婚約破棄
「オルタシア、悪いが婚約破棄――いや、死んでもらうッ!!」
鋭い短剣を向けて迫ってくる騎士王フェリックス。
彼とわたしは幸せな日々を送っていたはずだった。
けれど。
彼の狙いは、わたしへの復讐だった。
彼は……フェリックスは、ただわたしを殺したかっただけ。それだけのシンプルな執念だけで、わたしに迫ってきたのだ。
そんなこと、分かっていたのに。
「フェリックス。わたしはあなたを愛している」
「黙れ、オルタシア! お前の父親は、我が一族を滅亡に追いやった張本人だ。だが俺は、再びフィンガル王国を再建し……ここまでやってきた。お前を殺すために」
「それでも……」
「黙れ、黙れ、黙れ!!」
フェリックスは暴走して、わたしの胸に剣を突き刺した。
「――かはッ」
ばたりと倒れるわたしは、血を大量に流す。
痛い……。
とても痛いし、寒い。
これが死なの。
でも、これは一時的なもの。
わたしは持っていた。
最後の切り札を。
「……オルタシア。その美貌は誰よりも優れていた。惜しい女性だったよ、君は。生まれた時さえ違えば……良き伴侶として……」
声が遠ざかっていく。
フェリックスは行ってしまったようだ。
わたしには死が訪れようとしたけれど、でも、それは違う。最後の切り札が、わたしを蘇生するのだ。
『――――』
漆黒の中にある血塗られたカード。
これが、わたしの切り札だ。
お父様が言っていた。
人々の嫉妬、怨念、憎悪、嫌悪……様々な負の感情さえあれば、わたしはずっと切り札が使えるのだと。
……今のわたしには愛憎しかない。
わたしを刺したフェリックスが憎い。
けど、けれど、それでも彼を愛している――。




