「毒の味、癖になる」
4/29 二話目
「美味しかったわ」
「それは良かったです」
ジスレニスは食事に毒を混入されていること、そして前世の記憶を思い出したことで混乱したものの、そのまま食事を食べきった。
そして侍女のことを下がらせ、鏡の前に立つ。
水色の艶のある髪。
青色のサファイアのような瞳。
それを見ながら少しだけジスレニスは不思議な気持ちだった。
ジスレニスは前世の記憶を思い出した。とはいえ、思い出しただけでジスレニスはジスレニスである。
そのジスレニスの前世は、黒髪黒目の日本人だった。
前世でも散々驚くようなことはあったが、まさか死んだ後に転生というものをするとはジスレニスも思っていなかった。
前世のジスレニスの名前は、鵜沢温子。
普通のどこにでもいる社会人だったが、ある時異世界に落ちたという経歴を持つ。その異世界はどうやら、今ジスレニスがいる世界とも違うらしい。ジスレニスは異世界がある事は知っていても自分が新しい世界に行くことになるとは思っていなかったので、その事実に驚いている。
さて、温子が転移した世界では転移者というものが非常に多かった。そして転移者は一つ能力を授かるといった何とも不思議な世界だった。
その世界の研究者がいうには、地球からその世界に渡る時に魔力を注入され、何らかの力を発するのではないかとか言っていた。ちなみに信仰深いものは「神の思し召し」としか思っていないようだ。
そしてその時に温子が手に入れた能力が、『毒耐性』だった。
他の転移者たちはもっとかっこいいそれっぽいものを持っているのに、『毒耐性』かぁと思ったものの、折角授かった能力だから――と、毒を食べてみることにした。
『毒耐性』とはその名前の通りに、毒の耐性があるということ。ちなみに後から知ったが、こういう能力にはレベルのようなものがあり、毒を食べれば食べるほど耐性がつくと言ったものだった。
それで、毒を食べた温子が言ったのがこれである。
「毒の味、癖になる」
ちなみに一緒に居た知人たちは、温子のその発言に引いていた。
毒はそれだけ体に害のあるものである。でも温子は耐性があるからこそ毒を食べる事が出来たし、そもそも食べれば食べるほどその耐性が上がることが分かったので、どんどん食べることにした。
最初は倒れてしまったり、不調が出たりした毒も食べ続ければ平然と食べられるようになる。
まるで毒ジャンキーとも言えるほどに、温子は毒を食べまくっていた。新種の毒があれば駆けつけ食べる。毒沼もちゃんとろ過して、汚い部分を排除して毒を食らう。毒の持つ生物を食べつくすことを目的にしていた毒ハンター。それが温子であった。
大分、周りのものたちは引いていたが、そんなのなんのそのな様子で毒を食らいまくっていた。
そしてその結果、ある時――、
「あ、やばっ」
温子は口に含む毒を見誤った。
幾ら毒の耐性があろうとも、毒に対して万能なわけではない。あくまで耐性があるだけなので、その耐性以上の毒を食べることは出来ない。
美味しいーっとついつい猛毒を食べ過ぎた温子。
このピリッとした感覚と、のどがやけるような熱さが癖になるのよねぇなんて思いながらも、毒を食らって温子は死んだ。
享年、四十歳。
そしてその後、シャロンティア伯爵家の令嬢として生まれ変わったようである。
(我ながら不思議な人生。それにしても前世では毒を食べて食べて食べまくって、今世では毒を盛られるなんて、毒まみれの人生だわ! だって今の私ってもうすぐ六歳になるぐらいなのに。そんな私に毒を盛るって中々の鬼畜かも……まぁ、美味しいからいいけど)
そう考えた後、ジスレニスははっとした。
どうして毒を食べても平気なのだろうかと。先ほどジスレニスが知っている味だと思った毒は中々の猛毒である。徐々に体を弱らせ、効果は遅いものの、これだけジスレニスが元気なのはおかしい。少なくとも、少しは影響があるはずである。
(まさか、今の身体にも毒耐性がある? いえ、毒耐性だったならばもっと影響があるはず。だってこのジスレニスの身体で毒を食べたのは初めてだもの。それでもこれだけ影響がなくて毒を美味しいって感じられたってことはもっと強い何か?)
そんなことを考えながらジスレニスは鏡の前でくるっと一回転する。
そしてはっとなったように目を輝かせる。
(まさか、夢の毒無効化的な!?)
ジスレニス、テンションが上がった。
(毒無効化だったら、これだけ何も身体の不調を感じないのは納得できるわ。確かこの世界にもそういう体質の人とか、スキル的なの持っている人もいるって聞いたことあるもの。だったら――今世は夢の毒食べ放題!?)
ジスレニス、嬉しそうに笑みを浮かべる。
毒を盛られて、毒を食べ放題で喜ぶのなんて彼女ぐらいだろう。幾らそういう体質やスキルだったとしても普通進んで食べようとは思わない。
しかし彼女は前世から毒を好物としていた変わり者である。
そういうわけで、
(ん~美味しい!!)
その日以降も盛られている毒を、ジスレニスは幸せそうに食べるのであった。