第193話 刀と杖の行方
「まずいぞ! ライ殿の防具は管理監の息子が欲しがって、先ほど持ち帰ってしまったぞ!」
「主任! Sランクの冒険者が装備する防具ですよ! きっと物凄く高価な物ですよね! は、早く取り返さないと!」
「あの防具は、ヒュドラやリヴァイアサンの革を使っていますから、買えば高いと思いますよ?」
それを聞いた主任さんは真っ青な顔になり。
「申し訳ない! すぐに取り返してくる! おい、この方達を牢から出し、お茶を頼む! 俺は管理監のところへ走る!」
「主任! やつの体型だと、鍛冶職人のところへ持って行ってるかも知れません! 誰かそちらにも走らせるべきです!」
「分かった! 後は頼むぞ!」
慌ただしく階段を駆け上がって行った主任さんを見送った後、僕達は牢から出してもらい、ギルドカードももちろん返してもらいましたよ。
僕達の他には誰も捕まっていないため、見張りをしていたおじさんも、一緒に地下から上に戻り、応接室に通されました。
応接室はソファーがあって、そこに進められ僕が真ん中で、左にテラ、右にアミーが座り、お茶とお茶菓子をいただいています。
「おお、これは中々美味しいですね、お土産に少し買っていきたいですね、この街に売ってるのですか?」
僕達の向かいに座っている見張りのおじさんに聞いてみると。
「このお菓子は貴族ご用達のお店ですから貴族に所縁のある者しか買うことは······Sランクならもしかして買えるかもしれませんね、後で店の場所をお教えしますね」
「ありがとうございます。アミーさんはどうしますか?」
「うむ、美味じゃから買っておきたいのう。私も同行させてもらうのじゃ」
「はい、眠りを邪魔しちゃったお詫びに僕が買いますよ、······あれ? 僕の武器が移動していますね? 持ってきてくれてるのかな?」
「いえ、お帰りの際に渡す手はずですから、まだ······え? そんな事分かるのですか?」
「はい。ん~、詰め所から出ていきましたね、どこに向かっているのでしょうか」
「あの刀は呼べば戻ってくるのでしょ? それか、持っていってる者は悪者なんだから捕まえましょ、その方が早いわよ」
「ですね」
「ちょっと、ライ殿の刀はそう簡単には取り出しできませんよ? あの部屋の鍵は管理監の息子の衛兵長と、副長、それと革鎧を取り返しに行った主任だけですよ?」
ですが、確かに動いてます。
「では、副長さんが持っていったのかな?」
「副長は今隣街に行ってますから、革鎧を持ち出した衛兵長か主任だけ······まさか鎧だけでなく、武器まで持ち出したのですか! ちょ、ちょっと見てきます!」
おじさんは急いで立ち上がり、応接室を出ていきました。
「はぁ、追いかけましょうか。仕方ないわね、ライ、背負子を出して、魔王はそれに乗りなさい、私は抱っこで良いから」
「うむ、良く分からんが構わんぞ、久しぶりに心踊る展開じゃ、ほれ、早う背負子を出すのじゃ」
「は~い。よいしょっと」
僕は背負子を背負い、しゃがむとアミーさんが背負子にまたがりましたので立ち上がり、落とさないように、ロープで縛っておきます。
「テラはお姫様抱っこで、ほいっと! じゃあ行きますね」
僕もおじさんを追いかけ応接室を出て、詰め所の出口に向かいます。
詰め所の中にいた方達は、いきなり奥から僕達が現れて、驚いていますが放っておいて外に向かおうとしたのですが。
「嘘だろ! 衛兵長が持っていった!? なぜ止めない! あれは間違って捕まえてしまったライ殿の武器だぞ!」
「嘘だろ!? だが、そんな報告は受けていないし、仮に受けていたとしても相手は衛兵長で次期管理監なんだ、逆らえるわけないだろ! これでも偽装の罪を認め、犯罪奴隷とするまではと止めたんだ!」
「そうだ。主任も鎧の時止められなかった物を、俺達はみんなで止めたんだ! だが『あの革鎧もこの刀も杖も、あんな小僧達が持つより、私が有効活用した方が良いに決まっている! 逆らうならお前達は命令違反で解雇だ! 分かったな!』なんて言われたら逆らえないだろ!」
「ライ、もう良いでしょ? さっさと捕まえてしまいましょう。それに魔王の杖も持っていってるみたいよ?」
「うん。行っちゃいましょうテラ、しっかり捕まっていてね、アミーさんも舌を噛まないように! 行きます!」
見張りのおじさんに、『捕まえてきますね』と言って、一気に加速して詰め所から出ました。
刀は馬車に乗っているのか、大通りを人が走るくらいの早さで街の中心に向かって移動しています。
(あの馬車のようですね)
(そうよ、どうやって止めるの?)
(なんなら私が魔法で車輪を吹き飛ばしても良いぞ)
(まわりの方に迷惑がかかりませんか? まあ僕に任せて下さい、行きますよっと)
馬車に追い付き、御者台にいる衛兵さんに声をかけます。
「こんにちは、ちょっと止まってもらえますか? 中の衛兵長さんに用事がありまして」
走っている馬車なのに、横から話しかけられて、驚いていますが、なんとか馬車の操作は失敗せずに持ち直したようです。
「な、なんだね君は······あれ? 確か捕まった子だよな? なぜ外にいるんだ?」
「あれは間違いで、本当に僕達がSランクだって分かったからですよ。ですから衛兵長さんが持ち出した僕とアミーさんの武器や防具を返してもらうために追いかけてきたんで、馬車を止めて下さい」
「えっ? そんな! 防具は売っぱらってしまったぞ! まずいじゃないか!」
あちゃー、売ってしまったのですか。
「でも、売ったところですからお金を返して、防具を返してもらえば良いですよね?」
「そ、それはそうだが······わ、分かった、まず、もう少し先が防具を売った場所だからそこに止めよう。刀と杖もそこで売ると言っていたからな」
「分かりました、では、付いていきますね」
「なんという奴じゃ、勝手に売って良いものなのか? 私のお気に入りの杖までとはなんという奴じゃ」
「本当ね、まあどんな奴か知らないけど、大人用に作り替えてとか依頼してないならそのまま取り返せそうだけど、ちょっとおかしな奴よね」
本当にそう思います。そして御者をしていた衛兵さんの言う通り、五分も走らない内に速度が緩まり、大きなお店に到着しました。
そしてとりあえずテラとアミーさんを下ろしていると。
「なんだと! そんなはずはない! 私が用意した魔道具で、あのギルドカードが偽物と出たのだ! そいつを取り押さえ、捕まえるのだ!」
ん~と、すんなりとは行かないようですね······。
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