「誰かに盛るぐらいなら自分で食べるわ」
ジスレニスとバトアンの学園生活は、とても充実したものである。
友人たちと楽しく過ごしながら、沢山の学びを経験している。特にジスレニスは植物園の世話に勤しみ、美味しそうに毒草をバクバク食べている。
バトアンも友人を作ったりしながら、楽しく学園生活を過ごしている。
「ジスレニス、週末に毒草探しに行くって聞いたんだが」
「うん。行くよ。あのね、美味しい毒草が生えている山を教えてもらったの!!」
「……魔物いるところだから、俺も一緒に行くからな」
「護衛もいるから、大丈夫だよ?」
「いや、普通に魔物もいて、毒のある動植物が多いエリアとか危険だろ。それに俺もジスレニスと一緒に過ごしたいし」
「ふふ、ありがとう。今度、バトアンの行きたいところに付き合うね!」
今日も今日とて、ジスレニスとバトアンは仲よさそうに会話を交わしている。
穏やかな時間を過ごしていると、急にバタバタと騒がしくなった。
「ジスレニス!! 助けてくれ!」
急にその場に飛び込んできたのは、インエルである。青ざめた顔をしているインエルに、ジスレニスとバトアンもただ事ではないことが起きたのだろう表情を険しくする。
「どうしたの?」
「ユッテミアが毒を盛られた!!」
その言葉を聞いて、ジスレニスはすぐに立ち上がる。
そしてインエルに案内されるがままに、そちらに向かう。そうすれば倒れたユッテミアがいる。
その周りには沢山の生徒たちがいる。どうやら学園内でお茶会を開いていたらしい。ユッテミアはインエルの恋人なので、周りとの交流を深めようとしているらしい。ちなみにユッテミアには兄がおり、そちらが伯爵家を継ぐので、仮に二人が結婚した場合はインエルは兄のことを補助する役割で王弟として仕事をすることになるだろう。
さて、そういうわけで結婚するとして二人とも王都にいることになる。その場合、周りの子息子女たちと交流を深めていたほうがいい。なので、必死に交流を深めている様子だ。
ちなみにジスレニスはそう言う風な交流を深めることを積極的には行っていない。
ジスレニスは倒れているユッテミアに近づくと、すぐに手を取り『毒食』のスキルを行使する。そしてすぐにユッテミアの身体の中の毒を取り除いた。
「ふぅ、これで大丈夫よ」
「ありがとう!! ジスレニス!!」
ジスレニスの言葉を聞いて、インエルがほっとしたような顔をする。インエルも毒というものがどれだけ危険なものなのか王族として把握しているので、ジスレニスがすぐに『毒食』スキルで対応してくれたのでほっとしている様子である。
周りの人たちは、ジスレニスがそう言う風に『毒食』スキルで解毒のようなものが出来ることを知らなかったようでざわめいている。
一旦、ユッテミアは医務室に連れていかれることになった。
そうして三人でほっとしている中で、声をあげる女性がいる。
「彼女に毒が盛られるなんて『毒食令嬢』であるジスレニス・シャロンティアの仕業だわ!!」
……そんなことを言っているのは、マーデダである。
ジスレニスはそんなことを言われて面倒だなと思った。
そもそもジスレニスにはインエルの恋人に対してそういう風に毒を盛る必要は全くないわけなのだが。
「マーデダ様、どうして私がそんなことをしたと思われるのですか?」
「だって貴方は『毒食令嬢』だもの。日ごろから毒ばかり食べている貴方なら毒を仕込むなんて簡単でしょう。貴方はインエル様の恋人になった彼女に嫉妬したのよ」
「なんで? 私とインエルは友達よ。それなのに友達の恋人に毒なんて入れるわけないでしょ」
「だからこそよ。インエル様に一番近いのは貴方だったから、それが気に食わなかったのでしょう? 『毒食令嬢』ならその位するでしょう」
マーデダは、ジスレニスが毒を盛っているというのをまわりに認めさせたいようだ。ジスレニスはマーデダが毒を盛ったのではないかと思った。
マーデダにとっては、『毒食令嬢』が『毒食』スキルで毒を解毒出来たことは予想外のことだっただろう。あのままユッテミアが死んでもマーデダにとっては、インエルの恋人がいなくなると言う嬉しい機会でしかないのだろうと思う。
だからこそ、こういう状況でも笑っている。
ユッテミアに毒が盛られても笑っている段階で、中々良い性格をしているというか、そんな態度ではユッテミアが居なくなったとしてもその後釜におさまることは出来ないだろう。
だけれどもマーデダは今もなお、自分本位な考え方でインエルのことを諦めていない。
「マーデダ様は『毒食令嬢』の意味をはき違えておりますね。『毒食令嬢』とはすなわち、毒を食べるものです。毒を食べることを食事として楽しんでいるのが私ですよ? なので、誰かに盛るぐらいなら自分で食べるわ」
「なっ……そんなことでごまかさないでくださいませ」
「ごまかしてなんてないですわ。ところで、毒が入っていたのはどれですか?」
そう言って、ジスレニスはその毒が入っていたと思わしき飲み物を飲む。
その毒が入っている飲み物を躊躇いもせずに飲む様子に周りは若干ドン引きしている。
「はぁ、美味しい。これってあれよね。猛毒。飲んでしばらくしてから効果が出るものね。というか、これ、この国に生えてない奴じゃない。こんなところでお目にかかれるなんてっ!! 美味しい!! やばいわ。これ、盛った人からどういう経由で手に入れたかが知りたい。うまっ」
「ジスレニス。毒の感想はそれぐらいにしろよ。ユンクレイ、ジスレニスは毒を人に盛ったりはしない。そうやってジスレニスのせいにしているお前の方が怪しい」
毒の感想を言い始めたジスレニスをバトアンは止めてから、マーデダのことを睨んだ。
マーデダは「私はそんなことはしないですわ」などと自信満々に言いながら、なおもジスレニスのせいにしようとする。
ただしインエルたちはジスレニスが毒を盛ったなんて間違っても思っていない。
なのでその場がお開きになった後、毒のスペシャリストであるジスレニスの協力の元、色々捜査も進められた。
その結果、案の定というか、マーデダが毒を盛っていることが発覚するのであった。
マーデダは往生際が悪く認めなかったが、それでも証拠が出てきたため、修道院に入れられることになった。




