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「これ、毒入りなので食べない方がいいです」



「よく来てくれたわね。お二人とも。この前はインエルが悪かったわ」



 ジスレニスとバトアンは、突然そんな風に王妃に言われ、恐縮した様子を見せていた。

 王妃はジスレニスの毒食という趣味を知っていても、それに対して何か言うような人ではないらしい。そのことにジスレニスはほっとする。


 自分の毒食の趣味は、決して人に迷惑をかけるような趣味ではないとジスレニス本人は言える。だけれどもその名前からして周りから忌避されるようなスキル名である。

 それでもこうして笑いかけられると少しだけ嬉しかった。




 その隣ににこにこと笑っている王太子と、ふてくされている第二王子の姿がある。

 ジスレニスとバトアンは、貴族の子息令嬢としての挨拶をする。



「ほら、インエルも謝りなさい」

「ふんっ」

「こらっ」


 王妃に注意をされて、気まずそうな顔をしながら第二王子が謝罪を口にする。



「悪かったな! 俺が仲よくしてやってもいいぞ!」

「その言い方だとまずいよ。すまないね。インエルは今まで友達がいなくてね。君たちみたいに王族であるインエルにもはっきり言える子は珍しいからね。是非仲よくしてほしいのだが」


 何故だかこの前の一件で、仲よくしたいと思われているようだ。



(王族だと自分の言うことを聞いてばかりのイエスマンばかりだったってことかなぁ。私としては仲良くしたいとは特には思えないけれど)



 そう思いながらジスレニスはちらりっとバトアンを見る。

 バトアンは結構はっきりとしている性格をしているので、ちゃんと謝られるのならばバトアンは仲良くしそうな雰囲気があった。

 実際にバトアンは「分かった。ただ、ジスレニスにああいうことはもう言わないでほしい」とそう口にして和解していた。

 ジスレニスもそれを見て、仕方がないなという気持ちで第二王子の友人になることにする。




「本当に君はインエルに興味がなさそうだね。同年代の令嬢だと、大体がインエルの婚約者を狙っている子が多いから、インエルも落ち着かないみたいなんだよ」

「婚約者がいるのにそういう座を望むわけがないでしょう。私は第二王子殿下には異性として関心がありません」



 あまりにもはっきりジスレニスが言うから、王太子と王妃は爆笑していた。第二王子は憤慨した様子である。



「なんだ。お前の婚約者、失礼じゃないか!!」

「ジスレニスはよくもわるくもはっきりしていますから」

「もっと砕けた口調でいいぞ!」

「後から不敬罪とか問われないのならば、ため口にします」

「友人になったのに、そういうことを言うわけがないだろ!」



 バトアンと第二王子は仲良く会話を交わして、ため口になったらしい。

 そんなこんな仲良く話している中で、侍女からクッキーが運ばれてくる。ジスレニスは自由に食べていいと言われていたので、喜んでクッキーを口に含む。





「あ」



 そして口にした瞬間、小さく声をあげる。





「どうかしたのかしら? 変な顔をしているわ」

「えっとですね……、これ、毒入りなので食べない方がいいです」



 王妃の問いかけにジスレニスがそう答えた瞬間、その場が固まった。

 クッキーを持ってきた侍女なんて「えぇええ? 毒?」と困惑した様子で声をあげている。その様子からするとただ持ってきただけで、それ以上の情報は知らないように見える。



「本当に毒なんて入っているのか? 匂いも普通だが」

「王太子殿下、あんまり触らない方がいいです。この毒は肌からでも効果が出ます。一見すると毒が含まれていないように見えます。五感があてにならない系の毒ですね。しかも毒見役にも気づかれない可能性がある希少な毒です。ちなみに小麦粉に含まれた後に、時間が経てばたつほど効果が出やすくなるものですよ。なので毒見の方は今は元気かもですがこの後倒れるかもなので、こっちに連れて来てもらった方がいいかもです。この毒は国内だとあまりないと思います」


 その話を聞いて、慌てて毒見役の元へ使用人が向かう。


「なんでそこまで情報に詳しいの?」

「食べたいと思って調べました。お父様にこの毒の元である植物を手に入れたいといったけれど、難しいって言われましたもの。はぁ、美味しい……。もう、これ全部毒入りかもって思って、私、全部食べちゃっていいですか?」




 ジスレニス、予想外の貴重な毒の味に嬉しそうににこにこ笑って問いかける。その無邪気な笑みに、思わず王太子たちは頷きそうになったが、首を振る。



「証拠として押収したいから全部食べるのはやめてほしいかな」

「……そうですか」


 少ししゅんとした様子のジスレニス。



 そんなところに毒と聞いて固まっていた第二王子が口をはさむ。




「毒!? 全然匂いも何もないぞ! ジスレニス、嘘じゃないのか?」

「嘘じゃないです」

「だってこんなにおいしそうなんだぜ。もーらい」

「あ」




 毒が入っていると言っているのに、第二王子は毒入りクッキーを食べてしまう。

 そしてそのままばたりと倒れてしまった。同じころ、毒見役も倒れたと周りが騒がしくなる。




「ちょっと『毒食』のスキル使いますね!」



 ジスレニスは泡を吹いて倒れている第二王子の手に触れ、『毒食』スキルを行使する。



 『毒食』のスキルとは、その名の通り、毒を食べるスキルである。そしてそのスキルは、動植物の中に含まれている毒を直接抽出する事が出来るスキルでもある。それはすなわち、毒を食べてしまった人から毒を取り除けるということである。これはスキルを使えばその毒が直接ジスレニスの身体に入るものである。



 ジスレニスがそのスキルの有能性に気づいたのは、スキルについて大神殿で正確に確認してもらった時である。もしかしたら出来るのではないかと、やってみたところ、毒を取り除くことが出来た。なので今回、そのスキルを行使したのだ。


 次にジスレニスは倒れた毒見役にも『毒食』スキルを使用するのであった。



 ちなみにだが、ジスレニスはこの『毒食』のスキルは有能だと思っているが好んではいない。ちゃんと口から食べて毒の味を楽しめる食事の方が好きだったりする。




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