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「どうして、信じてくれるの?」





「ジスレニス、此処を自分の家だと思ってくれていいからね」


 穏やかに微笑んでいる公爵夫人がジスレニスの目の前にいる。



 赤みがかった茶色の髪と瞳を持つ、優し気な女性。その姿はバトアンにそっくりだ。それもそのはずだろう。目の前の女性は、バトアンの母親である。



 ジスレニスは、今、シェーガリン公爵家に連れてこられていた。

 


(どうして、こんなことになったんだっけ)




 そしてジスレニスは、あの日、バトアンに連れられた後のことを思い出す。












 *



「父上!」



 バトアンは、シャロンティア伯爵夫人と話している自らの父親の元にやってきた。

 その手にはジスレニスを連れている。



「バトアン、どうしたんだ? ジスレニスのことも連れてきて。まさか、人見知りをする子を無理やり連れてきたんじゃないだろうな?」

「そういうわけじゃない! 俺はジスレニスと仲良くなったんだ」



 急にそんなことを言い出すバトアンに、ジスレニスは何を言いだすのだろうかと思った。だけど目があったバトアンに、「話を合わせろ」と訴えかけられ頷く。




「だから、ジスレニスを屋敷に招待したいと思うんだ。いいですか?」



 告げられた言葉に、ジスレニスは驚く。


 バトアンは、やんちゃな少年でも、公爵家の子息である。頭が悪いわけでは決してない。だからこそ、ジスレニスが自分のことを伯爵が信じてくれないと言った言葉から色んなことを思考した。

 普通ならば、屋敷の主の娘であるジスレニスが訴えれば、それは信じられるはずだ。

 それなのに、その普通がまかり通らないということは毒を盛っている相手がこの屋敷の中でも権力を持っている相手ということ。



(俺は子供だし、難しいことは分からない。だからこそ、助けを求めるなら父上にだ。でもこの屋敷の中では、こいつはきっと父上に助けを求められない)



 ジスレニスの諦めたような瞳に、表情に、バトアンはそう感じたからこそ屋敷に連れて帰ることを考えた。

 自分には毒を盛られていると言ったジスレニスのことを直接的に助ける手段はないけれども、自分の尊敬する父親ならばどうにかできるはずだと思ったから。



 公爵は突然の申し出に驚いたものの、息子が突然そういうことを言いだすのには理由があるだろうと思ったので頷く。




「どうだろう、夫人。ジスレニスを公爵邸に招いてもいいだろうか?」


 その言葉に一瞬だけシャロンティア夫人は、表情を変えそうになる。だけれども笑みを張り付けて、


「……もちろんですわ。ジスレニスは大人しい子で、友人がいませんもの。同年代の子と仲良くできることは喜ばしいことですわ」



 と告げるのであった。



 ジスレニスは、周りと付き合わせないようにしていたのは継母じゃないかと思いながらも、久しぶりの外に胸を高鳴らせた。


 両親が揃っていた頃に外に出かけたことはあったが、母親が亡くなり、父親が家に中々帰ってこなくなってからは屋敷の中で完結した暮らしをジスレニスはしていた。だからこそ、単純に外に出れることも嬉しかった。




 そしてそのまま、ジスレニスは侍女を二人ほど連れてシェーガリン公爵家へと招待された。

 そのまま行くことになったのは、バトアンが強行したからである。





「それで、バトアン。どうしてこんなに急にジスレニスを連れて行こうと思ったんだい? なにか理由があるんだろう?」



 馬車の中。

 そこには公爵と、バトアンと、そしてジスレニスしかいない。

 侍女達は後続の馬車でついてきている。



 バトアンはジスレニスを見る。

 ジスレニスは、困ったような表情を浮かべる。


 ジスレニスには、バトアンがどうして当然そんなことを言い出したのか分からない。そして何を言い出そうとしているのかもわからない。




「……父上、ちょっとこれ鑑定できますか」

「あ、それは……」



 バトアンは話しだす気がないジスレニスに諦めたような顔をして、ポケットから何かを取り出す。それはジスレニスが食べていた猛毒入りのおやつである。



(鑑定……?)


