第1話 零歳~二歳
病室の……蛍光灯が……眩しいな……。
ピコン……ピコン……
ああ駄目ですよ……まぶたが閉じて。
だんだん眠く……なってきちゃいまし……。
「――! ――――!」
お母さん……何も聞こえないよ。
「――――!」
父さんも……何も聞こえな……。
ピコン……ピコン……ピコンピッー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何もないです。
真っ白ですね······たぶん死んじゃいましたから天国でしょうか?
「来たわね。そう、雷刕君は死んだわ」
そうなのですね。
数日前くらいから指も動かなくなりましたし、目もほとんど見えなくなっていましたから。
でも、七歳までは生きれないと聞いていましたが、十二歳まで生きる事ができました。
何もない真っ白な所に、病室の白いカーテンを体に巻いたような服を着たお姉さんが空中に現れ、話しかけてくれました。
あっ、神様ですか? 綺麗なお姉さんですから女神様ですね。
雷刕です。これからよろしくお願いしますね。
「うふふ。普通は死んじゃうとあわてふためき、叫んだりするものですが、そうですね。口どころか体の動かし方も分からないでしょうから」
はい。天国だと動けますか?
女神様はスーッと歩くでも無く僕の元にやって来ました。
「そうね。異世界に行ってみない? 雷刕君はファンタジー小説をお祖母さんに読んでもらったり、画面に映る小説をよく読んでいたでしょ?」
そんな事が出きるのですか? それは凄く楽しそうです。でも、……また体が弱かったら冒険の旅もできませんね。
「そうね、ユニークスキルを一つ付けようかしら?」
ユニークスキルをですか! それでしたら、病気も怪我もなくずっと健康でいたいです! そして行かせてもらえる異世界を旅して回りたいです!
それから。もし家族ができたなら今度はみんなを笑顔にしたいです。笑ってくれましたけど、どこかツラそうでしたから……。
だから健康な体がいいです!
「ん~。もっと色々良いのがあるわよ? 賢者のスキルなんて魔法が沢山使えるし、剣聖のスキルなら剣を使えば敵無しってくらいなのよ?」
そうですが、風邪とか引くと本当にしんどいですよ? ですから健康が一番です。魔法や剣は頑張って覚えるようにします。
「くふふ。分かったわ、ユニークスキルの『健康』を付けましょう。それから転生です、赤ちゃんからですがそれは……心配無いですね」
はい! 健康があって一番です!
それも問題ないですね、これまでも動けませんでしたから。
「そうよね、今までも動かなかったのですから少しずつ、手や足、体の動かし方を覚えていきなさい。後のスキルは武術や魔法の素質くらいかしら? そんなに付けられないけれど付けても大丈夫そうなのは付けておくわね」
女神様ありがとうございます。
「私は創造神よ、とっても偉い神様なの。それなのにみんな私に仕事をさせてくれないのよ? そんな時たまたま地上を覗いていたらあなたが見えたの。暇だったって言ったらそれまでだけど、あなたの家族たちへの想いが伝わってきたのだから死んじゃった時にここへ魂を引っ張って来ちゃった。それからね――」
どれくらい時間が過ぎたのか、創造神の女神様が僕に色々話しかけてきました。
旦那さんは料理が上手くて悔しいとか、娘が可愛くて仕方がないとか、僕が少しだけ相づちを打つと、またいろんなお話をしてくれました。
「――あっ、馴染んだわね。雷刕君、新しい生を楽しく過ごしてね、今までが可哀想過ぎたもの。じゃあね」
そう言うと、また眠くなって……ありがとう……ございます……いって……きま……す……。
そこで起きてられなくなりました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……これで転生、したのかな? 目は……やっぱりちゃんと見えないや。
体も、うんしょっ! ちょっと動くみたいだけど駄目かぁ。
くふふっ。でも前より全然動く感じです。
神様ありがとうございました。
無事に転生したようです。
おろっ!
