「バトアンは、人気者ね」
ジスレニスとバトアンはすくすくと大きくなっていった。
王宮での一件で、ジスレニスは『毒食』スキルを行使して、毒を取り除くということを行った。その一件以来、王妃や第一王子たちにも気に入られ、第二王子とも少しずつ仲良くなり、時々王宮に顔を出すようになっていた。
ちなみに第二王子の婚約者の座を望んでいる令嬢たちには大変嫉妬されたわけだが、ジスレニスは割と図太い性格をしているので、そういう風に嫉妬されてもどうでもよさそうにしていた。
ジスレニスとバトアンも、少しずつ子供同士のお茶会などに顔を出して友人というものをふやしていっていた。もちろん、『毒食令嬢』として有名になっているジスレニスに近づかないようにする子息令嬢も多かったが、ジスレニスを『毒食令嬢』と知った上で仲よくしてくれる人たちに関してはジスレニスは感謝しかない。
「はぁ、美味しい」
「本当にジスレニスは美味しそうに食べるな」
ジスレニスは、シェーガリン公爵邸で美味しそうに毒蜘蛛を食べていた。猛毒の含まれているそれをただ焼いただけのものである。足が八本ある蜘蛛を美味しそうに食べるジスレニス。初対面の人が見れば悲鳴を上げそうな光景だが、バトアンはにこにことしながら見ている。
その様子を脇で控えながら見ているデジェは面白そうに二人の様子を見ている。変わっているけれども仲よさそうな様子の二人を見るのがデジェは好きだったりもする。
「ねぇ、そういえばバトアンに婚約の打診結構きているんでしょ?」
「……あー。まぁな。というか、婚約者がいるのに婚約者の打診をしてくるとか馬鹿だろう」
「私が『毒食令嬢』と呼ばれているから、自分なら――って思っているのかもね」
バトアンは中々の美形に育ってきている。もっと大きくなればバトアンは益々もてることになるだろう。
『毒食令嬢』と呼ばれているジスレニスには、あらゆる噂を流されたりといったこともよくある。ジスレニスという悪い存在にバトアンが騙されているのではないかとかそういう風に面と向かって言ってくる人だっているぐらいである。
ジスレニスはまじまじとバトアンを見る。
(バトアンって、はじめてであった時よりもかっこよくなってきている。それに私の趣味を受け入れてくれるぐらいに心が広いし、公爵家の子息だし……。ファブノワ兄様もかっこいいけれど、私にはバトアンが一番かなぁ)
そんなことを思いながら、ジスレニスはバトアンが自分の婚約者であることを嬉しそうに笑っている。
「ジスレニス、何笑っているんだ?」
「バトアンが婚約者で良かったなって。本当にバトアンは人気者ね」
「……ジスレニスも、前に絡まれてただろう」
「でも私が『毒食令嬢』だって知ったら逃げたよ?」
「ジスレニスは全然その趣味を隠さないからな」
ジスレニスは自分の趣味を全く隠さない。一応パーティーの場などでは聞かれるまではそのことは公には言わないようにしているが、大体『毒食令嬢』であると言う噂は広まってしまっている。
「ジスレニスも見た目が良いからなぁ」
「ふふ、本当? バトアンも可愛いって思っている?」
そう問いかけながら、ジスレニスはじーっとバトアンを見る。
バトアンをからかうようにそういうことを問いかけることがよくある。
バトアンは何を聞くんだと言う表情を浮かべている。そんなバトアンのことをジスレニスはじーっとずっと見続ける。
そうすれば、バトアンは諦めたような表情でぼそりと言う。
「可愛いと思ってる」
「ふふ、どこが? どういうところが可愛いって思っているの? 私はね、バトアンの一番良いところは心の広さだと思う。私の変わった部分を受け入れてくれるし、私の話を最初から嘘だって言わずに信じてくれた」
ジスレニスはバトアンのことを褒める言葉を口にする。
「それに見た目もかっこいいし。私、バトアンの見た目かっこいいなって思う。それに剣の練習しているところもまた違った感じでかっこいいなって思うし」
「……そんなに褒めるな! 照れるだろ。俺は、そうだな……。ジスレニスは好きな者には一直線なところが……その、可愛いと思う」
「他には?」
「……あと今みたいに、真っ直ぐに俺の好きなところを言ってきたりとか、そういう素直なところもいいと思うし」
「ふふ、見た目は?」
「滅茶苦茶俺にいわせようとするなぁ」
「聞きたいからね」
「……えーと、見た目も可愛いと思う。毒を見た時とか、俺にこうやって聞いてきてる時とか、目がキラキラしていて可愛いって思う」
「他は?」
「もうこれぐらいでいいだろ! 恥ずかしい」
照れたように言ったバトアンは、そこで話を切った。
そんな風に照れた様子のバトアンを見て、ジスレニスは楽しそうに笑い声をあげている。
そんな感じで、二人の日々は過ぎていく。




