「正直、仲良くなれないなぁ」
「わたくしはマーデダ・ユンクライですわ」
そう言って目の前で偉そうにふんぞり返っている少女。
銀髪銀目の気の強そうな少女は、第二王子であるインエルの婚約者に収まった公爵令嬢である。
表面上はジスレニスに笑いかけているが、内心ではジスレニスの事を疎んでいるのがにじみ出ていて、ジスレニスはうわぁと思っていた。
何故、彼女がインエルの婚約者に選ばれたかといえばその家柄などからである。あとは彼女自身がインエルに惚れているからというのもあるらしい。インエルへの恋心があるのならばこれから頑張ってくれるだろうという期待も込めてとのことだった。
ただジスレニスは正直言ってあんまり仲良く出来なさそうと思っていた。
バトアンに関しては同じ公爵家の者ということで、それなりに敬意をもって接しているが、ジスレニスのことは伯爵令嬢で加えて『毒食令嬢』だからとあんまり話しかけもしない。
ちなみにインエルは王子だけれども、そこそこ考えなしな部分があるからかそういう裏の面には気づいていないようだ。
(何だかインエルっていつか誰かに騙されそう……)
などとすっかり第二王子と友人になっていたジスレニスは少しだけ心配になった。
第一王子から話を聞いたところ、敢えてそういう子を婚約者にしたというのもあるらしい。このままマーデダが性格を改善すればいいし、改善しなかったらその時はその時で婚約解消する未来もあるかもしれないとのことである。
(改善するかなぁ。まぁ、してもしなくてもどっちでもいいか)
あくまでジスレニスは、インエルと友人なだけであり、マーデダと仲よくしなくてもいいかなぁと思っていた。
表面上はもちろん、仲よくしているが、実際はそうではないのであった。
「バトアンは、マーデダ様のことをどう思う?」
「裏表激しいなって。まぁ、貴族としてはいいんじゃないか?」
「まぁ、そうよね。貴族らしい方だと思うわ。私の『毒食』の趣味を受け入れてくれるのならば、まだ仲良くできたかもしれないのに」
シャロンティア伯爵家の屋敷で二人は会話を交わす。
性格に関しては、貴族らしい貴族。
自分自身に対する自信に満ち溢れている人だ。人としては嫌いなわけではないが、自分の『毒食』の趣味を受け入れず、見下されると仲良くは出来ない。
せめて毒食の趣味を受け入れてくれる人だったら仲良くできたのになぁとジスレニスは思っていた。
「ジスレニスは仲よくしたくない相手とは仲よくしなくてもいいよ。幸い、俺の家は公爵家だし、よっぽどかしこまる相手はいないし。まぁ、最低限はちゃんとしなければならないけれど」
「ふふ、ありがとう。でも私も結婚したら公爵夫人だし、最低限は頑張るよ! でも毒食の趣味は、何時までも続ける予定だけど。まあ、表面上は仲良く振る舞うことは出来るかもだけど、マーデダ様が今のままだったら正直、仲良くなれないなぁ」
「ジスレニスが話しかけても滅茶苦茶冷たかったもんな。インエルは全然気づいてなかったけれど」
「あの鈍さ、ヤバいと思うわ。というか、王族なのにあれで大丈夫なのかしら……。前も毒が入っているっていうのに食べるし」
「でもあれ以来、ジスレニスが毒入りっていったのは流石に食べなくなったよな」
「うん。それは良いことだけど……なんか、王族って大変なんだなって思ったわ。遊びに行った時、報酬もらって毒見もさせてもらっているけれど結構毒含まれているし」
「まぁ、王族は敵も多いからなぁ。俺の家はジスレニスが婚約者になってから何か盛られることほぼなくなったって父上が言ってたけど」
ジスレニスは王宮に向かった際に、毒見役をしている。本人としてみれば毒が含まれていたら食べたいと思っているだけなのだが、ちゃんと報酬ももらっている。その中で結構王族は身体に悪いものを盛られやすいということが分かった。
やっぱり王家を混乱させて我こそが王位になどと思っている勢力とか、この国を混乱させてしまおうなどと思っていたりする他国の者もいるということである。
ジスレニスは王族って大変だなと思ってならない。
「それは良かった。私はどんどん盛ってくれていいけどね。食べたいし」
「ははっ、そうやって喜ばせるだけだってわかっているから毒を盛らなくなったんだろうな」
貴族であればそういう風なものを盛られることも時々あったりする。ちなみに後は多いのは媚薬系である。そういうものを盛って、既成事実を作ろうとするものも多い。
媚薬もジスレニスのスキルでは毒認定なので、ジスレニスには効かない。そういう部分はバトアンは良い事だと思っている。
「バトアンも、私がいないところで何か盛られないように気を付けてね」
「ああ。俺も一応耐性はつけようと色々対策はしているからな。まぁ……その対策をかいくぐって盛る連中がいるからアレなんだが」
「本当よね。そういうものを頼らずに行動してほしいわよね」
ジスレニスとバトアンはそう言う会話を交わすのであった。