持ち上げられたのかな? く、口に何か入って来た! あら勝手にもぐもぐ……これはもしや……こきゅ……こきゅこきゅ。
おっぱい飲んでますよ! 頑張れ僕! しっかり飲んで元気に育つぞ!
よく考えたら記憶がある中で僕は、初おっぱいにお触りしているって事だよね? 生前は彼女どころか友達も居なかったですからね。
それどころかずっと病院でしたから、お爺ちゃんお婆ちゃんは沢山居ましたが、同い年の友達欲しかったなぁ。
こきゅこきゅ。
ああ、眠たくなってきま……した……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ライく~ん、おっぱいでちゅよ~♪」
いただきます。
僕の名前は『ライリール』だそうです。
お母さんとお兄さん達はライって呼んでいるので初めはライが名前だと思っていました。
だって乳母さんが来て、名前を呼んでくれるまで、愛称だなんて思わなかったのは僕のせいじゃないですよね。
おっと、おっぱいが口から離れたら泣いてしまいました。
それに『雷刕』が生前の名前だったので、ライまたはライリール、この響きは馴染む感じがします。
良い名前をありがとうございます。これからは家族のみんなに笑顔になってもらえるように頑張るからね。
でもこの名前、違和感なくて良かったです。
もし『アレキサンダー』とか、『ジークフリート』とかだと違和感が半端なくあったと思います。
それから意識がハッキリして初めにやったのはステータスの確認です。
したかった。
……そう、したかったのに、僕が転生したこの世界はステータス画面を見る事が出来ないようです。残念。
そして三日が過ぎたのですが……暇ですよ! 神様! 出きることって手をにぎにぎと、足をたまにピンって伸ばすくらいですよ!
はぁ~、どうしてかなぁ、ステータス見たいのに、ファンタジー小説で読んだ『ステータス画面』みたいなの出ないかなぁ。
これではやる気も起きませんよ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
はっ! この体は赤ちゃんなので直ぐに眠ってしまいますね。
でも魔法を使いたいですよね! そう思うよね! でも部屋の中だからぁ、風かな、でもどうやるんだろ、大体こう言うのはイメージで解決してたよね。
ファンタジー小説でだけど。
風、病室の窓はあまり開けて貰えなかったから、ん~、扇風機のイメージでやってみましょう。
ん~、回す感じかな、ぐるぐるっと、上手く行かないですね。
やる前から分かっていましたが、すぐには無理だよね、地道にぐるぐる回すイメージをしましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
転生してから早くも三か月が過ぎてしまった。
進展はほとんど無いんだけど、ぐるぐる続けています。
時間があればずっとぐるぐるしてます。
それこそ、おっぱいの時間も。
地道な努力の結果、最近コツが分かってきて、少し風が吹いてくれるように! なった気がするのですよ、むふふ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さらに三か月が過ぎて、今はもうぐるぐるマスターです。
なんと、魔力が見えるようになり、風を吹かせるだけではなく、体の中の魔力もぐるぐるできる事に気が付いてからは、魔力の上限が上がっている様に感じます。
最初はぐるぐるするとすぐに寝ちゃっていたのに、少しずつ長くぐるぐる出来るようになってきましたから……増えてますよね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暑くなり窓を開けてくれる日が多くなったので、窓の外にある木に向かって、なんちゃってウインドアロー、改め、ウインドニードルを撃ちまくっています。
ふわふわ~と飛んで行き、微かに揺れる葉を見て、泣きました……興奮のし過ぎですね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一年経ってしまいました。
僕は屋敷の中を歩きまわり、まだまだ頭が重くて、よくコロンっと転がっていますが、行動範囲も広くなり、今ハマっているのは厨房です。
何をしに来ているかと言うと、釜の火をぐるぐるしに来ています。
魔法と言えばやっぱり火魔法でしょう! 風はある程度ですけれど、メイド長であるマリーアさんと他のメイドさんのスカートは、もうちょっとでめくれる! って所までは威力も上がってきました。
マリーアさんだけタイトなスカートなので一番の強敵ですが。
あっ、今は火魔法でした。
料理人さんが忙しく動きまわる厨房の小さな窯の前を陣取って、火をぐるぐるしていると、声をかけてくれたのは、この厨房で料理長をしてくれているマシューさんです。
料理はもちろんとても美味しいです。
いつもありがとうございます。
そのマシューさんが僕の横にしゃがみこみ、こっそりお菓子をくれました。
今日はラスクの様ですね、カリカリなので口の中で少し柔らかくして美味しくいただきました。
あっ、もう一つ頂けるのですねありがとうございます、頂きます。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二年の月日が経ち、早くも二歳である。
むふふ、最近は庭に出ることが許されて土いじりにハマっているのですよ。
そう今も外に出て、土魔法を覚えようと暇があれば土いじり。
それに食事に出てきた果物の種を植えたりもしていますが、いまだに芽が出ないのが残念です。
お兄さん達とも遊ぶ事もあって、土魔法は中々物には出来ていません。
その代わり剣術を覚えました。
使っているのは木の棒ですが何か?