 そう、ジスレニスが疑問を抱いてる中で、そのおやつをじっと見ていた公爵は急に恐ろしい顔をする。




「バトアン……! そのような危ないものを何処で手に入れたんだ」

「……やっぱり父上の目から見ても危ないものなんですね」

「当たり前だろう。猛毒だぞ。それをこちらに渡しなさい」

「父上、これはジスレニスの食べていたおやつです」



 バトアンの言葉に、公爵は目を見開いて次にジスレニスに詰め寄るように言う。



「これを食べた!? ジスレニス、身体の調子は? 今すぐ医者を――」

「え、いえ、大丈夫です!! 公爵様、私はこのおやつを散々食べてますが、今のところ、不調はないです! 多分、私、毒が効かない体質だと思います!」



 今にも馬車から飛び出しそうな公爵に、思わずジスレニスがそう言う。



 公爵は冷静な性格をしているのか、その言葉を聞いて一瞬黙る。そして次に告げたのはこんな言葉である。



「ジスレニス、すまないが、君を鑑定してもいいか?」

「鑑定って、公爵様は鑑定というものが出来るのですか?」

「ああ。そうだ。周りには隠しているが、私はあらゆるものを鑑定することが出来る」



 勝手に鑑定することも出来ただろうに、断りをいれてくれた公爵にジスレニスは頷いた。





「『毒無効化』と『毒食』? 何だか毒に特化したスキルを持っているのだな。でもそのおかげでジスレニスは無事だったのか」

「はい。ところで、このおやつ食べていいですか?」

「『毒無効化』があろうとも、そんなものは食べなくていいんだぞ?」

「いえ、私、毒の味、好きなんです」


 そう言ったジスレニスに、公爵は「は?」という顔をしたものの、「いや、これは証拠だから駄目だ」と告げるのだった。ジスレニスはしゅんとした顔をした。


「こほんっ、ところで……ジスレニスはいつから毒を?」

「少なくとも二年前からは毒を盛られてます」

「どうして毒だと分かったんだい?」

「えっと……頭おかしいって思われるかもですけど、前世の記憶があるからですね」


 そう言ってジスレニスが素直に前世のことを公爵とバトアンに語ったのは、何だか今の現状が夢のようだったから。そして公爵とバトアンが本気でジスレニスを心配してくれていることが分かったから。――鑑定というスキルを持っているからこそ、公爵がジスレニスの言ったことを本当だと信じてくれたから。



「なるほど……」

「信じてくれるんですか?」

「ああ。もちろんだとも。前世の記憶持ちというのはそれなりにいるものだ」

「そうなんですか?」

「ああ。それにしてもジスレニスは前世から毒を好きだったんだな……」

「はい!!」



 前世からの毒好きという話を聞いて、公爵もバトアンも呆れた様子だった。




「ジスレニス、君が毒を盛られていることを言わなかったのは何でだい?」

「……信じてもらえないって思ったからです。毒を盛られていても私は元気だし。何でか、バトアン様は私のことを信じてくれたけど、普通、子供の戯言だって思うって」

「それだけではないだろう? 誰に毒を盛られていると思っているんだい?」


 公爵に見つめられて、つい口を閉ざしてしまったジスレニス。

 そこで口を開いたのはバトアンである。



「あの、伯爵夫人だと思うけど」

「なっ、シャロンティア伯爵夫人? どうしてバトアンはそう思うんだ?」

「いや、だって普通に考えてあの屋敷の中で真っ先に容疑者に上がるのあの夫人だろう。それに俺がジスレニスを屋敷に連れていきたいって言った時に、ちょっと変だった」


 子供の目だからこそ見えるものというのがあるのか、バトアンはそう言い切った。

 そんなバトアンの言葉に、ジスレニスも意を決して口を開く。



「私も……ユヤお母様がやっているって思います」


 公爵はそれを聞いても少しだけ信じられないような表情をする。

 ジスレニスはやっぱり、私の言葉よりも継母が信じられるのだろうかと少しだけ絶望的な気持ちになる。



「そんな……シャロンティア伯爵夫人がそんなことをするようには――」

「父上。ジスレニスはそう言われると思ったからこそ、今まで誰にも相談できなかったんだと思うよ。だから父上がそうじゃないって思っていても、ジスレニスの前でそれを否定するのはやめろよ。話そうって決意して話したことをすぐに否定されたら誰だってショックを受けるだろ」

「そうだな。……すまない。ジスレニス。私が責任をもって、君に毒を盛ったものについて調べさせてもらう」




 ジスレニスは、公爵がそう言ってくれた言葉にほっとした。それと同時に、どうしてバトアンが庇ってくれるような言葉を口にしたのだろうって不思議に思った。





 公爵邸にたどり着いてから、突然の訪問者になったにもかかわらず公爵邸の使用人たちはジスレニスのことを快く受け入れた。




「ねぇ、どうしてバトアン様は……」

「ん? なんだよ」



 今、部屋にはジスレニスとバトアンの二人しかいない。子供同士で遊んでいなさいと言われて、二人きりだ。




「どうして、信じてくれるの?」


 ジスレニスは不思議な気持ちだった。



「ユヤお母様は世間的に見てとても優しい人で、皆から好かれていて……公爵様もそう思うぐらいなのに」

「だって、諦めたような顔してただろう」



 バトアンはそんなことを言う。そして続けた。



「俺と同じ年ぐらいなのに、あんなふうに諦めて笑ってるやつが嘘をついているように見えなかったから。それに毒を盛られていることを知らしめさせたいなら俺があのままおやつを食べるのを黙ってみてたらよかったのに。そしたら俺が倒れて、毒が盛られたことが分かっただろうに」

「いや、だって、それは……」

「そもそもさっきの前世の話も、信じてもらえるか不安だって言うなら話さないって選択肢も出来ただろう。だけどちゃんと話していた。俺が毒に倒れて、そこで毒が効かないって発覚とかでもよかっただろうに、そっちの方がやりやすかっただろうに、それをしなかった。それで俺に秘密にするように言って、一人で戦おうとした奴が、嘘なんてつかないって思ったんだよ」





 そんなことを言われて。

 信じているって。

 嘘なんかつかないって。



 ――そう言われて、ジスレニスは思わず泣いてしまった。



「な、なんで泣くんだよ!!」

「嬉しかっただけ。ありがとう。バトアン様」



 そしてジスレニスは、バトアンに向かって小さく笑った。

 お礼を言われてバトアンは「礼なんていらねーよ」といって照れたようにそっぽをむくのだった。








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