「どうして、呼ばれたのかしら」
「第二王子殿下、お初におめにかかります。ジスレニス・シャロンティアです。私が第二王子殿下のお探しの『毒食令嬢』です」
じっと、こちらに視線が向いていた。……というのもあり、ジスレニスは恭しく第二王子の元へと近づき、挨拶をする。
第二王子の想像をしている『毒食令嬢』と、ジスレニスの見た目が異なっていたのだろう。一瞬だけぽかんとした表情をする。
「お前が『毒食令嬢』? とてもそんな風には見えないぞ! 嘘を言っているんじゃないか?」
「そんなことを言われましても……」
『毒食令嬢』というのは、ジスレニス自身が名乗ったものでは決してない。ジスレニスがそう呼ばれているのは、あくまで周りからそう呼ばれているというだけなのだ。
ジスレニスは、周りからは嫉妬の目で見られたりするし、第二王子は面倒な絡み方をしてくるし……で、うんざりした気持ちになっていた。
ジスレニスは見た目だけ言えば、とても愛らしい深窓の令嬢である。大人しそうに見えるジスレニスが『毒食令嬢』だなんて第二王子は思えなかったらしい。
「本当に『毒食令嬢』だと言うなら毒を食べて見せろよ」
「此処に毒を持ち込んでいないので無理です。また私は見世物ではありませんので、そういう風に見世物になるために食べるのは遠慮したいです」
「なっ、俺は王子だぞ!」
ジスレニスが毒を食べるのは、あくまで趣味である。それ以上の何者でもない。誰かに見せるために、何かの見世物として食べることをしているわけではないのだ。
趣味をこんな風にからかわれ、見世物にすることを望まれるのは正直嫌な気持ちになるのも当然であった。
(そう考えると、本当にバトアンは私の毒食を趣味として受け入れてくれているんだ。やっぱりバトアンのことが好きだなぁ)
ジスレニスは目の前の第二王子と比べて、自分の婚約者はとても素敵だなと実感して思わず小さく笑ってしまった。
「第二王子殿下、私の婚約者が困っているのでその位にしてもらえないでしょうか?」
「なんだ、お前。この『毒食令嬢』の婚約者なのか? 趣味が悪いな」
「……その発言は、私にも私の婚約者にも失礼かと思います」
第二王子相手なので、バトアンは少し丁寧な口調をしている。その様子にジスレニスは新鮮な気持ちになりながら楽しそうだ。第二王子に関する関心はほぼない様子だった。嬉しそうにバトアンのことだけを見ている。
第二王子は毒食をしないジスレニスにも、反抗的なバトアンにも嫌そうな顔をしている。
「なっ、お前ら俺を誰だと思っているんだ?」
「第二王子殿下だと思った上で発言しています」
バトアンの発言に、カッとした表情を浮かべる第二王子。
そして顔を真っ赤にさせた第二王子は、バトアンへと殴り掛かる。
ジスレニスは「あっ」と思った。
バトアンはその拳を受け止める。第二王子相手にこれ以上の反撃をしていいのだろうかとバトアンが思案している中で、警備の騎士たちがやってきて、二人とも取り押さえられる。
子供同士のことだということで、幸いにもお咎めをされることはなかった。
そもそも第二王子の方から手を出したことや、挑発的なことを言ったことは周りにも確認されているので、第二王子の方が怒られていたようだ。
まぁ、ジスレニスやバトアンにももう少し言い方などをどうにかできないのかといったことは注意されたが。
「第二王子、結構傲慢な感じの人だったね」
「ああ。ジスレニスを見世物にしようとするなんて嫌な奴だ」
「ふふ、私のために怒ってくれているの? ありがとう!」
帰りの馬車の中で、ジスレニスとバトアンは楽しそうに会話を交わしていた。
二人にとってみれば、第二王子のことはもう頭にはないらしい。
「でも学園に入学したら第二王子たちとは関わらなければならなくなったりするのかなぁ。その時までにもう少しああいう言い草しないようになってたらいいけれど」
「同年代だから会うことはあるだろうな。でもこれから教育がきちんとなされるならそういうことは起きないんじゃないか?」
「そうだといいけれど……。何にせよ、私とバトアンは第二王子の友人候補としては不合格だろうし、呼ばれることはないだろうね」
――と、そんな会話をジスレニスとバトアンはしていたわけだが。
「どうして招待状が来るのかしら」
何故だか、ジスレニスとバトアンに対して、王家からの招待状が届いた。第二王子からというよりも、王妃や第一王子が決めたものらしい。何故、呼ばれてしまったのかジスレニスにもバトアンにも不明である。
「どうして、呼ばれたのかしら」
ジスレニスは行きの馬車の中で不思議そうな表情を浮かべている。隣に座るバトアンも、何で呼ばれたのだろうかと不思議そうだ。
「どうして呼ばれたかはわからないけれど、まぁ、乗り切ろう」
「うん!!」
ジスレニスは何を言われるのだろうかと正直思っているが、それでもバトアンと一緒に行けるのならば嬉しいなと笑っている。




