「学園生活って、楽しい」
「はぁ、美味しい」
「ジスレニス、庭師が引いてるぞ」
「だって美味しいもん」
さて、ジスレニスは十五歳になり、現在、王侯貴族の通う学園に通っている。
一つ上のバトアンは今、二年生である。学園に入学したジスレニスは、それなりに友達も出来、充実した日々を送っている。
もちろんと言っていいのか、相変わらず毒食の趣味を隠さないジスレニスは『毒食令嬢』として有名である。そして一部では当然のように蛇蝎のごとく嫌われている。
その筆頭が友人であるインエルの婚約者であるマーデダなので、ジスレニスは少し面倒だなと思っている。
マーデダは大きくなっても相変わらずの様子である。表面上は心優しい令嬢と噂だが、裏ではそれなりに虐めのようなものもしているらしい。ジスレニスも見かけたときは止めているが、裏でやっていることまでは分からない。
なかなかやらかしているものの、婚約は継続されている。
人に嫌われていようとも特に気にせずに我が道を行くのが、ジスレニスである。
ジスレニスは入学後、学園内にある植物園の世話係に自分で立候補した。ちなみに本来ならその世話係をすることで報酬をもらえたりする――所謂ちょっとしたアルバイトのようなものなのだが、ジスレニスは「お金とか要らないので、食べさせてください」と言い張って、食べさせてもらっている。
食べると身体の痺れが出るものや、所謂人を食べるような危険な食人植物までをも食べている。その姿があまりにも不気味なのか、庭師には結構ひかれている。しかし本人は全く気にしていない。
中々手に入らない希少な植物に関しては一か月分の給与の代わりにそれを食べたりもしている。ちゃんと食べ過ぎないように庭師の監視の元行っている。
「だって学園に入学したら毒って中々食べられないのかなって思っていたけれども、こうやって食べられるなんて本当に最高よね」
「そんなことを言うのはジスレニスぐらいだろうな」
ジスレニスは見た目だけなら本当にかわいらしい大人しい令嬢に育った。
綺麗な水色の髪を、腰まで伸ばしている。そしてその綺麗な黄色い瞳はまん丸としていて愛らしい。真っ白な肌に、細い腕。かわいらしい見た目なのに、その手には毒を持つ植物。
「ふふ、こんな私が好きなんでしょ?」
「ああ。そういうジスレニスが好きだ」
「バトアンも素直に言うようになったよねぇ。照れてるバトアンもよかったんだけどなぁ。でもちゃんと本気で言っているのわかるから、私も好きー!」
近くにいた庭師がいちゃつくなとでもいうような冷たい目を浮かべている。ちなみにこの庭師、まだ三十代程度で未婚である。よくここでジスレニスとバトアンが仲良くしているので、何だか羨ましい気持ちでいっぱいである。
余談だが、この庭師、この後婚活を頑張って無事に結婚する。
「はいはい。俺はジスレニスが学園で楽しそうで安心した」
「バトアンは私が学園でもっと浮くかもって心配していたものね」
「まぁ、ジスレニスだからなぁ」
「バトアンのこと好きな令嬢とかに突っかかられたりするけど、私負けないよ!」
「俺もジスレニスの見た目に惹かれて色々言ってくる子息いたなぁ」
「私が毒食べてたらまた逃げたけどね」
バトアンもジスレニスも見た目が良いので二人ともそれなりに騒がれている。だけれどもジスレニスに関しては幾ら見た目が良くても、毒食の趣味から敬遠されている。
「まぁ、幾ら逃げられても気にしないけれど!」
「ははっ、本当に前向きだな」
「私はバトアンと、あと友人達がいればそれでいいもん。あー。学園生活って、楽しい」
ジスレニスは、自分のことを分かってくれる人だけがいればいいとそう思っている。自分のことを分かってくれていないその他大勢に囲まれるよりも、自分の事を分かってくれる人たちと親しくなれた方が嬉しいのだ。
広く浅くよりも、狭く深くな関係の方がジスレニスは前世から好きだった。
「俺もそうだな。ジスレニスが入学してくれたし、学園生活がより一層楽しくなった」
「それは良かった! でもバトアンとは学年が一年違うから残念よね。一緒の年だったら入学から卒業まで一緒だったのに」
「でもあと二年は一緒に学園生活過ごせるだろ。先に卒業した後は、結婚式の準備を進めとくから」
「うん!」
この二人、ジスレニスが無事に卒業した後は結婚式を挙げる予定がもう決まっている。
ジスレニスの家族も、バトアンの家族も二人が仲よくしているのを見て嬉しそうにしているのだ。
ジスレニスの父親は前の継母の一件があって以来、より一層ジスレニスを可愛がっている。なのでジスレニスが嫁ぐのは寂しいと思っているようだが、ジスレニスが幸せそうなので反対などは出来ないようだ。
ただ今から「結婚しても時々かえってくるように」と何度も言ってくるので、実際の結婚式のときは大泣きしているのかもしれない。




