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「あ、この味、知っている」




 ジスレニスは、シャロンティア伯爵家の娘である。

 その王国の中でそれなりに位が高く、事業を成功させている貴族家である。



 ジスレニスは、シャロンティア伯爵家の長女で、水色の髪を腰まで伸ばした大人しい令嬢である。母親が二年ほど前に亡くなってから、癇癪を起こしたりもしている。――そういう何処にでもいる五歳の少女だった。



 多忙で、家を空けることも多いシャロンティア伯爵が一人の女性と再婚をしたのはつい先日の話だ。

 その新たなシャロンティア伯爵夫人は、愛らしい見た目をして、心優しい女性だとささやかれている。



 だからこそ、誰もが新たなシャロンティア伯爵夫人を迎え入れ、ジスレニスにも新しいお母さんが良い人で良かったねなどと口にしていた。

 ジスレニスには、二年前に亡くなった母親の記憶がそこまであるわけではない。けれども確かに記憶に、自分にとってのお母様は残っていた。

 身体が弱く、ベッドに横になっていることが多かった。

 だけれどもいつだってジスレニスに向かって優しく笑いかけてくれていた人だった。

 そしてその頃は、シャロンティア伯爵も屋敷に居た気がする。そういう幸せだった頃の家族を、なんとなくジスレニスは覚えている。

 



 ――そう、だからこそ、ジスレニスは最初、新しいお母さんを受け入れられなかった。




「あんたなんてお母様なんて認めない!」

 そう口にして物を投げたこともあった。



 優しく笑いかけられ、一緒に散歩に行こうと誘われ、

「いやっ」

 そう口にして手を払ったこともあった。



 その様子を昔からジスレニスを知っている使用人たちに咎められたとしても、ジスレニスはその態度を変えなかった。





「ジスレニスちゃん、私は貴方と仲良くなりたいの」

「いいのよ。新しいお母様に戸惑っているだけなのよね」



 でも新しいお母さんは優しい人で、ジスレニスがどういう態度をしてもジスレニスに笑いかけるような人だった。その結果、ジスレニスは、本当に少しずつその警戒心を解いていった。



 ジスレニスがどれだけ冷たい態度をしても、拒絶しても、新しいお母さんは歩み寄ったから。



 だから、ジスレニスは……、


「ユヤお母様」


 と、そんな風に新しいシャロンティア伯爵夫人――ユヤミアネをそう呼ぶようになった。






 前妻の忘れ形見であるジスレニスにも、使用人たちにも心優しいと新しいシャロンティア伯爵夫人は噂されるようになった。まるで優しくて、聖女か何かのようだと揶揄され、お茶会の場でも話題に上がっていく。

 裏の顔を暴こうと、他の夫人たちが嫌味を言っても、優しく微笑んでいた。

 シャロンティア伯爵夫人は、味方を作るのが上手かった。

 


 家を空けることが多いシャロンティア伯爵に代わり、シャロンティア伯爵家を掌握するのもすぐのことであった。なんせ、そのシャロンティア伯爵夫人の人柄はシャロンティア伯爵邸を取りまとめている家令たちにも認められていったから。

 そしてシャロンティア伯爵夫人は、実家に仕えていたり、知り合いだったりする侍女や執事たちも徐々にシャロンティア伯爵家に雇い始めた。


 元々シャロンティア伯爵夫人は、下級貴族の出である。実家にいた頃から仕えてくれている侍女や執事とは親しくしているらしい。シャロンティア伯爵夫人がいうならと、雇い入れられていった。




「ジスレニスの部屋はあの日当たりが良い部屋にしましょう。ジスレニスの好みに合わせて家具も新調したからね」


 すっかり本当の親子の様に仲良くなって、シャロンティア伯爵夫人はジスレニスを我が子のように扱うようになっている。その様子をまわりは嬉しそうに見ている。





 とても幸せで、幸福な光景。

 血の繋がりがなくても、そこにいるのはまるで本当の親子のよう。




 








「あれ……?」





 さて、ジスレニスは自室で食事をとっていた。

 というのも、すっかり社交界で有名になっているシャロンティア伯爵夫人は外出することも増えていた。

 わざわざ一人で広い食堂で食べるのは……という話になり、部屋に持ち込まれることになっていた。




 ジスレニスの担当になっているのは、新しく雇われた侍女である。というのも元々のジスレニスの担当の侍女は結婚が決まり嫁いでいったからだ。その後、シャロンティア伯爵夫人から信頼の厚い侍女がジスレニスの担当になった。





 ジスレニスはお肉を口にして、思わず小さな声をあげた。その声は幸いにも傍に仕えている侍女には聞こえなかったらしい。




 口の中に広がる、ピリピリとした感覚。

 それを、ジスレニスは知っていた。







(あ、この味、知っている)




 ジスレニスはそう思った。




 そして次に思ったのは、


(これは前世で散々食べた毒の味だ)





 そう実感すると同時に、ジスレニスは前世の記憶を思い出した。




かきたくなったので書きだしています。

短めで終わる話の予定です。

タイトルはもしかしたら途中で変えるかもしれないです。

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