ユッコの依頼
翌日ユッコがやって来た。
会ったのは冒険者ギルドの会議室。
屋敷を見せつけて俺の成り上がりっぷりをドヤるのも考えたんだけど、まだユッコが信頼できる奴かわからないのでアイラちゃんとニケさんの身の安全を考えて冒険者ギルドで会うことにしたのだ。
冒険者ギルド長のリーダさんに部屋を貸してくれと言うと他所でトラブルを起こされるよりはいいだろってことで二つ返事で貸してくれた。
相変わらずギルド長に信頼されてねぇ。
ユッコにワークの話を聞いてみた。
「今回の依頼をすればワークと騎士たちに話を付けてくれるんだよな?」
「それなら既に話を付けておいたから安心して」
「もうやってくれたのか」
「あの三人を放置してまたタナピーに迷惑かけたらこの話も破談になるしね」
学校ではユッコの事は底辺のライバルとしてしか知らなかったんだけど、意外と誠実そうだ。
「それにしてもタナピーが二人もお嫁さんを作ってるとはね。それも領主の娘さんをお嫁さんにしてるなんて……一歩どころか三歩ぐらい出し抜かれた気持ちだよ」
「出会った時は領主の娘さんだったなんて知らなかったし」
「それでタナピーがセクハラを仕掛けて縁が出来たと」
「そ、そんなことしてねーから!」
「でも、日本で召喚された日にどさくさに紛れて私のパンツを見ようとしたよね?」
「あれは事故だから! 神に誓ってわざとじゃない!」
実際見る気満々だったけど性的欲求を満たす為じゃなく、単にどれだけダサいパンツを履いてるのか知的好奇心の欲求を満たしたかっただけだ。
「まあいいや。要件に入ろう。これが買い出しリストです」
ユッコは一枚のレポート用紙をだした。
レポート用紙にはびっしりと綺麗な文字で買い出しする物の詳細が書き込まれていた。
俺はリストを見て驚いた。
BDプレイヤー、アニメのDVD、ゲーム機。
果ては発電機とガソリン迄。
「これって……」
「日本での買い出しリストよ」
日本での買い出しって……。
嘘だろ?
「日本に戻れるのか?」
「戻れるわ」
マジか?
「じゃあ、勇者パーティーのクラスメイトたちを帰してやれよ」
「クラスメイトたちが日本に帰りたいと思う?」
「まあ、思わん」
俺たちみたいな学歴社会からドロップアウトした底辺高校の生徒は異世界にいた方が絶対にいい生活が出来るしな。
俺が帰りたくないようにユッコも帰りたくない。
そして俺たちが帰りたくないようにクラスメイトたちも同じ思いなんだろう。
日本に帰ったとしても学歴不要のコンビニやファーストフードのバイト店員になる未来しか待っていないのだ。
そのバイトで稼いだ金で起業をして成功させなければ、ずっと使われる側で使い潰される道具になるしかない。
「日本に戻りたい理由と言えばそこに書いてある商品ぐらいで、それさえ手に入れば日本は用無しだしね。ということでクラスメイト全員分の買い出しを頼むよ」
ところで日本に買い出しに行くと言ってるけど、そんな簡単に行き来できるものなのか?
少なくともこっちの世界に来るときは巨大な魔法陣を使ってやっと来れたぐらいだ。
ユッコは問題ないという。
「私には無理だけど協力者が居れば行き来できるわ」
ユッコは説明を続ける。
「こっちから日本に行くのは比較的簡単」
「簡単なのか?」
あの憎たらしい王女は元の世界には戻れないと確か言っていた。
それなのに……本当か?
「魔法を使えば簡単だわ。でも日本からこっちの世界に戻ってくるのはかなり厳しいの。なんでかわかる?」
わかるかと言われてもなんでなのか見当もつかない。
「簡単なことよ、日本じゃ魔力がないからMPの補充も出来ない。だから移動のための魔法を使えなくなるの」
なるほどな。
日本で魔法を使えるのは30年間独り身を貫いた魔法使いだけだもんな。
うんうん、なんとなく納得。
「日本で魔法を使うには死ぬほど辛い対価を支払わないといけないらしいのよね。そこでね、協力者をこっちの世界に残したままタナピーだけが日本で買い出しして戻ってくる方法を考えたのよ」
「でも、日本に行ったらMPが無いんだからアイテムボックスが使えなくなるんじゃないのか?」
「そこで白羽の矢が立ったのがタナピーなのよ」
なんで俺なんだ?
「あんた持ってるじゃない。MP消費ゼロのスキルを」
「そういうことなのか」
俺はMPを消費しないでアイテムボックスを使える。
それはMPの存在しない日本でも同じことだ。
「タナピーだけが日本でアイテムボックスを使えるの。買い出し頑張って来てね」
ということで俺は日本へと買い出しに出掛けることになったのだ。
*
部屋の会話を盗聴していたギルド長のリーダ。
転生者である二人が話している内容を聞いて青ざめていた。
「異世界を自由に行き来できるだと?」
あり得ない。
召喚には莫大な対価が必要だ。
異世界からの召喚には巨大で高価な魔晶石が必要である。
対価を払わずに異世界との行き来が出来るだと?
そんなことが出来たら異世界の技術を使った物が溢れかえってこの世界が滅茶苦茶になってしまう。
でも私にとってそんなことはどうでもいい。
大好きなタナオカが異世界へと帰ってしまうかもしれない。
それだけは絶対に阻止せねば……。
リーダは秘めたる思いを守るため計画を練り始めた。
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