第37話 ほ~っときましょ~♪
「ん? 坊主、寝れなかったのか?」
入ってきたのはドワーフおじさんです。
「いえいえ、ちょうど目が覚めたところです。交代ですね?」
「ああ、後数時間で日が登り始めるから頼んだぞ」
そう言いながら遠ざかるおじさんの背中に向けて「はい。任せて下さい!」と小声で返しておきます。
まだ寝てるムルムルと、その上で寝ているテラのハンカチ布団を掛け直してテントに残し、外に出ました。
ちょうどおじさんは自分のテントに入る所でお尻が見えました。
少ししてすぐにイビキが聞こえてきました。くふふふ。
お兄さん達は、起きる気配もありませんが焚き火が消えそうになっていましたので、薪を追加しておきました。
「本当に、これで護衛の仕事をしているつもりなのでしょうか?」
その後は暇潰しに焚き火の火でぐるぐるしながら見張りを続け、朝、うっすらと日が差し出した頃、朝ごはんの準備を始めます。
薪を追加してお湯を沸かし、適当に野菜とオーク肉を煮込んでいきます。
「うんうん。良い感じですね、灰汁を取って、マシュー直伝の調味料と安物ワインを入れるんでしたね。あれ? ワインは先に入れるんでしたっけ? ん~、間違っちゃったかな?」
……まあ、煮込めば良いでしょう!
ワインを一瓶入れて、調味料を入れながら、底が焦げ付かない様に、かき混ぜ続けます。
とろみが付いてきた時に味見。
「うんうん。上出来ですね」
煮詰まってしまわない様に少し焚き火から離しておきましょう。パンはどうしましょうかね~。あっ、よく考えたら、あのお兄さん達には食べさせたくない気がしますね。
「あふあぁぁ、おふぁよ。ライ今朝もムルムルのごはん出してくれる?」
テラとムルムルが起きてきました。
「うん。今日もゴブリンとオークにしちゃう?」
ぷるぷる
「そのようね、お願い、私はこの子が思ったより早く成長したから、違う子探してくるわ、うんしょ!」
テラが指差した頭の先には、小さな二葉だった物が黄色い花を咲かせ、立派に育っています。
そして、やっぱり、スポッっと頭から抜くと、ぽいっっと捨てて、ムルムルから降り、所々に生えている草を見てまわっています。
「じゃあムルムルにはこれね。ほいっと!」
ゴブリンとオーク出して、ムルムルを乗せてあげるといつものようにあっという間です。
そんなこんなで、テラは頭に団栗を乗せて帰ってきました。
「……ねえテラ、それって物凄く大きくならない?」
「ぬふふふ♪ 大きくなるわよ。でもすぐじゃ無いわ。三日ほどこのままね」
「じゃあ三日後は外にいなきゃ駄目だね。国境の宿屋みたいになったらと思うと。あはは……」
「そ、それもそうね……。大きくなる前に言うからお願いね」
「うん、お願いだから忘れないでね」
一抹の不安を抱いていると、まず最初に起きてきたのは、ドワーフおじさん。
その後に商人さんとお弟子さんが起きてきました。
僕達はシチューとパンの朝ごはんを済ませ、残り(お兄さん達にはあげません)は収納しておきます。
そして五人で馬車に馬を繋ぎ出発の準備を終わらせました。
「奴らは放っておこう。あんな奴らは育ててもろくな事にはならん」
「僕もそう思います。護衛は任せて下さい。こう見えてもそこそこ強いのですよ? それと、荷物は僕が収納しておけば馬さんの負担を減らせますよね?」
「おお! それは名案ですね、馬への負担が減り、速度も上がります! ぜひそうしましょう!」
「くふふふ。お兄さん達には追い付けない様にしたいですね~」
みんながうんうんと頷きました。
荷物を収納し、みんなが乗り込んだのを見て商人さんは、四頭の馬さんに軽くムチを当てるとガクンと出足の反動があった後軽快に走り出し、街道に出ました。
そうだ! あのお兄さん達にはもう少し寝ていて貰いましょう!
