昨日の盗賊の女の子のニケさんが俺にベッタリと寄り添ってた。
ダンジョンの入り口に着くと、俺とリーダーのアレスさんたちとは別行動になった。
「ダンジョンの中はモンスターで溢れ返っていて危ないから、入り口の外で待っていて下さい。狩り終わったら遣いの者を寄こしますのでゴーレムの回収をお願いします」
「わかりました」
「あと、一人では危ないと思うので妹のニケを護衛に付けておきますね」
この辺りはちょっとした宿場町みたいな感じだ。
冒険者が常にダンジョンに出入りしてるせいかモンスターの姿を見る事が無く、安全が確保されている。
それなのに護衛を付けると言うのは、俺が好意を持っているニケさんと二人っきりにするという小粋な演出だったらしい。
俺は盗賊の少女のニケさんと楽しく話をしながら待つことにした。
「タナオカ君は異世界から来たって本当なんですか?」
「本当さ」
「向こうでも冒険者をしてたんですよね?」
「向こうの世界では学生をしてたんだ。第一、向こうには魔物なんて居ないから冒険者なんて職業は無いんだよ」
「すごーい! 平和な国だったんですね」
「おう、平和と言えば平和な国だったな」
俺たちは際限なく話を続けた。
ニケさんは話を引き出すのが上手で普段は2~3分も話せば話題の尽きるコミュ障な俺だったが延々と話し続けることが出来る。
ニケさんと話してると凄く楽しくて、半日も一緒に居るとこの子とずっと一緒に居れたらなーと思うようになっていた。
俺もニケさんの事を色々と聞き続ける。
元々ニケさんたちは魔族領近くの辺境の村に住んでいたらしい。
その村にハイオークの軍勢が村に攻めて来て村は全滅。
親を亡くした子どもたちで騎士団を結成し、ハイオークへの復讐を誓いエストの街で30人の子どもたちとチームを組み冒険者稼業を始めたのが十年前。
チームメンバーは徐々に減っていったが、アレスさんたちは結成からずっと冒険者を続けてるとの事だった。
アレスさんとニケさんは兄と妹と呼び合ってるけど血は繋がっていない。
「タナオカ君と話してると楽しくて、私こんなに男の人と話したの初めてかも」
「俺もこんなに女の子と話したのは初めてだな。それにしてもアレスさんたち、戻ってくるの遅いな」
「そうだね……もう日も暮れそうだし。なにかあったのかな?」
日没近くになってもアレスさんたちは戻ってこなかった。
帰りの為に待たせていた馬車も日が落ちるということで既に戻ってしまっていた。
さすがにおかしいよな?
戻るのが遅すぎる。
「お兄さんたち、遅いなあ」
「迎えに行くか?」
「二人だけで? 危なくないかな?」
「俺が居るから大丈夫さ」
そんな話をしていると出入り口から出てくる冒険者たちが慌ただしくなってきた。
「やべーぞ! モンスターの変異種が出たらしいぞ」
「あんなの俺ら普通の冒険者じゃ相手にならないだろ!」
「早く国の騎士団に連絡するんだ!」
俺は冒険者の一人を捉まえて詳しい状況を聞く。
どうやら地下3階のゴーレム広場に居ないはずの変異種のゴーレムが沸いたそうだ。
何パーティーも蹂躙されて大変なことになってるらしい。
「お兄さん……」
ニケさんは今にも泣きそうな顔をしていた。
俺たちはアレスさんたちを救出する為に迷わずにダンジョンの中に潜る。
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