切り札は何度でも
言葉はいらない。
必要なのは愛と憎しみだけ。
フェリックス……。フェリックス……よくも、わたしを殺してくれたわ。
二度と許さないけど、それでも愛し続ける。
流れた血はやがて、わたしの中に還ってきた。魂さえも再び宿り、現世へ舞い戻ってきた。
起き上がると、わたしは土の中だった。
そうか、フェリックスが埋めたんだ。
証拠隠滅というわけね。
「……今すぐ貴方の元へ」
この場所は知っている。
わたしのお屋敷から少し離れた場所にあるベルリオーズ庭園。その林の中。普段はあまり人が立ち寄らない場所。
こんな場所にわたしを埋めるだなんて。
お屋敷へ戻ると、誰かが立ち話をしていた。
木の陰に隠れて聞き耳を立てた。
「フェリックス様……オルタシアお姉様を本当に殺したのですか!」
「ああ……ビアトリス。君の姉は死んだ。次は君もあの世に送ってあげよう」
彼は、冷血な表情でビアトリスに歩み寄っていく。
けれど、フェリックスは彼女の目の前で足を止めた。
「……ッ。フェリックス様、わたくしも殺すのですか」
「しかし、幸運だった。なぜなら、君は義理の妹……血の繋がりのない他人だ」
「な、なぜそれを」
「知っているさ。なぜなら君は……」
フェリックスが何を言おうとしているのか知らないけれど、わたしはもう我慢ならなかった。
「止めなさい、フェリックス」
「――なっ! オルタシア! なぜ生きて……!」
死人を見たかのようにフェリックスは驚いていた。そう、わたしは最後の切り札を使って死の世界から這い上がってきた。
「お姉様……生きていたのですね!」
「ええ、ビアトリス。わたしは死んではいません。その男、フェリックスに刺さ――」
気づけば、わたしの胸にはナイフが刺さっていた。
……え。
なんで……どうして、ビアトリス。
「やっぱり、お姉様には特別な力があったのですね。……お父様がおっしゃっていました。オルタシアは、切り札を持っているって。だから、一度殺したくらいじゃ死なないって思っていました。でも、それは一度切り」
微笑みながら、わたしを見下すビアトリス。
…………フェリックスとビアトリスが手を取り合う。
そう、二人とも……そういうことだったの……。
再び意識を失うわたし。
死んでしまった。
でも、切り札は何度でも使える。
こうなったら、邪魔なビアトリスを排除しなければ。