ぐるぐるさせて、気絶寸前まで持っていきます。
お兄さん達が目覚めたら、後少しぐるぐるして気絶して貰おうと思っていたのですが。
起きることはなく、夜営地が見えなくなったので、残念ですが気絶は無しのようです。
そして、荷物がないのでやっぱり速かったのですよ! 予定では日が落ちたくらいの到着が夕方前、まだ高い山にも隠れ出す前には街に到着して、明日の予定だったギルドへの報告が出来そうです。
入門してすぐの商人さんと一緒に冒険者ギルドに行く事になりました。
冒険者ギルドに着いた僕達、ドワーフのおじさんが受け付けのお姉さんに、お兄さん達の依頼失敗、どんな状況だったかを伝えると。
「まあ、それは酷いですね。ギルドで一番優しい試験官と言われる貴方にそう言わせる何て……。ギルドの登録抹消を考えなくてはいけないでしょうね。分かりました」
お姉さんは後ろを振り向き声をかけます。
「サブマスター、少しよろしいですか?」
奥にいた、初老の男の人がこちらを向き、席を離れやって来ました。
「いかがなさいましたかギルドマスター」
え! このお姉さんがギルドマスター!
「ええ、噂の新人五人パーティーのCランクへの試験は失敗、それから降格、見習いにまで下げます」
「それは……、期待されていたと聞いておりますが、それではその者達の昇格は無くなったと見てよろしいのですか?」
「はい。依頼途中の事故があった場合は護衛及び、その復旧に携わる決まりですが、それを怠り、夜営時にお酒を飲み、依頼者を放って寝こけ、朝も起きないような奴らは冒険者ギルドには不必要。即刻除名、永久追放でも良いくらいです」
うん。まったくその通りです。
「う~む、それは酷いですね。では、冒険者ギルド各支部にその内容を伝えます」
サブマスさんは他のギルド職員に指示をして、手の空いていた人達が魔道具を手に、「……の昇格不可、見習いへの降格……」と電話みたいな魔道具で各ギルドにさっきの内容の連絡を入れているようです。
「すまんな、それとこの坊主が途中からではあるが、護衛依頼を請けた」
「はい。事後にはなりますが、依頼書を登録させて貰います」
おお! そうでした! くふふ。お小遣いが増えますね。
商人さんが紙に何かを書いて、ギルマスお姉さんに渡します。
お姉さんは受け取り、目が文字を追っていき、頷くと。
「問題無いようですね、報酬も夜営と一日半の護衛の基準内です。では、えっと」
「ライと言います。Eランクです」
僕はギルドカードをカウンターに乗せます。
「まあ! うふふ、じゃあこれでランクアップ出来るかも知れませんね。お預かりします」
お姉さんはそんな事を言いながら僕のギルドカードを魔道具に通しました。
「あら、薬草依頼がほとんどね。討伐依頼が無い様ですね。残念ですが今回は昇格とはいきませんでした」
「なんだ、坊主は討伐の依頼を請けてなかったのか?」
「はい。十歳までは請けるなと言われていましたので、こっそり討伐してましたから。次から請けていきますね」
残念ですが仕方ありません。
「うふふ。こっそりですか。あまり危険な事はしちゃ駄目ですよ。では今回の護衛の報酬銀貨二枚です。どうぞライ君」
「やったぁ! 銀貨二枚もですか!」
「それとお預かりしているこの依頼金は繰り越しますか?」
僕が喜んでいる内に商人さんとお姉さんが話を続けています。
「はい。まだこの二人には東の開拓村までお付き合いいただきます。ライ君はそこでお別れですが、復路を頼まなくてはならないので預けてあるものはそのままで、それと何人か護衛を追加したいので、募集をお願いします」
「分かりました」
「あの! その依頼私じゃ無理ですきゃ! いだ、噛んじゃった……」
両手を上げ自己主張をしながら話しかけ、噛んだ後は、しおしおしぼんでいきました。
身長は僕と一緒くらいで赤毛のくせっ毛で、茶色の瞳、つぎはぎだらけの革の胸当てと、鉈の様な物を背中に背負った女の子。
「お嬢ちゃん一人かな? それともパーティー?」
がばっ! と顔を上げ、良いの? って顔をしながら、返答しそうです。
「私は一人、ソロです」
「ふむ、見たところ剣士ですかな? 依頼内容は、この街から東の開拓村までと、この街までの往復で様子を見せて貰い、良ければその後も頼む事になるかもしれませんね。ギルドマスター殿、この方の他にも数名頼めますか?」
「良いの! やった!」
「良かったね。僕はライです。よろしくお願いします」
「おお! ライ君よろしくお願いします! 私は、アマラです」
「あの~、その依頼、俺達も良いかな?」
僕達の後ろで順番待ちをしていた人達が、声をかけてきました。
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