「ライ! また泥だらけじゃないか」
「本当に、ライは土いじりが好きだよね」
「アース兄しゃん、シー兄しゃん」
長男のシーリール・アインス・サーバル。
次男の、アースリール・ツヴァイ・サーバル。
僕のお兄さん達です。
二人は双子で今年九歳。
お母さん似の金髪でブルーの瞳、将来は女泣かせにになるだろうなと思わせるくらい整ったお顔をお持ちです。
ペアでアイドルとかすれば、大人気間違いなしだと僕は思う、プロデュースしちゃいましょうかね。
「ライしゃま、わたくちも、ちゅちあしょびまじぇてくだしゃい」
お兄さん達と一緒に来たこの子は、乳母をしてくれているカリーアさんの子供で、なんと僕と同い年の女の子です。
名前はフィーア、薄い銀色の髪の毛は、光が当たるとプラチナの様にキラキラ輝き、どこのお姫様ですか! と僕は思っている。
大きな赤い瞳も、なんだか幻想的でいつもじっと見てしまうほどなのだ。
「うん。フィーアいっちょにあしょぼ♪ 兄しゃんたちは? いっちょにあしょぶ?」
兄さん達は、僕やフィーアの言葉の解読はリアルタイムで出来るので、返事も早い。
使用人の人達はまだ完璧ではないので、少し時間がかかってしまいますが仕方がないですね。
後一年くらいでなんとか頑張ります。
土遊びに兄さん達を誘ったのですが、困った顔をしちゃいました。
「一緒に遊びたいのは山々だけど、これから勉強なんだ」
「十歳で学校に行かないといけないから仕方無いよね」
この世界の貴族は十から十五歳まで、武術・魔法学校に通うことになるそうで、そこで優秀な成績を修めると、さらに上級学校または、王都にある学院に十八歳まで通うそうです。
まあ、男爵家三男はまず学校は行かないそうですが、僕としては冒険者に憧れるので、バッチコイなのですよ。
それで、兄さん達は来年から学校に通うため算数や文字の勉強、それに魔法と剣術を習っているのですよ。
それなら仕方無いよね。
ちなみに算数は四則演算の三桁以上が出来れば学院でトップクラスと言われているので、流石に行く気になれませんでした……僕は計算は前世でお祖母さんがやっているのを見て覚えちゃいましたから。
おっと、返事をしませんとね。
「しょっかぁ、じゃんねん」
僕も残念ですが、兄さん達も僕以上に残念そうに肩をすくめています。
「フィーアと楽しんでね」
「魔法の先生に怒られちゃうから行くね」
「うん」
「シーしゃま、アースしゃま、おきゅってくりぇて、ありがちょうごじゃいましゅ」
兄さん達は結構ギリギリだったのか、緑の芝を同時に蹴って駆けて行き、家の中に入ってしまいました。
見送った後は、フィーアにもぐるぐるを教えながら土いじりを再開しましょう。
お読み頂きありがとうございます。
これからも応援してもらえると嬉しいです。