第103話 人攫いの黒幕は
「プシュケ、リント、近くによった時は声を出さないようにね、透明で気配は消していますが声は聞こえるかもですから」
「うん。分かった息も止めるね」
「プシュケそれは死んじゃうにゃよ。息はするのにゃ。静か~にするにゃよ」
そうだよね、リントの言う通りですよ。でもどこに向かってるのでしょうか、馬車はどんどん街の奥へ向かって、人がゆっくり走るくらいの速度で進んで行きます。
そしてその先に見えたのは、白い壁がとても綺麗な大きな建物で、白く高い壁に囲まれ、その門前には、白いローブを着た方達が槍を持って立っています。
「中に入っちゃいそうだよね? よし。馬車の屋根に飛び移るよ。シッ!」
大通りを挟む家の屋根で加速して飛び降り、音を立てないように着地。
(三人の子供ね。空腹みたいだけど怪我とか病気じゃないから良かったわ)
そうなんだ。少しだけ安心できるね、多分人攫いにあった子供達が、集められてる所に行くよね? あれ? 冒険者達はどこに連れて行かれたのかな?
(また、別かも知れないわね。ほら白い壁の中に入るわよ、頭打たないようにね)
言われて気が付きましたが、馬車の屋根と門との隙間は一メートルほどしかなく、立ってると確実にぶつけちゃいますね。
背負子にプシュケがいますからぐっと身をかがめ、腕立て伏せをするようにしてやり過ごします。
壁を抜けるとそこは教会のようですね、真っ白なローブを着た方がちらほら見えています。
馬車は目の前の建物をぐるりと回り込むように進み、裏に合ったもう一つの大きな建物に馬車ごと入りました。
中の気配を探ると地下に沢山の気配がありました。そして最近感じた気配と同じ、ダンジョンの気配の中にです。
テラ、ダンジョンがあって、その中に沢山の人がいますよ。
(そうなの。ちょっと待ってね。んん~。冒険者もいるわ、もちろん子供達も。もしかしたら人攫いの本拠地はここかもね、みんな奴隷の魔道具を付けられているわ)
これは、父さん達に知らせないといけませんね。一度お屋敷に帰らないと――。
(止まったわ。ライ。人攫いにあった人達の居場所を見てからちょっとだけお屋敷に戻って、カヤッツで良いわね、この事を知らせてすぐにここへ戻ってきましょう)
うん。それが良いね。あっ、止まりました。
止まったところは、金属でできた大きな扉です。
「何人だ?」
「冒険者の馬車は今ごろ門で止められているが、いつもの事だ、その内来るだろう。今回は冒険者が五人、子供は三人だ。近頃は検問が多くてやりづらいな、誰かがしくじったのか?」
「まだ分からんが、これだけ大々的にやってるんだ、警戒も厳しくなるのは当然だろう。まあ良い、中で下ろして報酬を受け取って次を攫いに行け」
「へいへい。毎度あり~」
金属の大扉が、ギギギと音を立て開いた後、馬車のまま進み中に入っていったのですが、目の前に広がったのは、広大な花畑で、そこでは沢山の子供達があちらこちらで畑仕事をしているようです。
馬車は花畑を二つに分けるようにまっすぐ引かれた畦道を進み、奥に見えてる家々へ向かっています。
街の中のダンジョンの中に街を作るなんて凄い事を考えましたね。
(作っているものは、麻薬の素材よ。上手く使えば鎮痛剤としても使えるんだけど、おすすめはしないわね。使い続けると体も心もボロボロになるわ。ライは元々効かなさそうだけど、プシュケも今なら効きもしないでしょうね)
そうなの?
(放浪癖の神に色々付与されちゃったからね。あら、ここで引き渡すみたいね)
立ち並ぶ家々の真ん中にある広場で馬車は止まり、御者台にいた二人が降りてきて、一人は向かいの家に、一人は馬車の戸を開けるようです。
ガチャ。と音を立て鍵が開けられ、戸を開きました。
「おら! ガキども降りてこい! さっさとしねえか!」
くぅ。皆さんの場所を確実に把握するまで我慢ですよね!
(ライ。もう――)
カーンカーンカーンとテラが念話で話しかけていたのをさえぎり、半鐘が鳴らされ畑に散らばっていた子供達が一斉に、こちらを見て立ち上がりました。
そしてとぼとぼと力無く歩いて戻ってくるようです。
「なんだよ交代の時間だったか、うるさくて仕方ねえぜ。お前らは次の鐘の音が鳴ってからだが観念して働くんだな。もたもたするんじゃねえ! こっちだ!」
びくびくしながら降りてきた三人の男の子達は、木の棒を持った人攫いに追いたてられ向かいの家に仕方無く歩いて行きます。
(ライ。こうなったらみんなが集まったところで奴隷の魔道具を無力化して、一気にお屋敷に連れていくわよ。中には犯罪奴隷がいるからその人は除いてね。さあ付いていくわよ!)
付いて中に入るとそこは物凄く広い部屋? 部屋じゃないですね。広場にぼろ布を被って寝ていた子供達が起き出すところでした。その数は?
(七百人を少し超えてるわ……これに犯罪奴隷を含む冒険者がダンジョンの奥にいるから、倍はいるわね)
その時です。僕達が入ってきた戸からぞろぞろと畑仕事を終えた子供達が、この広場に入ってきました。
テラ。やっちゃうよ!
(ええ。ここには犯罪奴隷はいないわ! やっちゃえ!)
(やれにゃ! こんにゃの許せないにゃ!)
プシュケも僕の肩をポンポン叩き、急かしているようです。
いきますよ! 奴隷の魔道具を! ぐるぐるー! ほいっと!
魔道具はすぐに機能を失いました。それはこの広場にいた子に付けられていた物だけでなく、外で畑仕事をしていた子のまで全てです。
やーし、子供達をみんなをまとめて――――転移!
パッ
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